【ライブレポ】透色ドロップ「透色の秋 全国ツアー2022」 大阪公演
初めて見たのが昨2021年夏の対バンライブ。
掴みどころがなく、どこかふわふわとしてるような印象だった透色ドロップは、今や感情を隠すことなくさらけだす、血の匂いまで伝わってきそうなほど人間らしいグループという印象に変わりました。
2022年10月23日、7人組アイドルグループ・透色ドロップが阿倍野ROCKTOWNにて全国ツアー「透色の秋 2022」大阪公演を開催しました。
9月の頭に始まった東京公演を皮切りに地方5都市を巡って11月19日に再び東京に帰ってくる、グループ史上最も期間が長く、最も大規模なツアーの後半戦、5会場めとなります。
中盤のMCで、もう1カ月を切ったツアーファイナルへの意気込みを何人かが語っているときでした。
トップバッターは天川美空さん。
5月に梅野心春さんが加入してくるまで長らくグループ最年少だったメンバーです。
マイクを取って話し始めた途端、何かが決壊したかのように涙が溢れだしました。
喋り出すときに緊張でマイクを持つ手が震えたり、気合が入りすぎて畳みかけるように気持ちを伝えるメンバーが多い中、どんな場面であっても力が入りすぎることなく泰然自若とした(ように見える)天川さんは緩衝材のような存在でした。
この日も直前のやり取りではハロウィンのコスプレに触れ「いつもは人間のコスプレをしてるけど普段はウサギだから」などと言っていて、そういう冗談もなんだか納得してしまうようなフワフワした可愛らしさがあるのが天川さんなのですが、意外にもその天川さんが誰よりも先に泣き出したのです。
思いが溢れたのは、後を継いだ他のメンバーもでした。
「ツアーで各地を周り、そのたびに求められることの大きさを実感する」
去年はツアーがなく、12月の単独公演のために日々を過ごしていたのですが、今年は5-6月、そしてこの秋と全国ツアーを行い、多くの過程を経ることでより集大成への思いが強まってきたといいます。
それだけに、残す地方の宮城公演もファイナルも絶対来てほしい。
「一生忘れられないライブにする」と語ったメンバーもいました。
総集編のようなMCは、既にツアー楽日の雰囲気でした。
「ライブ一生懸命やってる?と聞かれても自信をもってそうだと言い切れる」
自分の番になって、橘花みなみさんは語気を強めます。
単独でも対バンライブでも一切手を抜かないというのですが、言っている以上にこれは難しいはずです。
月に1本か2本ほどのミュージシャンならともかく、平日休日を問わず常にライブでスケジュールが埋まっているようなライブアイドルにとって、日常に没してしまいそうなライブへの気持ちを燃やし続けるのは、相当のエネルギーが必要であろうと思います。
ただ、橘花さんが「いつも全力で」と言ったのはこれが初めてではありませんでした。
場面の大小にかかわらず事あるごとに口にしていますし、実際パフォーマンスではその振りの鋭さなどで表現しています。
橘花さんだけでなく、他のメンバーもどうやったら目に焼き付けられるかをそれぞれの方法で模索しているのが伝わってきます。
その中で目立つのが、どのメンバーも割と自らの弱さやナマの感情をSNSなりMCなりでさらけ出しているということでした。
初見の人が少なくて悩んでいるとアイドルオタクに意見を求めたひともいました。
透色ドロップ。
色々知っていくと、実に人間くさいグループだと自分は思います。
外側だけを見てみれば、「可愛い」を突き詰めることもできれば綺麗なスタイルにモデルチェンジも出来るビジュアルのメンバーぞろい。
曲も良く、ダンスも綺麗なことから「良いグループだよね」なんて声も内外から漏れ聞こえてきます。
ライブで頻繁にかかる曲に限定すれば、一癖ある曲もなく第一印象を崩してしまうような意外性の曲もないので、表面上だけをなぞっているととても整っているグループという印象なのですが、その実は劣等感の塊を自認するメンバーがいたり、「自分のことは嫌いだ」と告白する人もいたり、心に抱えているものはかなり深く、そして黒々としています。
