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ソワレ/木村夏樹の覚え書き/2024.03

先月の衝撃的な発表から、期待と不安でやきもきしていたが、ついに3月11日より、デレステと、VTuber星街すいせいのコラボが開催された

かつてない大掛かりなコラボ

これまで様々なコンテンツとコラボを行ってきたデレマスだが、今回の星街すいせいとのコラボは、かつてない大掛かりな規模となった。

ルームアイテムやあにぷちのコラボ、カバー楽曲も盛り沢山、木村夏樹も星街すいせいの楽曲『ソワレ』をカバーするという大役を担った。星街すいせいのチャンネルでもコラボ配信で取り上げて、木村夏樹の歌声をカッコいい、歌が上手いと評価してくれた。これも安野希世乃さんがレコーディングで息絶えるかと思うほど頑張ってくれたおかげだ、ありがたい。

そして何と言っても、星街すいせいの為に3Dモデルと、SSR衣装まで実装されて、ついには星街すいせいと高垣楓のコラボ楽曲『ジュビリー』が発表されて、デレステでイベントまで開催されるという異例中の異例の大規模コラボだ。

イベントコミュ内容は、VTuberというバーチャルでありながら現実でもある星街すいせいと、デレステという独自の世界設定がどうなることやらと思っていたが、そこはあまり深堀りはしない。

星街すいせいというアイドルの個性をメインに据えて、星街すいせいと、コミュに登場するデレマスのアイドルたちが、歌うこと表現することを考え、これからやりたいことを語り、これまでやってきたことを振り返り、星街すいせいと、デレステのアイドルたちが思う、アイドルの在り方を探求するような、それぞれのアイドルの個性が発揮されたコミュになっていた。

実際のところ、星街すいせいの特技や考え方をヨイショしすぎている気がしないでもないが、渋谷凛や辻野あかりのこれまでの足跡をも踏まえており、コラボがキッカケのご新規さんから、コミュに登場するアイドルたちのプロデューサーにまで気を配っているのを感じた。コラボの期待に応えるコミュであったことでまずは良かった。

だが、今回のコラボでは良かったことばかりでもない。

当たり前だが、今回のコラボで活躍の機会がなかったアイドルと、そのプロデューサーにとっては何の恩恵もなかった。そしてデレマスはアイドルの活躍の機会に厳しい格差がある。ボイスが未実装のアイドルにとってはデレステのイベント登場すら限定的で、ボイスが実装されているアイドルでさえも特定のアイドルに活躍が偏重したり、もう長いこと活躍に恵まれないアイドルもいる。そればかりか最近のデレステは事実上のサービス縮小に入っており、ますます活躍の機会が減少している。

そのヒリついた空気の中で、降って湧いた星街すいせいが、楽曲もイベントも恵まれた異例の厚遇に、良くない印象を抱く人がいるのも無理からぬことだ。こうした雰囲気は、今回のコラボに好意的な記事でさえも触れざるを得ない

ここで、大規模なコラボを喜ぶプレイヤー・ファンがいる一方、微妙な心持ちでそれを見つめるプロデューサーが存在するだろうことには触れておきたい。(…)今回も一部のプロデューサーから担当アイドルのボイス実装を求める声があがっている。

そして、コミュ内容にもひっかかるものがある。デレマス運営には、アイドルたちに運営の意見を代弁させるように、あからさまな演出をする良くない癖がある。今回もそれが見受けられた。

コミュ内で、星街すいせいとデレマスアイドルがコラボする配信動画に寄せられた批判的なコメントを取り上げており、これ自体はデレステ運営も今回のコラボへの批判も覚悟のうえで実施した意識が伺えて好感もある。だが批判的なコメントに対して、辻野あかりが「アレ」呼ばわりする。

アイドルをプロデュースすることが何よりのアピールポイントであるアイマスシリーズでは、ユーザーをプロデューサーと呼び、ユーザーにプロデューサーとしてのロールプレイを前提としている。

でありながらユーザーの意見を反映するコメントを、当のアイドルが「アレ」呼ばわりするのは、アイマスシリーズの前提を崩すような軽挙妄動だ。運営のよくない一面が現れている。

そしてまた、星街すいせいサイドにも思うところがある。

コラボ実施期間中に星街すいせいが公開した新曲の『ビビデバ』のMVは、あからさまにシンデレラをモチーフにして、現実とアニメ世界を融合させた意欲的な作品であり、攻めた演出で面白いが、その中で、ガラスの靴をぶん投げるシーンがある。

