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【ライブレポ】アップアップガールズ(仮)12th Anniversary ~Persist to Live~

Persist」という言葉を辞書で引くと、真っ先に「持続する」や「貫き通す」なんていう訳が出てきます。
一貫しているとか、こだわり続けるというニュアンスがこの単語には含まれているようです。
なじみが深いのは名詞形の「Persistence」というほうでしょうか。

5月3日、よく晴れたGWの新宿。 
青や赤のレーザー光が煌めきを放ち、頭上にはミラーボールが光っています。
フロアには赤や青、緑やピンクの原色Tシャツと、同じ色のサイリウムが、フロアのちょっとした隙間も気にさせないほどに揺れていました。
照明が影を生んだ時、ステージに立つ6人の姿はシルエットになり色を失います。
手数が多いわけではないものの複雑なダンスは、やけに清潔感がありました。
ちょっとしたきしむ音すら聞こえてこないほどの滑らかさが、スッキリとした印象を与えます。
首を振る振り付けのたびに髪の毛は、それぞれの長さや質量に応じてパラパラと重力に従っていき、その間から覗く、吸い込まれるような目つきは暗がりからでも一目瞭然でした。
照明と動きがすっかり連動しているように見えます。

うわぁ...と圧倒される間もなくメンバーは今度は距離を一気に詰めてきます。
観客の声を煽りに煽るのは、鈴木芽生菜さんが担当することが多いようでした。
「まだまだ足りない!」
上手にいる鈴木さんに対し、下手側の古谷柚里花さんは位置だけでなく口調も鈴木さんと対照的です。
「いいね!もう少しいけますかー!」
強気な鈴木さんと、優しめな古谷さん。


もちろん他のメンバーも煽りに加わります。
紫がメンバーカラーの青柳佑芽さんは、MCの時から喋るときの圧がすさまじいなと思っていました。
発音も強めです。
ただ、なにも彼女が異端というわけではなく、むしろ青柳さんのぐいぐいとくる姿勢こそがこのグループの在り方そのものでしょう。

住田悠華さんの場合はそれが目力でした。
まつ毛の上がり具合まで見えそうなほど開かれた目には、何かを訴えかける力がありました。
縦に連なった両脇のスピーカーは、頭を痛めつけんばかりに主にEDM調の音楽を叩きつけてきました。
難易度の高い低音パートが目立つ曲がどこかにあったと思うのですが、小山星流さんはしっかりと音をとらえています。

気が付けばその中で握りこぶしをつくり、身体を曲げて大声を絞り出している自分が居ました。
自らの意志には間違いないのですが、自分が自分ではないような気がします。
アップアップガールズ(仮)、通称アプガのライブに行くのが久しぶりにも関わらず、大声を出して踊ることに遠慮というものをまるでしていないことへの驚きと戸惑いがあったのです。
それもそのはずでした。
こんな体験は、少なくとも日常にマスクが何の違和感もなく溶け込んでからはしたことがありませんでした。
久しぶりの体験です。

コロナによる規制が解除されだしてから気付いたことがあります。
当たり前のことですが、「声は出しても出さなくてもいいんだ」ということ。
20歳そこそこだった何年も前には声を枯らしてナンボと思っていた節もあったのですが、コロナになって声を出さないことが当たり前になるうちに、ライブの見方も変わっていきました。
その環境に慣れきったところで再び声出しが解禁されても、かつてほど意気込むことがなくなりました。
それどころか「さほど張り切って出さなくても」という怠けの精神が顔を出してすらいます。

個人的な考え方の変遷とも思えますが、そうでなくとも今はライブの過渡期で、他の方々の間でもいろんな考え方が渦巻いていると思います。
コロナからアイドルのライブに通うようになった方もたくさんいらっしゃるでしょうし、その中の「アイドルの歌を聴きに来てるんだから」という意見は真だと思います。
この日のフロアも、みなさんが声出しに加わっていたかというとそういうわけでもなさそうでしたし、出す人は配信のマイクに乗るほど出す一方で、出さない人はほとんど出さないという状況。

自分は数年ぶりのアプガのライブで、1/3くらいは知らない曲でした。
久しぶりだからという言葉をエクスキューズに、おとなしく見ている可能性だってあり得ました。
ついていけなさそうなら身を引いているつもりでいました。
少なくとも、声を出す同調圧力みたいなものは働いていません。
それなのに大声を出してフロアに参加していた。
見方は様々だと思います。
しかし、アプガのライブを黙っておとなしく見ているだけだと、欲求が溜まる一方でした。
そのことを自覚するよりも前に、声が出ていたのでした。

「歌えるー?」
肩を組んでの合唱。
ほうぼうから聞こえる声に、自分の声が混ざっていくのが気持ちいいです。
ふとこんなことを思ってしまいます。
ことコロナ禍になってからの自分が行っていたのは、ライブではなくさしずめコンサートの鑑賞だったのかもしれない。
そう認めざるを得ないほどに、「生きている」という感覚を得た音楽体験は久しぶりのものでした。
これでこそアプガのライブだ、懐かしいという感傷でもあります。

