長いか短いかは意外とコントロールできる。

「バスケできるまでもうちょっとだね。バスケしたくてウズウズしてるって感じだね。」この日はリハビリだった。ふくらはぎの筋肉をほぐしている時に、そう声をかけられた。この日の体の状態でリハビリをやめるかどうかを決める予定だった。年内はリハビリを続けることになった。驚くことでも、落ち込むようなことでもない。まだ治っている感じがしなかったから、当然の結果だと思う。椅子に座ると、「12月でこの治療方法をやめます。」の張り紙があった。この椅子に座って、腰を10分間温めていた。心の底ではこんなの本当に効いてるのかよ、なんて思っていた。血流がよくなって、痛みがなくなったら苦労しない。効き目が出ないといけないと思って、その10分だけはそう思わないようにしていた。もしかして、本当に意味がなかったのかもしれない…。

リハビリの数日前に戻る。たまたまつけていたテレビで、スラムダンクの映画のCMが流れた。たった数十秒で心が高鳴ってしまった。この映画を見てしまったら、バスケをやりたくなってしまう。だから、情報はできるだけ遮断していた。その後Twitterを開いたら、たまたま映画の感想のツイートが流れてきた。「バスケやってない人が見たら、感想が薄くなってしまうよね。」とのことだった。自分が見たら、どうなってしまうのだろうか。ふと頭によぎった。DVDとかBlu-rayとかが発売されてから見ればいいやと思ったけど、それらが発売されなかったら?もう見れなくなるのではないか。こんなに我慢してきたのに、ここに来てこんなに目に触れてしまう。これは見てくれと言っているのかもしれない。ただ、休みの日に映画館に行くとなったら人が多そうだ。平日のリハビリに行くついでに映画館に行ってしまおうと思い、その日に有給休暇届を出した。

そんなこともあり、顔に出ていたのかもしれない。リハビリでいじめられた後、映画館に行った。映画館に行ったのが久しぶりすぎて、最後が思い出すのに時間がかかった。最後に行ったのはソロモンの偽証だったと思う。公開の年を調べたら2015年。約7年ぶり。平日なのに、制服姿の高校生がたくさんいる。子どもの時は「映画館の飲み物とポップコーンは高いから」と買ってもらえなかったなぁと思いながらポップコーンと飲み物も購入。指定された番号のスクリーンに入る。中には高校生がズラリ。入った瞬間、高校生の半数以上がこちらを見る。ポップコーンを持った大人が平日の昼間から映画。かなりはしゃいでいるように見えたのか、場違いのような目で見られているような気がした。引率の先生もいたけど、授業の一環で見れたりするのかなぁ…。いいなぁ…。なんか変だと思ったんだよ。ネットで予約する時に、3日前なのにやけに予約埋まってるなぁって。平日でもこんな人気あるのかぁぐらいに思っていた。急に不安になってきた。授業の一環とは言え、スラムダンクを見れるのか?間違って入っちゃった?本当にスラムダンクなのか?あぁ、もう照明落ちちゃった…なんて1人で焦っていたら、スクリーンに「集英社」の文字が。ここでようやく安心した。スラムダンクはほとんど見たことがないけど、大丈夫だろうか。


