買えるだけルンバ買うわ。いらんけど。

「オリオン会やるから土曜日空けといて」と職人さんから誘いを受けた。儲けさせてもらった分、奢ってあげるという、自分にとっては利益還元祭みたいなもの。別に特別多くお金あげれてるわけじゃないし、もっと自分のために使ったらいいのにとさえ思ってしまう。

3人の職人さんに連れられ、1軒目。大学生のときに行っていたスタジオのすぐ近くで懐かしく感じながらお店に入った。お腹が空いていた。というより、あえてお腹を空かせていた。旅行に行けば1日5食食べるような人たちとご飯に行くには、そうするしかない。「お腹が空いてる」と言わなくてよかった。このお店に入る前に山岡家に入るかどうか迷っていたらしい。危うくもつ鍋と馬刺しが全然食べられないところだった。やはりお互いそんなつもりはないのだけど、仕事の話ばかりしてしまう。仕事以外の時間でコミュニケーションをとれれば、仕事がもっと上手くいくのはわかってるし、それが目的みたいなところもある。「今日はオリオンの愚痴を聞こうと思って」と言ってくれたので、「愚痴っぽい愚痴はないですね。気に食わなかったら、なんとかしようと行動してますし。ただ最近、Aさんとは上手く言ってないですね。多分、自分のことが気に食わないんでしょうね。僕は喧嘩するつもりはないんですけどね。」と打ち明けた。「まぁ、気にすんな。あいつは言い方がよくない。人をイラつかせる天才だからな。」「だからはやく出世しろって言ってるだろ。」と、普段職人さんがどう思っているかを聞ける場がないので、とにかく貴重だ。

自分が、「元請に隠しながらこんなことするぐらいなら、ちゃんと筋とおして元請に手伝ってもらってやったほうがいい」と断った仕事が、競合他社を通じて職人さんの元にいってしまったことがあった。1、2カ所直せば終わるかと思ったら数百箇所あって、ほぼ騙されたような感じで仕事をしたらしい。自分はその数量もわかっていたし、わざわざ自分の職人さんにやってもらう仕事じゃなく、変な話誰でもできるようなことだったから、断っていた。そういうことがあったらしく、謝った。すると、「でもちゃんと断れるのはえらいね。なんでもはいはいってやるよりはいいよ。」と職人さんに伝わっていたのが嬉しかった。何よりその人は滅多に人を褒めない。これは本当かもしれない。

2軒目に移動する際も、職業病を発揮してしまった。普段なら変態扱いされてしまうのだけど、「また仕事のこと考えてるでしょ?病気だね。」と笑ってくれる。これは心地が良い。

2軒目はスナック。職人さんの行きつけらしい。その日に誕生日の人がいたらしく、職人さんがシャンパンを開けることに。テーブルに運ばれきたメニュー表を見て、そっと閉じた。シャンパンを飲むと…なんか美味しくない。隣から、「うぅ…」と職人さんの声。え?好きなんじゃないの?…これならルンバ買ったほうがいいわ。いらんけど。

「誕生日に花を送ってくれてありがとう!」と店員さんと職人さんが話をしていた。話を聞くと、お店に来て1ヶ月の新人さんの誕生日に花を送ったそうだ。その人は以前別の業界で働いていたが、コロナの影響で客足が減って閉店になってしまった。そのお店のオーナーの紹介で、夜のお仕事をすることになったそうだ。夜のお仕事も初めて、花を送ってもらうのも初めて、ご飯に誘われるのも初めて。お店を出だ後、職人さんが言うには、「頑張ってればいいことがあると思ってもらえればいいと思って。お店にとっても必要な人だろうから、辞めてほしくないんだよね。」とのこと。さすが社長は考えることが違うなぁなんて感心していると、「…というのは4割で、6割はやましいことしか考えてない。」と続けた。…何というか、予想の範囲内で逆にしっくりくる。


「社会勉強な。次のところは8万円出せばお尻触れるからな。」「なんでお金払って出禁にならなきゃいけないんですか。」なんてやりとりをしながら3軒目へ。もちろん、そういうお店ではない。0時を回っていたが、それならいらないけどルンバ買うわと言える余裕があった。というか、行き先を知ってから酔いが覚め始めていた。着いたのはニュークラ。社会人になってから大分マシになっていた人見知りを最大限に発揮される場所でもある。普段生活していたら交わるはずのない人が接待しようと隣に座る。これほど緊張することはない。普段起こり得ない状況で、目の前に「接客のプロ」がいるわけだから、会話術を少しでも学んで帰ろうという姿勢になる。人見知りが出てしまって、相手との間に線を引くどころか、壁を作ってしまう。たまに、壁を作ったはずなのに、なぜか壁の内側にいる場合がある。いつ来たの?と聞きたくなる。一瞬で距離を詰められるのには驚く。そういうのも勉強したい。