言うまでもなく、シンデレラをモチーフにするアイドルマスターシンデレラガールズにおいて、ガラスの靴は特別な意味がある。毎年実施される総選挙で1位になったアイドルに与えられる称号が「シンデレラガール」であり、その記念に贈られるのがガラスの靴である。190人を超えるアイドルたち、そのプロデューサーたちが求めてやまないものだ。

だからと言ってデレマスにおいて、ガラスの靴が絶対的な神聖というわけでもない。デレステ3周年記念曲『ガールズ・イン・ザ・フロンティア』では“ガラスの靴はイミテーション”“自分の足で歩けシンデレラ”と、シンデレのイメージをも超えて、自分らしく夢に進むことを歌っている。今回のコラボでもその件に触れられている。

そしてまた星街すいせいは、まさしく自分の足で歩いてきたシンデレラだ。個人VTuberとして出発して、ホロライブのオーディションに一度は落ちても、強引にでもホロライブの社長に直談判してホロライブ内の音楽レーベル所属を経てホロライブに移籍、そしてゲーム実況から歌唱まで幅広く展開して、VTuber戦国時代を生き抜いてきた。そんな超実力派VTuberにとっては、お仕着せのガラスの靴は不要のものだ。

しかしながら、ガラスの靴はいらないと言えるのは、活躍の機会に恵まれて、栄光に拘泥する必要のない、ある種のゴールに到達した立場だからこそ言えるもの、デレマスにおいては活躍の機会にも恵まれず、ボイスさえも未実装のスタート地点にも立てていないアイドルは大勢いる。

そうしたアイドルたちとプロデューサーにとっては、超高待遇のコラボ期間中に、ガラスの靴を投げ捨てるMVを公開したことに、反感を覚えるのは当然とも言える。

今回の星街すいせい✕デレステコラボは、コラボそのものは及第点をおさえながらも、そのコラボの周縁に関して、こうしたら良いよねと思うことが出来ずに、こうしたら良くないよねと思うことばかりが重なり上滑りする。双方の歯車が噛みわず、減点方式だったら問題だらけで、シナジー効果どころか不協和音さえも聞こえてくるようだ。

デレマスができなかったこと

さて、どうにも星街すいせい✕デレステコラボは、双方のコミュニティにも大きく波及することなく、不協和音さえ聞こえる中で終わりそうな気配がある。その一方で、同じアイマスとVTuberのコラボでありながら、エムマスのユニット『DRAMATIC STARS』と、にじさんじ所属のVTuberユニット『VΔLZ』のコラボは双方の界隈からも大好評だった。好循環を生んで互いのコミュニティが双方を知ろうという動きがある。

そしてまた、デレステと同じくリズムゲームアプリで、デレステを追い落として人気を博すプロセカは、運営が「キャラクターの公平性について」可能な限りのバランスについて説明して宣言した。

今回のプロデューサーレターでは、各種コンテンツで私達がバランスをとれる範囲を可能な限り具体化します。

デレマスとVTuberがコラボして出来なかったコミュニティの好循環を、デレマスと同じアイマスシリーズのエムマスがやり遂げた。デレマスがアイドルに活躍の機会を公平に与えることも、その事情も説明出来ないのに対して、同じリズムゲームのプロセカが、キャラクターの公平性を宣言してコミュニティへの理解を示した。

デレマスが出来ないことを、デレマスと同じアイマスシリーズが、デレマスと同じリズムゲームは出来た。この違いはなんだろうか、いよいよデレマスの運営能力の限界が見えてきたということだ。

シンデレラのお城が崩れ始めた

デレマスの運営能力の限界を感じたのは昨日今日ではないが、最近はより顕著だ。3月5日に実装された神谷奈緒SSR[フローリア・フロイライン]において、とあるクリエイターが作成する『フローラル釘バット』というファンシーグッズと名前も形状も同じものを、クリエイターに無断でイラストとボイスに実装してしまった。

結果として、デレステは『フローラル釘バット』という表現を『ロマンス釘バット』に改めることで事態は収まった。先例に倣って表現するのはいいとしても、無断で取り上げるのはリスペクトがないと言われても仕方ない。デレマスの運営能力の限界を感じる一件だった。

そして、この一件以上に限界を感じたのが、3月28日に突然発表された『シンデレラガールズ劇場わいど』の最終回だ。

デレステの『シンデレラガールズ劇場わいど』は、モバマス時代に始まった『シンデレラガールズ劇場』を引き継いでおり、ボイスの有無にも関係なく全てのアイドルが同じ世界にいる、デレマスで数少ない格差のないコンテンツであり、間違いなくモバマス以来のデレマスの世界の根幹を支えるコンテンツだったはずだ。