※ネタバレになるかもしれないので、この先読む人はご注意ください。







自分は宮城と同じポジションで、宮城と似て差が低い方どころか、背が低い。誰かの形見とかではないけど、自分にも思い出のある赤いリストバンドがある。映画の冒頭から親近感があった。山王のポイントガードみたいに背が高い相手とマッチアップになったら、ミスマッチをつかれる。「背が低い」というだけで穴になってしまうスポーツでもある。ゾーンプレスをかけられて、ボールを運ばなかったこともあった。攻撃の起点となるはずの自分がボールを運べず、自分のせいで得点はできないし、相手に得点を許してしまう。情けないし、悔しいし、味方に合わせる顔がない。そうなってしまったら交代させられる。だけど、安西先生は違った。「ここはあなたの舞台ですよ。」とベンチに下がるどころか、もっとやれと背中を押してコートに送り出す。こんなんされたら、一生着いていっちゃう。ゴリに「黙ってプレーをするな。しゃべれ」と言われて「そういうタイプじゃない」と言ったのも、自分もつい黙ってしまうから似たようなものを感じる。「今のパスカッコつける必要があったのか」と言われたら、「こっちのほうがはやいから。ついていけないとは思わなかった。」というやり取りも、実際に自分がやって怒られたこともあったから、すごい不思議な感じるだった。ゴリに「あいつはパスができます。」と言ってもらえた時は、自分とは違っていて、泣いてしまった。宮城が流川はパスを出すとわかり、ゴリに「流川を見ておけ」と言った観察力はすごかった。俺も手に「No.1ガード」って書かれてたかったなぁ…。あんなことされたらなぁ…好きになっちゃうよなぁ…。宮城がユニフォームを7番にこだわって(1年の時も17番つけてたり)試合に姿を見たら、中途半端な気持ちでコートに入るのが恥ずかしくなる。宮城と同じぐらいの物背負ってコートに入れとか、気楽にコートに入るなとかじゃない。身につける背番号には意味を持たせろというわけでもない。だけど、自分は意味を持った背番号を背負いたい。バスケをやる時の自分はつい本気でやっちゃうとか、手加減ができないんじゃなくて、手加減をしたくないんだと気がついた。

三井の「俺の名前を言ってみろ」の後から、第ゼロ感が流れる度に泣いてしまう体になってしまった。自分から3Pをとったら何が残るという自負に圧倒された。いいところで3P入れるんだよなぁ。

花道はさすが主人公だった。「俺にはバスケの常識は通用しない。俺は素人だから。」には度肝を抜かれた。ゴリに「流川はまた抜かれるぜ。だけどあいつはパスをしない。負けを知らないから。」と助言をしたのは考えられなかった。2度目・3度目のジャンプの速さと最高到達点の高さが異常なことが、もっと伝わってほしい。チームの雰囲気を変えられる点も含めて、努力する天才には勝てない。

流川はダンクにこだわりすぎ。パスを出そうと決めたのは難しかったと思う。だけど、そのおかげでオフェンスに新しいパターンが生まれた。普段パスしないクセに普通にパスができるのも腹がたつ。フローターをなんなく決めるのもさすがだけど腹が立つ。ゴリはキャプテンのクセに自信なくすの、はやすぎ。2人に関しては印象が薄くてすみません。宮城メインで見てたので…

全体で見ると、映像がすごくキレイで滑らか。花道が速攻でランニングシュートをバックボードに当てる瞬間なんて、実際のバスケの映像を見ている見たいだった。音楽も素敵だった。The Birthdayで始まり、10-FEETで終わる。いちいち良すぎる。バスケの試合は時間の流れ方が違う。それがすごくリアルに表現されていた。音がなくなるシーンもあったけど、あれは実際にプレーをしたら無音になるものだ。周りの音が聞こえない。試合時間が残り1分なら、時間を目一杯使ったとして、2ターン。(当時はオフェンスの時間は30秒)そう考えるとすごく短く感じるけど、実際はそうじゃない。試合の決着がつくところは圧巻だった。

映画が終わって照明がついた。少し余韻に浸っていたかったが、「一般の人が出るまで待っててねー。」と高校生の引率の先生の声が聞こえて、そそくさとスクリーンを後にした。ポップコーンが余っていた。Mサイズって意外と多いのね。帰りはいつもより早足だった。何か動いていなければ落ち着かなかった。頭はスッキリしていた。真っ白とは違うけど、何もなかった。ぼーっとしているわけでもない。少ししてから思い出した。練習してる時と同じ感覚だ。まだだ。こんなんじゃねぇ。これじゃ試合で通用しねぇ。1秒でも長く練習したい。1回でも多くドリブルをつきたい。1本でも多くシュートを打ちたい。でも今はできない。でも、それでいい。次にバスケができる時は、きっと最高のプレーになるような気がした。宮城のように、とはいかないと思うけど、自分は宮城じゃないからそれでいい。全盛期はやめるまでは更新できる。このままいけば、前より対空時間長いよ。

やっぱりやりたくなってしまった。


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