27歳で何が悪い。

「よかったら近所の焼き鳥屋に行かねぇか?」突然誘われた。普段わからないことがあったらよく聞いたりする職人さんで、同じく腰のヘルニアを患っている。仕事以外でご飯に行くのは初めてだった。その日はたまたま仕事を早く終えて、フレックスタイム休を使って早く帰っていた日だった。

職人さん数人と集まって焼き鳥屋に行ったが、何か裏があるんじゃないかと少し不安になった。色々話したが、一言目は「金をくれ」だった。今月に稼げないと、来月に社員にボーナスを払えなくなる。もうそんな時期まで来てしまった。半分冗談ではあるが、半分本気だ。半分以上かもしれない。だけど、職人さんは自分にはそこまで心配していないはずだ。会社には怒られるが、財布の紐は緩いほうだ。

自分の今している仕事の最重要命題は、「職人を食わせること」だと思っている。(個人的意見で、正解ではない。)一見、会社に背く表現に見えるが、様々な意味がある。職人さんを稼がせてあげることで、「この仕事は稼げる」と認識させてあげる。そうすることで、新しい人材がやってきて、技術が継承されて後世に続いていく。そうやって、この仕事が、この業界が続いていかなければいけない。それを続けるためには、自分がいる会社が倒産して、職人さんに仕事をあげることができなくなってはいけない。稼ぐためには事故などで怪我をしてはいけないから、安全に作業ができる環境も作らなければいけない。職人さんだけではなく、その家族のことも考えなければいけない。欲を言えば、できるだけ「楽に」稼がせてあげたい。仕事以外の時間も充実するように、出来るだけ自由な時間は多くしてあげたい。「職人を稼がせる」と一言にまとめても、これだけの意味が内包されている。普段はここまで深くは考えないが、この一言で自分のやるべきことは決まってくる。だから、職人さんが赤字になるようなことがあったら、仕事を辞める時だと思っている。

12月で転職してから3年になる。今の上司に誘われて現職になり、3年で上司の持ってる技術だったりを全て手に入れようと仕事をしてきた。上司が30年弱かけて手にしてきたものを3年で手に入れようとしたのだから、もちろん無理だった。無理だとはわかっていても、忘れたふりをしてきた。上司は今年で65歳で、勝手な予想で3年目となる今年で引退だと入社した時は思っていた。だけど、まだ仕事を続けてくれるらしい。最近、久しぶりに一緒に現場を担当することになって驚いたことがあった。意見が合わなくなっている。この仕事のやり方は人それぞれで、正しい唯一の方法は存在しない。どっちかが間違っているというわけではない。判断を要する時に、「こうした方がいい」と思って行動しようとすると、上司と同じ行動を取れなくなっていた。前まではこんなことはなかった。上司と仕事をする時は気をつけなければいけないけど、これはいい兆候だと思った。上司の右腕を卒業して、自分のやり方を見つけつつある。

「今、会社で一番現場をわかってるのは上司じゃなくてお前なんだ。お前が上司に現場のYESマンになるなと言われてるところを何回も見てるけど、本当のYESマンは上司のほうだ。現場に言うべきことをお前はしっかりと言うけど、上司はほとんど言わない。」
転職して間もない頃はよく上司に、現場が言うことを全部鵜呑みにするなとよく注意を受けていた。判断材料は多い方がいいと思い、前後の関係など現場に関する情報は聞き出すようにした。最近はたくさんの情報を仕入れることもできるようになったと思うし、そこから必要な情報だけに注目していい判断ができるようにもなってきたと思う。選択肢が増えている。現場への要望は、職人さんが仕事がしやすくなると思うなら、現場に嫌われてもいいや〜と半分諦めの気持ちで現場に伝えてるようにしている。言うだけタダ。意外と言ってみるもんだと思う時が多い。そういう部分を見てくれてるのは嬉しいし、一番現場をわかってるなんて、自分にとっては一番の褒め言葉だ。なんか最近職人さんがみんなやけに優しくて怖いなぁ。ほんと自分の意見も通るし、なんかあるのかなぁなんて思っていたけど、そういうことだったらしい。

「最近はお前がイライラしてるのがわかるようになってきた。顔に出てるぞ。」
これはお恥ずかしい。そういう顔をする時は何か問題が起きた時だ。イライラしているというよりは、今ここで打てる最前の策は何か、順番はどれか適切か?など頭を最速でフル回転している。焦って泡食ってると職人さんに笑われて、楽しまれてしまう。何も悪いことではないけど、悔しい。涼しい顔で何事もなく解決したい。と言ったが、確かにイライラしている時もある。気をつけなければ…