衣装は(仮)の半袖Tシャツに短パンという、アイドルに似つかわしくないかつてのアスリート風からは脱却し、今では肌を布で覆い隠すようなものに変わりました。
胸にデカデカと書かれて名刺代わりだった(仮)の文字も、どこかには書かれているのでしょうがパッと見では埋もれています。
とにかく攻めて攻めて攻めまくれというのがオリジナルメンバーだけで構成されていたころのアプガのライブスタイルだったと思うのですが、今は勢いに加えて呆然と見つめるしかないような、いわゆる”魅せる”シーンも多くなった気がします。
観客から声を引き出せないなりにどうフロアを高めていくかという、ここ3年あまりの試行錯誤の産物でしょう。
おかげで大汗をかきつつも、以前のように疲れすぎるということがありません。
心地いい疲労感です。
過酷な道でフルマラソンに挑み、着いていかれるものだけ着いてこいという姿勢がかつてのアプガだとすれば、5キロスポットごとにスイーツが置かれている、街おこしの要素も含んだマラソン大会が今のアプガと言えるかもしれません。
ステージの前方まで出てきてファンとコミュニケーションをはかる姿からも、地域密着の感を受けます。

Persist to Live

改めてその意味を生のライブに照らし合わせてみると、ライブにこだわり抜いたアプガの芯の部分が理解できるような気がします。
業界の黒い噂などが飛び交い、GWの中日にも関わらずライブアイドルシーンが鬱々とした包まれてしまっているこのタイミングだと特に感じますが、弾けるような陽気さは何よりもの薬となります。
馬鹿騒ぎをしていれば、嫌なことも元からなかったように消えてしまいます。
個人的な不調も、この日をきっかけにどこかにいきました。

単独公演としては9年ぶりくらいにアプガのライブに行くに至った経緯は、わざわざ書いても仕方ないことだと思います。
当の自分ですら、なぜそれほどのブランクのあいたグループに行こうと思ったのかはあまりはっきりとしません。
ただ一つだけすぐに思いつく理由を挙げるとするならば、唯一のオリジナルメンバー・関根梓さんの存在は大きかったと思います。
今のアプガは、オリジナルメンバー大量卒業のあと一人残った関根さんに、7人の新メンバーがコロナ禍から加わり、3月末に2人卒業して6人組となりました。
がらりと顔ぶれが変わったわけです。
離れて久しい自分にとっては、たった一人でも見知ったオリジナルメンバーがいるといないとでは雲泥の差でした。

MCではメンバー6人の絡みがみられ、初見でキャラクターがもなんとなく把握できます。
驚いたのが、どこまでも壁のない関根さんの姿でした。
前体制から、しっかりと話をまとめて進行を滞りなく進めるというタイプではなかったと記憶しています。
しかし時代とともに立場は変わりました。
関根さん以外のオリジナルメンバーが卒業し、新メンバーとして何人も迎え入れ、自身はリーダーに。
ポジションの変化は、本人の立ち居振る舞いや性格までも変えてしまうだろうと思っていたのですが、MCでの関根さんの姿は、誰よりも自由でした。

リーダーらしく前に出ててきぱきと進行するわけでもなく、年上のお姉さんらしくどっしりと後輩ちゃんたちを見守っているわけでもありません。
ボケの回数が人一倍多かったり、顔芸みたいなおふざけをしてフロアの笑いを誘ったり、他のメンバーが喋っている中ただ無言で水を飲んでみたり。
出たり引いたり奔放です。
昔より自由かもしれません。
”●●らしい”なんていう堅苦しい縛りは、関根さんにとって無関係のようでした。

自然体な姿が他のメンバーにも波及していった結果なのでしょう。
関根さん以外の5人もまた自由で、フロアへの指ハートやちょっとした会話が盛んですし、関根さんに茶々やツッコミを入れるメンバーもいました。
楽屋のごとくリラックスして喋っているようです。
MCの雰囲気はじつに緩やかで、ライブを見ずとも、こうしたやりとりを見ただけでファンを始める人だっていてもおかしくないなと思っていました。

「あーずさ!あーずさ!」
真っ赤にサイリウムが光り、ひときわ大きなコールが響くなか、関根さんの果たした役割を想像せずにはいられませんでした。
「個性あふれる6人が!」と言っていましたが、その個性をつとめて自然なままに引き出したのは関根さんに他ならないと思います。

新曲「HERETIC」はコールというよりも膨張していく音に身を任せて心地よさを楽しむ曲のようです。
間奏のシンセはオルガンのように膨らみをもって広がり、想像の世界では幾何学模様をなしていました。
曲名が意味するのはカトリック用語の「異端者」。
12年前に結成したときからアプガは、王道を目指していません。
前体制ではライブ中に瓦割をすることもあったように、アイドル界の異端の存在として2016年の武道館公演まで登りつめました。
メンバーが変わっても、そのスピリットは消えず残っています。
「2回目の武道館」という声は当たり前のようにメンバーの口から飛び出していました。
恐らくこれまでのライブでも散々口にしてきたのでしょう。
異端も、2回てっぺんに立てばそれは別の角度から見た王道です。

様々な事情によって一度は足が遠のいた者がまたノコノコ戻ってくるのはどうかと思いますが、もう一度武道館に立つところを見てみたい。
そう感じました。
メンバーは動員を気にする素振りを最後まで見せませんでしたが、二部の最後に唯一。
5月からの全国ツアーを終えた7月8日に、再度新宿BLAZEにて2部構成の単独ライブを開催すると発表した時、誰かが「今度は満員で!」と言っていました。
やはり埋められなかった悔しさはあるのでしょう。
武道館への駒は、新宿BLAZEソールドアウトを経て進み始めます。

この結成12周年記念ライブは、「このメンバーと武道館へ」と言い出してから何歩目にあたるのでしょうか。
ともかく自分にとってはこの日がリスタートの第一歩。
また応援出来ればなという思いです。


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