納得いかねぇっす

「4月からAを昇格させて、みんなのことを見てもらうつもりだ。俺は少しずつ口を出さないようにしていく。」と上司が言った。自分じゃないのか。上司や支店長にも「20代のうちに昇格させてやるからな」と言われ、その期待に応えるべく仕事をしていたし、それを意識して職人さんのことだって、会社全体のことを考えて必要とあらば声を上げて行動も起こしてきた。それなのにその日暮らしで自分の仕事が終わればさっさと帰るようなやつが昇格かよ。そんなの納得できるわけがない。そんなのが自分の上司で仕事ができるのか。結局、年功序列ならどんなに頑張ったって無意味じゃないか。会社に裏切られた気分で、数日は仕事のやる気はまったくなかった。

上司の発表の直後にAに呼ばれ、2人で話すことになった。「自分が昇格するために常務にプレゼンをしなきゃいけない。会社を良くするにはどうしたらいい?」と聞かれた。普段から考えてねぇからわざわざ自分に聞きにきたんだろ。質問には答えなきゃいけないと思い、答えるには答えた。だけど、ずっと床を見ながら答えた。自分で自分がどんな顔をしていたかわからなかった。でも人に見せれる顔ではなかったのはわかっていた。

ここ数日は職人さんに迷惑をかけてしまっていたから、ここままではいけないと思い部長に「明日夕方会社に戻るので、お時間いただけないですか?お話ししたいことがあります。」とお願いをして、思っていること全てを話すことにした。返ってくる答え次第では会社をやめるつもりでいた。

次の日、部長と応接室で2人で話すことになった。「結論から言うと、Aさんが昇格するのが納得いかねぇっす。」と切り出してみた。それを聞いた部長は「…あぁ…そのことね。確かにオリオンが納得いかないのはわかる。Aは面倒くさいと思ったら手を出さないタイプだし、オリオンと一緒にやるはずだった物件も今はオリオン1人でやってるでしょ?世代交代を考えた時に、今よりもっと変わってほしいと思う人が何人もいる。今回はAに変わってほしくて昇格することにした。能力があるからとか、評価がオリオンより上だからというわけではない。オリオンのことはもちろん評価はしてるし、年齢を考えたら実力としては桁違い。周りの手本になるような仕事ぶりだから、それを見てAには変わってほしい。だから1年は見てあげてほしい。もしダメだと思ったら途中でもいいから言ってほしい。今後もAより上に行けないことはない。逆転はあるし、その実力はあると思ってる。俺もなんでこいつが自分の上に立つんだって思ったことは何回もあるし、オリオンみたいに納得いかないって話を当時の部長と話をしたこともある。俺は納得のいく答えをもらうことはできなかったけど、やる気がなくなったわけでなくてむしろやる気が出て。今まで以上に頑張るようになったんだよね。だからここで腐らないでいつも通りに頑張ってね。」と言ってくれた。


そんなことならはやくそう言ってくれればよかったのに。悩んでた数日がバカみたいだ。「逆転がある」というのはちょっと違うのかな。負ける気がしない。今から器を用意するやつと、会社に入った時から意識して器を用意していたやつの違い。プレッシャーを感じないような物件ばかりやってるやつと、プレッシャー感じながらやってるやつ。職人を手駒だと思っているやつと、神様だと思っているやつ。何もかもが違う。プレッシャーを感じるのは1人で仕事をしているわけではないことを自覚しているし、本気で仕事をしているから。自分のほうが下という感じがしない。実力差だって1年で埋めてやったんだぞ。ダメだと思ったら1年待たずに足元すくってやるから死ぬ気でやれよ。最初から見てるところが違うんだよ。

部長には悪いことをした。1日寝れなかったらしい。「もしかして仕事やめるのか?結婚の報告?給料の話?別の仕事したいとか?困ってることでもあるのか?」とすごく心配してたらしい。給料の話は後々したいし、結婚の報告はもしできるようになったとしても部長が1番最初ではないかな。すみません。「でもAを昇格させるって1番最初に言ったのオリオンの上司だよ」って言われた時は、してやられたと思った。こうなることをわかってそうしたとは思うけど、また上司の掌の上で踊らされた。本当に敵わない。いつも肝心な部分は教えてくれない。

仕事を頑張るのは楽しいからとかやりがいがあるからというのもあるけど、自分がなりえなかった自分に会えるような気がしているからという部分もある。上司は初めて自分と会った時から、なりえなかった自分のことが見えていたと思うし、そこまで辿り着けると思って会社に誘ってくれたのだと思う。その自分を見てみたくて上司の言ったことはNOと言わずやってきたし、無茶振りにもこたえてきた。そのためには会社全体のことだって、職人さんのことだって考える必要があった。だからAが昇格する理由を知った後でもちょっとショックだった。今はやる気のおまけ付きですごくいい状態だけど。

ただ今年の裏目標は仕事とプライベートの境界線をはっきりと作って、仕事が終わったら仕事のことを考えないようにすること。年取ってから苦労したくないから若いうちに苦労しようと思って結構無理して仕事をしちゃって申し訳ないんだけど、noteは別にして仕事のことをあまり考えないようにしたい。


前にもnoteにのせたことがあるような気がするけど、部長と話す前にこの曲が聴きたくなって、MVを見てから話をした。自分にはどうしてこんなにも壁が何度も出てきて、選ばれないことがたくさんあるのか。そんな時に聴きたくなる。まさか部長にあんな風に言われるとは思わなかったけど、冷静に話ができたのはこの曲のおかげかもしれない。人生の重要な場面でthe pillowsの曲があって自分を助けてくれるのが本当にありがたい。


何事も言ってみるもんだね。普通の会社だったら「納得いかない」なんて噛みついてくる社員は嫌われて最悪クビかもしれない。でも、言うだけ「タダ」なんだよね。

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