少しだけ時は流れ、副支店長とボーナスの件を含めた面談へ。(自分の仕事はゼロからいくらお金が生まれたかというわけではなく、決められた金額からどれだけ使わずにお金を残せるかで利益を出す。)1年半以上かけてやってきた大型の現場も当初の契約分は終わりを迎えることができた。もちろん職人さんや他の部署の方々の支えのおかげだ。利益は3〜5%出ればいいと言われる中、当初予定よりも20%の利益を出し、支店創設以来最高益だったそうだ。記録的な利益ということで、2022年社長アワードで表彰されることとなった。2022年は全国デビューもして、全国の拠点にも顔を売ることもできた。自分的には上出来だったと思うし、上司にここまでできるようになったと証明もできたと思う。「あいつじゃ無理だ。」って言った人はもう何も言わなくなった。少しぐらいは後悔してくれてもいいとは思う。
「ボーナスはこれじゃ足りないと思うよね?この会社は業績が悪くてもボーナスは出るし、業績がいい時と悪い時の差をできるだけ小さくしてるんだ。来年も北海道にオリオンありと言われるように頑張って。」と副支店長に言われた。正直、足りない。これだけやってこれだけしかもらえないのか。しまいには、昇給もない。納得いかない。まだ転職前より給料をもらっていない。「他に何かある?」と言われたので、3年我慢したら給料上げてやると言われて、今月で4年目になるんで、給料は期待させてほしいと言った。ただ3年間過ぎることを待ってたわけじゃないし、できる全てのことはチャレンジしてきたつもりだった。「上にも話はするんだ。そしたらみんなはオリオンは何歳だと聞くんだ。27歳か…って。会社の規模も大きいし、給与体系もある中でオリオンだけ特別扱いすることは申し訳ないけど、今はできないんだよ。でも仕事のやり方と、やってることは間違ってないよ。」とのことだった。言われなくても、間違ってるなんて一回も思ったことはない。なんの気休めにもならない。27歳で何が悪い。実力主義じゃなかったのか。プライベート重視で仕事はそこそこ、というのは否定しない。だとしたらもらえるお金もそこそこのはずじゃないのか?若いやつがキツイ仕事ばかり「経験だ」なんて言いながらこなして、歳食ってるやつはそこそこの仕事で多くお金をもらうのか?だったら仕事内容も年功序列じゃないのか?若い人が入らない、続かないなんて嘆いてるらしいけど、この仕事に達成感とか楽しみを見出せないなら、キツイだけでお金ももらえないなら当たり前じゃないか。きっと自分だけじゃないはずだ。他にもやる気があるのに腐りそうな人はいるはずだ。給料が上がらないとわかって頑張るやつがいるのか?何かが足りないなら、2023年は足りないものを埋めたり習得したりする年にしたいのに、このままでいいなんて、そんなわけがないだろ。自分はいいと思えない。どうしようもないじゃないか。

2022年社長アワードの日。なんと初のメタバースで実施するとのことだった。費用が高いって、俺が利益として残した俺の金じゃないか。(俺のじゃない。)どんなものなのか全く想像がつかなかったが、リハーサルでハッとした。この既視感は、Amebaピグだ。あれが3Dになってチャット機能や音声チャット機能が追加されたようなものだった。自分は銅賞だった。これだけやって銅か。銅は金と同じ?それなら銅はいらないし、金もいらない。そしてなぜ一番頑張ってくれた職人さんがここにいない?なんか晴れやかな気分じゃないよ。俺がほしいのは上司の椅子なんだ。転職してからずっと意識してずっと座りたかった。なのに次に座るのは自分じゃない。「もう40歳になったから給料も上げてやらないとかわいそうだ。」なって理由で、自分のことしか考えないし、自分の仕事が終われば帰るような人が座る。家族もいなくて若かったらお金はいらないとはならないだろ。自分は何が足りないんだ。

前回の焼き鳥屋から1ヶ月以上も経過し、忘年会シーズン。仕事納めの日にまた焼き鳥屋に誘ってもらった。前回に引き続きノンアルコールでの参加。この焼き鳥屋は食べ物が美味しいのは去ることながら、店内BGMがお気に入りだ。自分のiPodから流しているのではないかと思うぐらいドンピシャだ。

the pillowsのムーンダストが流れて、思わす聴き入っていると、「どうした?そんな冷めた目して。」と言われたが、こんないい曲がダメになってしまうど下ネタを話していた。聴き入るほうが悪いので、気にせず続けてどうぞと続けさせてしまった。「上司の次はお前か?」と聞かれて、自分じゃないと答えたら驚いてくれた。あの椅子に座るためにこの会社に来たから、ずっと意識して頑張ってきた。自分が座るべきだし、座れないと意味がないと伝えた。「酒飲んでないのに、よくそこまで言えるな。お前は出世欲がないと思ってた。欲のないやつは信用できないから、聞いてよかった。あいつじゃダメだって言ってやろうか?会社終わるぞ?」と言ってくれた。本当に嬉しかった。だけど、ダメだっていうのはやめてもらった。嬉しいけど、それは違うような気がした。

年が明けてからというもの、全くやる気が出ない。現場のことになったり、現場に出るとなるとやる気は出るのだが、それ以外にやる気が全く出ない。正直、余裕があって、それがよくない。キャパが広くなったのも実感しているし、全力を出さずとも現場が回ってしまっている。ここまでグダグダ考えているのはノイズでしかないのかもしれないが、それを考えるぐらい暇がある。今年は数をこなしたい。このノイズが聞こえないぐらい、考える余裕がないぐらい詰め込みたい。年が明けてから社長に会って、「オリオンに嫌われた会社は終わるな。」なんて言ってもらえた。社長は社員は家族だというけど、目の前の4歳児が反抗期に入り始めて、下手すりゃ家出てくかもしれないけどどうする?頼みますよ。その時同行していた1人の人が興奮気味に、「あの現場やった方ですよね?完成させてくれてありがとうございます。あそこのファンで、とにかく楽しみにしてました。自分の会社がやったんだって自慢できるだけでも嬉しいのに、直接携わったなんて自慢になるじゃないですか。仕事で毎日行けて、公私混同で仕事できて羨ましいです。私にはその技術がないので叶いませんでしたけど、完成したら何かと理由をつけて出張で北海道にきたいと思います。見所はどこですか?」と話かけてくれた。そういえば、こんなに喜んでくれた人近くにいなかったな。もっとこんな声が聞こえてきてもいいはずなんだけどな。確かにおかしいよな…。なんか報われたような気持ちになった。これでいいんだよな。初心を忘れないようにしないと。

初詣の時に引いたおみくじに、至る所に「慎ましく」と書いてあった。黙ってもう一年頑張れということだと思った。〜してやったとか、〜してあげたとかは言わずに、とにかく控えめにいきたいと思います。


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