3月の単独公演「瞬間的記憶」でグループに感じた”儚い”印象は今も通底していますが、あれからメンバーと特典会で話したり、よりライブやSNSでのコメントに注目したとき、フィクション的な儚さだけでなく、リアルを生きるメンバーの心のひだみたいものが多少なり分かってきたような気がしました。
アイドルというファンタジックな世界と、どうしても薄味で嫌になってしまう現実世界との隙間での葛藤です。
アイドルとは生き様だと、自分は思っています。
それを表現する方法が曲なのか身体表現なのかはそれこそグループによって様々だと思うのですが、透色ドロップに関しては弱さを隠さず、何にも投影されないそのままの姿に、生き様を見ました。
自らを認められない感覚は自分も大いに持っていますが、キラキラした舞台に立つ人が同じような弱みを持っていることを明らかにしてくれると、それだけでなんだか身近に感じるものです。
実感をともなって強く共感した時、曲やダンスが引力をもってこちらを惹きつけてきます。
冒頭の天川さんの涙や、つられて言葉に詰まるメンバーを見た後のラスト5曲のブロックは、盛り上がる楽しい曲ばかりでした。
しかし、この楽しさは悲しさや辛さをを大きな心で包み込んだ上に立っているのだと思うと感傷的な気分になってしまいます。
この大阪公演ではネガティブなところも含めた透色ドロップの体温が伝わってきましたが、それでもこの日はプラスな感情のまま終われたのではないでしょうか。
目に見える結果としても、たちあらわれてくる感情としても、一人一人の心の中にはひとまず何か壁を超えた感覚はあったはずです。
決して狭くない会場は、手前から奥までぎっしりと埋まりました。
「人気を数字ではかることしかできない」この業界で、完売でこそありませんが満員と呼ぶにふさわしい埋まり具合は強い説得力をもちます。
ライブも熱く、かつての大阪公演では「自分たちはもっとできるはず」と皆で涙したそうですが、その時よりも明らかに手応えを得たたような顔つきでした。
「今日はどれくらい新規の人がきてくれるだろうか」
特典会が終わり、メンバーはふと自分の腕が汚くなっていることに気付きます。
その日新規でやってきてくれたお客さんの名前が、左腕にはびっしりと書かれています。
初めて来てくれる人のことを覚えておくために、腕や手に名前を残しているのです。
汚くなったのは、それだけ初見さんの対応をしたという証拠でした。
楽屋に帰って改めてメモか何かに名前を清書して腕の汚れを消すとき、疲れを吹き飛ばす達成感を得るのでしょう。
ーーー
会場のROCKTOWNは天王寺駅から直結のショッピングモール、阿倍野キューズモールの4階にあります。
モールの中にライブハウスがあるというのがピンとこず、敷地内とは言ってもモールとは少し離れたところにあるのだろうと思っていた自分は、服や雑貨のお店が並ぶ北側の3階から上がってすぐの、ご飯屋さんの真横に会場があることに驚きました。
日曜の夕方ということもあり人が絶えなかった天王寺駅からモールまでのペデストリアンデッキからもほど近く、買い物客の日常の中に非日常の空間がごく当たり前のように溶け込んでいるのが不思議な感じがします。
チケットもぎりの受付もドリンクカウンターも飲食店に面したオープンスペースの中にあり、ライブハウス特有のクローズドな雰囲気がまるでありませんでした。
買い物ついででも、その気になったらふらっと入れそうな気がします。
開場を待つ間、その手前のスペースで適当な間隔をとりながらたくさんのファンが立っていましたが、そんなオープンな立地のため、いつものライブハウス前で生まれるはずの、一般人との明確な境界線は曖昧になっていました
