ヘイナナ!27フェイス。LOVEじゃないんだ…

少し元気がなかった。思わぬところでミスをしてしまった。安定から一歩出たところにいれば自ずとミスはするものだろうし、経験工学の世界ではこれほどいいことはない。けれど、やはり落ち込むものではある。事実、職人さんに迷惑をかけてしまっている。18時に電話をかけ、余ってる資材をほしいと頼んだ。風邪室に置いておいてもらって、引き取って帰ろうと思っていた。20時半頃に取りに行ったら、「お疲れ!待ってたよ。晩御飯食べてないでしょ?焼肉行かない?」と親方とその奥さんに誘われ、半ば強引に連れていかれた。「仕事の話しちゃってごめんね。焼肉美味しくなくなるから、違う話しないとね。」と肉を焼きながら奥さんが言っていた。

というのも、その前の金曜日の夜に、親方から電話が来た。「オリオンはそんなことしないんだけど、他の人のこの金額が続いたら食っていけなくなっちゃうんだよね。…ってオリオンに言っても仕方ないんだろうけど。ちょっと検討してくれない?」とのことだった。これはいけない。職人さんを食わせられないとなれば、自分の仕事の史上最重要目的を果たせない。自分は気づいていた。「オリオンに言っても仕方ない」と言いながら、他の人にはこんな電話をしないことに。自分に何かを期待して電話をしてきたはずだ。もう一度電話をかけて、直接会って話を聞かせてほしいと言ったら、次の日に時間を作ってくれた。次の日、自宅兼事務所にお邪魔した。親方とその奥さんと会長が出迎えてくれた。「今日は会社の誰にもここに来ることを言わないで来ました。ここで話すこと全部を会社の誰かに言うつもりはありませんし、聞かれたことに関しては包み隠さずに話します。僕自身もわかってない部分がたくさんありますし、これまで周りがそうやってきたからというだけでそれをそのままやり続けてる部分もあるので、色々話を聞きたいです。」と前置きをした。文字に起こして説明するには様々なことが複雑に絡んでいる。自分に見えている部分はきっとほんの一部に過ぎないと思っていたから、直接会って、表情を見ながら話をしたかった。周りの環境が変わっていくのに、自分達のやり方だけが変わっていかないのはおかしい。変わらずにいることで上手くいくこともあるだろうが、目の前で問題が起きている。自分になんとかできるような問題には見えないけど、少しでもいい方向に進むならやるべきだと思った。

最初は何から話せばいいのかとお互いにぎこちなかったが、気づけば2時間以上話をしていた。お互いの現状を整理して、自分に見えているものは予想通りほんの一部だった。というより、予想以上見えていなかった。親方にも見えていなかった部分もあったらしい。自分にひどく感動したのは、「うちは40人ぐらいの職人をかかえているけど、あなたの仕事をできる職人っていうのは3分の1もいない。さらに言えば、難しいことをできるのはその中のほんの一部しかいない。うちの仕事はこんなにもかっこいい!ともっと周りに知ってほしい。」という会長の話だった。自分はこんなにも難しいことをやっているんだという理解はあるが、周りに伝えるのがすごく難しい。もっと周りに知ってもらえれば、もっと結果も違うかもしれない。親方は自分のことを「ロックを聴くから熱いものを持っているんだよ。」と言ってくれた。それだけわかってくれれば十分だったけど、「今日ここに来たのは、上司の次は自分の番だと思ったから来ました。正直、自分に何ができるかわかりませんでしたというより、何もできないかもしれないとすら思いました。でも、自分がやるべきことだと思いましたし、やらなければいけないとも思っています。」と口から出てしまって、恥ずかしくなってしまった。順番が来てからでは遅いし、できることはやっておきたい。明日にでも自分の番になってもいいよ。準備はできてる。そうやって、一歩踏み出せない時は自分に言い聞かせて仕事をする。でもこれは嘘。正直、不安で仕方ない。だからできる準備はしておきたくなる。

その日は現状の把握でほぼ終わってしまった。どこまで会社に話していいかを確認して、頼りになる営業の彼に、「こうしたら変わると思うんだけど、普段の仕事のスピード感の中でそうすることはできるものなのか?」と相談してみたら、「え?そうするのが当たり前なんじゃないですか?」と答えられてしまった。…そうだった、そういう人だった。当たり前にやってしまう人だった。ある意味相談する相手を間違えてしまった。だけど、もっと話を聞きたかったから、お互い会社にいる時に話をすることにした。