相手は自分が何を言っても肯定するものだと思っている。向こうは仕事上、「相手を楽しませなければいけないわけだから、どんな些細なことでも褒めてあげれば相手は気持ち良くなるものだと思っている」と仮定して話をする。大概は決まっている。一つは仕事の話。職人さんは「こいつは出世するから今のうちに仲良くしておいたほうがいいよ」と言ってくれるのだが、目が変わる人もいる。正直なところを言うと馬鹿みたいに給料が上がるわけではないし、ここに自分から来るかと言われればそうじゃない。話をしているうちに気づくと、会話のペースも相手から落としてくれる。会話の中で相手に気づかせるというのも、実は面白かったりもする。相手には申し訳ないけど。もう一つは趣味の話。バスケか音楽。バスケは経験してないと話を広げるのが難しそうだから、あまり期待はしていない。音楽の話はバスケに比べると広がりやすい。聴いてる音楽を聞かれたりする。「聞いてみたいんだけどおすすめは?」と聞かれたら、大抵はBase Ball Bearと答える。「理解されないだろうな」と思いつつ、向こうは向こうで自分みたいなタイプの客もいないのかもしれないから、せっかくなら普段生活していたら聴かないだろう音楽を紹介しようと思うからだ。楽しませてもらっているお礼と言えば恩着せがましいが、何か得られればとも思う。それでハマってくれればなおさら嬉しいし。…まぁ大体は遠い目で「へぇ…いいね…」と言われるわけだけど。

よく覚えていないけど、話していて「え?なにそれ?」と肯定されないというか、怪訝に思われる時がある。それでスイッチが入ってしまう時がある。「なぜそう思ったのか?」とか「あなただったらどうするのか?」と自分が質問して、相手に答えさせる時間が増える時がある。自分の話をするよりは、普段交わらない人の話を聞くほうが好きなので、こういう時間のほうが楽しかったりする。質問攻めをして「自分ばっかり話してごめんね。」と時間になって帰る時のほうが満足感があるぐらいだ。「楽しませなきゃ」と質問攻めをかわして、相手に話をさせようとされると冷めてしまう。仕事だから仕方のないことかもしれないけど。目標としては、「どうしてこの仕事を選んだのか?」と聞きたい。もしかしたら聞かれたくない人もいるだろうから、会話をしながらそれを確認しなければならない。

お店を出てから「今日は楽しかったか?」と聞かれる。楽しそうに見えないのだろうか。それなり楽しんだ。職人さんが「うわ!こんなカッコ悪い姿見られたくない!普段仕事でカッコいいところしか見せてないんだよ!やめてくれ〜」と言ってるところを見れてよかった。弱みを握ってやったってつもりは全くない。人間らしいところを見れて安心する。仕事中は本当に人間離れしている。ちゃんと人間らしいところを見れる機会がない。

しっかりと締めパフェを食べてその日は終わった。家に着いたのは3時。生活リズムが崩れてしまったが、職人さんと仕事外でコミュニケーションをとれて良かった。


「音楽が好き」と話すと何を聞くかという話になる。自分がロックが好きだと言うと「ヒゲダン?King Gnu?ウーバーはロック?」というのは大抵の流れで、どれもあまり聴かないので、正直に言う。どれも聴いてなくて悪かったね。相手も会話術にも期待して正直に言ってる部分もあるが、ほとんどはそこで相手の心を折ってしまう。ただ珍しく、LINEを交換しておすすめを聞きたいという人がいた。「パンクを聴いてみたいんだけど、Hi-STANDARDがあまり好みじゃなくて、おすすめありますか?」と聞かれた。英語の歌詞があまり得意じゃないのかもと感じた。「あまりパンクは聴くほうじゃないけど」と前置きをして10-FEETをおすすめした。

それからLINEが返ってこないけど、10-FEETのせいでいいですか?めっちゃルンバ買って、家をルンバ牧場にしようかな。

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