高校時代の最寄り駅として天王寺駅を利用し、放課後には毎日のようにキューズモールに入り浸っていた瀬川奏音さんにとってはお仕事で訪れるのは初めてでした。
「メンバーと来ているのが不思議な感覚」だと言います。
いつもは芯まで標準語で、すっかり都会に染まっちゃって…と自虐していましたが、久々に地元の空気に触れ、この日は若干抑え気味だったものの関西風のイントネーションが出ていました。
あまり大阪を知らないほかのメンバーに、どこ行きたいと聞いても梅田とか心斎橋とかよく聞く場所しか出てこず、「天王寺だって大きいからね!」と言っていましたが、自分も天王寺に対しては動物園があるくらいの知識で、まさかここまで大きな商業都市だとは思いませんでした。
翌日以降は寒くなりましたが、この日は気温も高めで天気も良く、非常に過ごしやすい気候でした。
高さにゆとりがある場内に入ると、暑すぎる訳でもなく、外の過ごしやすさをそのまま引き継いだようなちょうどいい温度となっています。
開演時間は17時15分。
ほぼ定刻に、地鳴りのようなSEから始まったこの日のライブを、セットリストを順に追いかけていこうと思います。
なんだか久しぶりにみるような気がしたTIFで初お披露目の特別衣装。
今ツアーの衣装でもあります。
丈が短めの半袖という格好は、秋も深まっていくこの時期に見ると、真夏の暑い盛りに感じた印象とはまた別の種類の涼しさがありました。
口火を切ったのは「キュンと。」でした。
「大阪でのライブはノリが良くて楽しい」
フランクな口調の親しみやすそうな土地柄の大阪、実際そうした雰囲気はステージの上からでも嗅ぎ分けられるようです。
ツアー大阪の告知をするメンバーの文章には「楽しい」とか「ノリが良い」とかいう言葉がハイライトされていました。
序盤はまさにそのノリの良さを最大限活かしたようなステージでした。
メンバーの顔を見れば、いっぱいの笑顔が広がっています。
メンバー同士のアイコンタクトがいつもに増して多く、こちらに向けられた視線でなくとも、そのやり取りを見ているだけで満たされます。
笑顔の中には、やっと大阪でライブができるという喜びも混ざっているように見えました。
いつも遠征する時はその地での対バンライブもセットになっていて、例えば日曜がツアーであれば前日の土曜あるいは金曜に前のりして何がしかのイベントをするというのが通例なのですが、今回の大阪に関しては土曜に前乗りしたものの対バンには出ず、唯一のイベントは私服特典会だけでした。
金曜に都内でのイベントに出ているので、歌って踊っての機会としては格段ブランクが空いた訳でもないのですが、こと遠征の地にも関わらず暖かく迎えてくれてよそ者感をなくしてくれる大阪だからこそ、ライブに飢えたような状態になっていたのかなと邪推しています。
「りちりち」はまだ3曲目ですが、このあたりから季節相応の長袖も暑苦しくなってくるくらい、会場の温度も上がっていきました。
自分はこの勢いにとにかく振り落とされまいと、いつもより振りコピを多めにしながら見ていました。
いつもより速く進んでいくライブに、なんとか追いつこうと必死です。
メンバーを見れば、フロアに対してついてこれるのかという挑戦的な目つきをしているようにも見えました。
マイクを通して聞こえてくる音はいつもライブハウスで耳にするのとは違った感じで、フィルムを1枚噛ませたような音でした。
照明はセンターをことさらに強く照らしていて、そこに立つメンバーだけ青や黄色、オレンジなどはっきりとした色に染めています。
センターという位置が流動的な透色ドロップのフォーメーションであっても、他とは区別されるように真ん中だけ光っていると自然と目が行きます。
流れの中でメンバーがフロアの片隅に目線を固定し、うなづく場面が何度かありました。
その時に見せた笑顔は、恐らくリハーサルなどでは用意していない、その場で対話した末に生まれたような表情でした。
MCを挟み、「自分嫌いな日々にサヨナラを」から始まった中盤戦は一転、メッセージをじっくりと伝えるブロックでした。