そんなことがあって問題が解決してないうちに、この焼肉の席だった。「毎日こんなに遅くまで仕事してたりするんじゃない?ストレスとかない?大丈夫そうに見える人が突然…とか割とよくあるからね。」と心配までされてしまった。納得いかなかったら納得いかないと言える人にストレスなんて無縁だと思いたいけど。「今、もう1人来るから。今卓球やってて、もう少しで終わるはずだから。彼は最近卓球に目覚めて、週2〜3ぐらいでやってるんだよね。」と奥さんが話してくれた。その職人さんは、仕事の内容上どうしても残業になってしまうこともあり、あまり自分の時間を作ってあげれなくて申し訳ないと思っていた。その職人さんがお店にやってきた。半袖半ズボン。首からかけたタオルに、光る汗。来ているTシャツにはデカデカと「I LIKE 卓球」の文字。笑わずにいられる人を教えてほしい。さっきの話がまるでフリみたいだった。どこに売っているのか聞いたら、ユニクロでオリジナルTシャツを作ることができるらしく、そこで作っているそうだ。こういうTシャツって大体LOVEだと思ってたんだけど、LOVEじゃないんだ…。でも楽しんでそうで羨ましかった。次の休みはスキージャンプのジャンプ台を走って駆け上がる大会に出ると言っていた。どこで見つけて、出たいと思えるのだろうか…。仕事が終わったら坂を走る練習もしているそうだ。逆に心配になる。

(後日結果を聞いたら、「あんなん二度と出ねえ」と言っていた。親方達が応援に来てなかったら途中棄権してたそうだ。筋肉痛は3日後に来たらしい。)


「今私が着てるTシャツも彼からもらってやつなの。飼い犬2匹の写真なんだけど、わざわざ名前が書いてあるんだよね…。」

「すぐコイツ名前入れたがるから。名前なかったら俺も着たいのに。」

「いや、名前あるのがいいんですよ!」

「だから私の気持ちをわかってもらうために、彼の名前入りで、減量成功って書いたTシャツあげたの。着てる?」

「部屋着で来てます。」

デザインしたTシャツを見せてもらった。こういうと怒られそうだけど、少しダサいのがいい。こういう趣味があってもいいかもしれない。Tシャツを送り合うのも素敵だ。だけど、名前入れてもらったら外で着ないんかい。

「うちは結構アットホームな会社で。昼に仕事が終わったら事務所でカレー作ってみんなで食べたりもするし、たまに朝ごはんも作ってあげるの。それこそこの間みんなで卓球にも行ったしね。彼の誕生日よ時は、買ってに彼の部屋に入って、勝手に冷蔵庫を電気屋で買ったものを配送して、冷蔵庫に食品を入れてプレゼントしたの。なんで勝手に入れるかっていうと、彼は部屋の鍵を閉めないの。笑」

「流石に長期出張の時ぐらいは閉めるでしょ?」

「いや、閉めてなかったっすね。でも最近は閉めるようになりました。冷蔵庫買ってもらったんで。」


いい話かなと思って聞いていたら、後半は理解が追いつかない話になっていた。なぜ鍵を閉めないか聞くと、アパートの一階に大家さんの事務所があり、職人さんが仕事で部屋を開けている時に、飼っていた犬の散歩をしてくれていたそうだ。その時に大家さんが鍵を開ける手間を省けるように、鍵を閉めなかったそうだ。大家さんだって鍵を持っているんじゃないかと聞くと、「そう。」とは言っていたが、泥棒に入られるリスクと、大家さんへの気遣い(?)を天秤にかけて大家さんが勝つとは…。それから聞きそびれてしまったが、鍵をかけるきっかけは冷蔵庫?泥棒<大家さん<冷蔵庫?もしかして、それまで冷蔵庫持ってなかった?

