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母さんからの遺言状




母さんの日記帳にはまだ沢山の白いページを残していた
パラパラと何気なくめくった最後の方のページに
僕たち宛にメッセーが綴られていた。

兄へ、弟へ
 
そして僕へ
 
***************************
 
あおい
 
きっと一番にこの日記帳を見つけたのは蒼だと思っています。
当たりかな?

蒼は素敵です。
あなたはとても感受性が強く、この世界を観察して、色とりどりに
自分の想うままを表現していく。

あなたの絵は細部まで丁寧に描き、まるでガラス細工の様。
緻密に計算された様に描写する細い線は、少年の心の様に儚げなのに、
それでいて力づよさを感じる。
歳を重ねておじさんになても少年の心を持っているあなたは、
色々なことを思い煩い悩んでしまうことがあるでしょう。

お父さんが倒れた時にあなたがどんなに心を乱していたか、
動揺している気持ちを抑えて賢明に生きようとしていたことを
母さんは気づいていたよ。
母さんはあなたに何か出来たかな…ごめんね。
佇むあなたの背中を見つめるだけしか出来なかった。
人は誰しも、皆弱い。
決して無理をしないでね。自分を大切にするんだよ。

母さんのために、一緒に暮らそうと提案してくれたこと、とても嬉しかった。病に倒れた父さんに代わって家族を支えるために働くことで精一杯だったから。
母さんあなたに楽しい思い出をつくれたかな。

経済的理由と肉体的疲労で、近所のレストランで好きなものを
好きなだけ注文して、お腹いっぱいになるように奮発すること
しか出来なかった。
そんなささやかなご褒美でも、テーブル一杯に並ぶご馳走に満面の笑顔で喜んでくれたね。
ありがとう。

家族って温かいね。
どんなに不完全な形でも家族なんだね。

こんなに優しく成長したこと、
母さん涙が出るほど嬉しい。
それなのに同居することを最後まで断り続けたこと許してね。
 優しいあなたは、きっと周りのみんなに合わせて、折り合いをつけようと頑張ってしまうと思ったから。

母さんの人生は終わりゆくものだけれど、
あなたが築いてきた家族は、これからもますます花開いていくのだから

あなたとあなたの家族の人生を
わたしのために犠牲にすることはいけないこと。もっと楽しんでいいんだよ。母さんを忘れるくらいに。
 
母さんの日記帳を手に取っていると言うことは、
わたしが大病をした時か、逝ってしまった時かもしれないね。
 
大病した時なら退院後は、施設に、
自宅で介護しようなんて思わなくて良い。
可愛いわたしは、きっと施設のアイドル間違いなし。
手続きなどで迷惑をかけるかも知れないけれど
その時はどうぞよろしくお願いします。

もし退院できないくらい重症だったなら、
わたしの命はそのままに…

わたしは『死』と向き合うことが怖くて
『死にたくない』と言うかもしれない
けれど『天国に行くこと』を喜んでいるから大丈夫。
お父さんに会えることを楽しみにしているから。

本当のことを言うと、
目が霞んで、時折磨りガラスのようにしか見えなかったこと
喘息で、動悸と呼吸が苦しかったことがあったから
だから、少しずつ身の回りのことを整理できたのは
あなたにあまり迷惑を掛けずに済んだかなぁと思ってホッとしてる。

『自分と自分が築いてきた家族を大切にしてください。』
『心の風邪をひかないように…』

産まれてきてくれてありがとう
お母さんの子どもでいてくれてありがとう。
わたしが蒼を産んだようでいて
あなたがわたしを選んで産まれて来てくれたと思っています。

路瑠の人生でこんなに嬉しかったことはありません。
 
いつでも日記を開いて会いに来て。
母さんはあなたの幸せを願っています。

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母さんの日記帳には、四葉のクローバーの栞が挟んであった。
アパートの隅に咲く雑草を『わたしみたいでしょ』と押し花にしたのだろう。
母の可愛い演出に心が和まずにはいられなかった…。
路瑠ははの日記帳を抱きしめて、僕はうずくまって泣いている。




『僕の中に路瑠がいる』の最後に入れようか迷った文章です。

↓ 『僕の中に路瑠がいる』全文はこちらです。 ↓




最後までお読みいただきありがとうございました。
初短編小説・初投稿でした。

作品投稿にあたり、わたくしの拙い文章にも関わらず
お忙しい中、時間をさいて読んでくださり、
アドバイスして下さった皆様

素人のわたしが小説を書くことは大変無謀であったと気づき
この小説の執筆を断念しようと挫けそうになった時に
励ましてくださった皆様

投稿した作品をご覧いただいた多くの皆様

ここに厚くお礼申しあげます。
心を籠めて感謝申しあげます。

書き上げて投稿できたことは奇跡と同じくらい嬉しいです。
ありがとうございます。

そしてまたこれからも
noteクリエーターの皆さんの背中を見ながら、
皆様の作品にふれ、喜びと学びと感激をいただきつつ、わたしも
書き続けていきたいと思います。

これからもどうぞよろしくお願いいたします。

2023年7月吉日

           パンケーキ@ラベンダーこと路瑠

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