冒頭に書いた透色ドロップの人間くささはまさにこの曲に凝縮されていて、歌詞を読んで救われた気持ちになったメンバーもいたはずです。
パフォーマンス中は聴いている我々に歌っているようで、自身にも言い聞かせているのでしょう。
ハモリがハモリとしてしっかりと聞こえるようになったのもここ最近の変化です。
「予想図」では水玉模様の大きな暖色系の照明が隅々まで照らしていました。
いつもライブは下手か上手かに寄り気味の所で観ていて、真正面から見ることがほとんどありませんでした。
この日は視界も良さそうだったのでセンターゼロズレの位置に行ってみたのですが、印象的だったのが「ユラリソラ」でした。
縦3列のメンバーが揃って同じ動きをするとき、頭上に掲げた手がメンバーごとに絶妙に違った動きを見せいて、それをちょうど正面から見たとき、風に揺れる柳の葉のような不規則な揺らぎになっていました。
動きが揃っているとこれまで散々書いていましたが、見る角度を変えると、手首の曲げ方やそのタイミングまで各自で微妙に変えていることが分かります。
いつものごとく横に寄って見ていたら気づかなかったと思います。
MCでの天川さんの涙を経て、いよいよ後半戦に入ろうかというとき、佐倉なぎさんが言いました。
「いよいよラストのブロックです!まだあの曲やってないとか思っているかもしれませんが...!」
そう言いながら、粛々と最初のフォーメーションが出来上がっています。
声の主、佐倉さんはセンターに立って背中を向けました。
「夜明けカンパネラ」が始まろうとしています。
クラゲがぷかぷかと浮くときの擬音か、水平線の向こうにいる船の音か。
未だに分かりませんが、イントロ前の遠くからやってくる長めの音が聴こえてくるまでに時間があったような気がしました。
その直後、鐘が鳴ってイントロに入り、佐倉さんがこちらを振り返るのですが、それを待つ間うずうずしているように見えたのはあるいは今か今かと待つ自分の心境だったのでしょうか。
フォーメーションを移動するときの動きは、ステップというより跳ねているように見えました。
ここの動きだけでも楽しんでいるのが伝わってきます。
冒頭で「充実のライブだったはずだ」と半ば断定したように書いたのは、テンションの高さがそのまま現れたようなこうした動きを何度も目にしていたからです。
「皆さん大好きなこの曲を」
最後の曲となり、瀬川さんがこう言いました。
既にギターの目の覚めるようなソロから始まるSEが流れてきていて、何が来るかを予感した場内がざわめきだしています。
始まったのは「だけど夏なんて嫌いで」。
5,6月の2カ月間にわたった前回ツアーから持ち曲に加わった夏曲です。
梅雨に入る前のあの頃はまだ生まれたての新曲でしたが、季節が過ぎたころにはもうすっかり定着したことがこの一言で感じ取れ、その過程を追えたことに感慨深くなっていました。
振りかえってみれば、動から始まって静を経てラストは動へという、曲が増えたことですっかり確立された透色ドロップの王道パターンの構成でした。
直前のブロックのことをわすれてしまうほどに振り切ってしまえるのは見事です。
大阪のノリの良さに助けられながらも、そこに寄りかかりすぎることもせず、中盤で落としてからラストにかけてまた熱を上げていく。
MCで予定外にしんみりしてしまったにも関わらず、ラスト5曲で再び会場が熱を帯びていき、前半の勢いをしのいでいったのは、透色ドロップの今の地力を表していると思います。
「金銭的なこととか、時間とか、大阪からの遠さとか。色々事情があるだろうけど」
11月19日のツアーファイナルの告知で、橘花さんは言います。
「その予定をこじ開けてでも来て欲しい」
500kmという東阪間の距離を縮めるような勢いのライブでした。
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