ただこんないい環境が会社や自分がきっかけで崩れるようなことがあってはいけない。なんとかいい方向に持っていかなければ。かなりリフレッシュもできた。


それがあった日の週末、「土曜日の夜空けといて」と連絡があった。この前の土曜日と同じ職人さんと似たようなシチュエーション。お店に向かう道中、「今日は任せたぞ。付き合いの流れでまた行きましょうなんて社交辞令で言ったら、次の予定を決めるためにすごく頻繁に連絡くるようになってしまって断れなかった。アラフォーのがっつきは半端じゃねぇ。なんなら3人全員持ち帰っていいからな。」とのことだった。そうだとしたら人選ミスではなかろうか。任せられても何をしたらいいものか…。確かに誘う時にこんなこと言っておいたら、断りそうだもんね。最近は、誘われた時に何をするかはあえて聞かないようにしている。起こることに前向きに楽しめるようために。

その日はイタリアンだった。いい大人3人がおどおどしながら店内に入る。誰も入ったことがなかった。どうやら先着だったらしい。少しして女性が来て、会食が始まった。色々話をしたが、「オリオンは何かやりたいことないの?バスケ以外で。」と聞かれて思い出した。そういえば、それを探しているんだった。とりあえずやりたいことがないから本を読んでて、読み切る前に色々忙しくなってなかなか読めなくて今に至るんだった。「次までに考えておいて。」と言われ、タイムオーバーになってしまった。この次ってやつが本当に来そうで怖い。なんだかんだ3時間が経っていた。「下ネタ言うから、言い始めたら、コイツどうでもいいんだなって思って。」と言ってた職人さんが下ネタの「し」の字もない。俺が言ったほうがよかった?


お店を後にして、「人見知りの割に結構話せてたね」なんでおだてられて、いやいやそれほどでも〜なんていいながら着いたのはニュークラ。息するようにこういうところ来るやん。そもそも、自分もどこに向かってるかぐらい把握しはじめてもいいかもしれない。

席に着くなり女性たちが来て、

「何歳?待って、当てるわ…27!当たった!イエー!27フェイスって感じしたんだよね〜」

「27?ヘイナナ?あぁ、平成7年生まれ?タメじゃ〜ん!ウェーイ!」


この短時間で脳が2回揺れた。27フェイス?ヘイナナ?同じ日本なんだろうか…そんなことを考えていたら、「その靴と同じの持ってる!」と言われた。ダンクハイのバーシティーメイズで、メンズだよ?写真を見せてもらったら同じだった。そんなことあるもんなんだね。その話の流れで、服には気をつかってるのに、髪型には気をつかってないのはなぜ?という話になった。服に特別気をつかっているわけではない。ただ着たいものを着たいように着ている。それに比べれば髪型には気をつかっていない。すると職人さんが、「カッコいい髪型 画像」で出てきたスマホの画面を見せてきた。検索ワードな。

閉店の時間になりお店を出たが、お腹が空いた。ラーメンにエビチリ、チャーハン、あんかけ焼きそばと3時を回っていたが、食欲がおかしいことになっていた。食べながら、「いいか、はやく出世するんだぞ。我慢の時間はあるだろうけど、このままいけば間違いないぞ。」なんて話をしていた。酔ってるし、同じ話を何度もしていることに気がついてないのかもしれないと思った。あえて指摘はしないで続きを聞いた。「頼みづらいことってあるでしょ?残業だったり、夜間作業だったり、どうしてもその日にやらなきゃいけないけど、移動が多くてとか。でもこうやって遊んでコミュニケーション取ってたら少しは言いやすくなるでしょ?オリオンの頼みならちゃんとやってあげるから。仕事してて、こんなに頑張ったのにこんだけしかもらえないのか?って思う時もあるでしょ?オリオンだけじゃなくて、今までお世話になった人たちもそういう時があって、そういうのを見てきてるから。そういう時はなんとかしてあげるから。そしたら仕事も少し頑張れるでしょ?」ニュークラのおかげで泣かずに済んだようなもの。そのために頑張るわけじゃないし、あまり甘えるつもりもない。きっと、自分がそういうことをさせないことを第一に考えて仕事をしてることをわかってくれているからそう言ってもらえたんだと思った。

次の日、LINEが来た。「次の日曜日に美容室予約したから、ツーブロック入れに行こう!」。ランチ感覚で予約してくれるな…。次回、「ツーブロックですまなかった」


中学生時代のバスケのユニフォームに赤が入っていたり、足元だけ真っ赤なスニーカーのファッションが好みじゃなくて、赤いのを身につけるのを避けていた。最近はよくこの曲を聴いてから、少し赤を身につけてみようかという気持ちになってくる。多分そういう曲じゃないとは思うけど。



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