それが何の予告も兆候もなく、突然の最終回。それも星街すいせい✕デレステコラボ期間中で、直前に星街すいせいが『シンデレラガールズ劇場』に登場しているにも関わらず、コラボをキッカケにご新規さんが見込める、よりによってこのタイミングで最終回。

新規に冷水をぶっかけて、古参を裏切るような最悪の終わり方。終わるにしても終わり方というものがあるはずだ、流石にこればっかりはデレマス運営の頭を疑った。お前変なクスリでもやっているのか。

『フローラル釘バット』の一件と、『シンデレラガールズ劇場わいど』の突然の最終回。さらに言えば星街すいせい✕デレステコラボ期間中で、そのコラボもサービス縮小下でリソースを貴重な割きながら、歯車が噛みわず不協和音が聞こえる中で終わりつつある。

デレマス運営の段取りとか調整とか、根本的な運営能力の欠如がいよいよ隠しきれなくなってきた。

デレマス、特にデレステというゲームは違法建築に例えられることがある。

デレステという1つのゲームの世界だけではなく、モバマスから続く世界、アニメやマンガなど各種メディアミックスの世界、イベントやライブなどの現実世界、デレステはそれら全てを包括しようとする。

そして190人以上いるアイドルそれぞれを取り上げて、それぞれのストーリーを無理矢理にでも引き継いだ結果、世界観やアイドルの設定に矛盾が生じるのが当たり前、その場しのぎ急ごしらえのリフォームと増築を重ねたような違法建築。それがシンデレラのお城だ。

そしてデレマスの運営は、アイドルたちを愛しているとは言いながらも、アイドルたちに理解があるとは言い難い、運営が良かれと思ってやることが、アイドルの大事にしているものを踏みにじるような、善意で地獄への道を敷くことを重ねてきた。

善意で舗装された地獄への道の先に建つ、その場しのぎの急ごしらえの違法建築、それがシンデレラのお城だ。

そのシンデレラのお城が、どうしようもなくなって崩れる瞬間を目にしている。

それでも『ソワレ』を歌う価値

それでも、シンデレラのお城が崩れるこの時であっても、星街すいせい✕デレステコラボはやるべきだった、やるしかなかった、やらないという選択肢はなかった。やるんだ。

アイドルマスターシンデレラガールズが閉じたコンテンツで、デレステがサービス終了を待つばかりであったとしても、であれば、なおのこと、最後の最後の輝きとして、蝋燭が燃え尽きる前の輝きとして、時代の寵児であるVTuberのホロライブの星街すいせいとのコラボの価値はあった。その彗星のごとき輝きが、燃え尽きる前の蝋燭に光を与えてくれたことに意義はあった。

そして、だからこそ星街すいせいの『ソワレ』を木村夏樹がカバーしたことが、なおのこと一層意味を持ってくる。

前述したように星街すいせいはど根性の人だ。今でこそVTuber業界でも最大規模の事務所ホロライブで、屈指の歌唱力と表現力でアイドルの道をひた走るが、これまでに紆余曲折を経て来た。その心情が強く反映されているのが『ソワレ』だ。

一晩じゃ語り尽くせない悲劇も 一晩中 語り明かせたら 喜劇になってゆく

とめどなく日々を繋ぐ 架け橋 渡ったら いつの日か ソワレ 君に届くまでさ 何度でも 呼び声を

輝くような理想を求めて、その歌声を届けるために、ひたむきに前に進もうとするこの楽曲は、星街すいせいそのものであり、その精神はデレマスの全てのアイドルにも通じるものだ。

『ソワレ』は木村夏樹だけじゃない、デレマスのアイドル全員が歌うに相応しい楽曲だ。それを木村夏樹が代表して歌ったと自分は受け取った。

そして、ある意味では木村夏樹はデレマスのどのアイドルよりも『ソワレ』を歌うに相応しい。

木村夏樹は、デレマスの他のどのアイドルよりも運営によって贔屓もされて、また毀損もされてきた。

木村夏樹は総選挙で50位圏内に入ったこともない。にも関わらず、安野希世乃さんという最高の存在でボイスが実装されて、ソロ曲を2曲も得て、数々のデレステのイベントでも、リアルのライブでも活躍してきた。どう考えても結果を出していない、人気も今ひとつであるである木村夏樹には不相応の贔屓を受けてきた。

だがその一方で木村夏樹は毀損もされてきた。デレマスの運営は時として、特定のアイドルをフィーチャーしたとしても、それが逆にそのアイドルの大事にしているものを踏みにじるような扱いになる、地獄への道は善意で敷かれていることが稀によくある。デレアニの19話では、木村夏樹はそれまで積み上げてきたものを全て否定されて、7th大阪公演でも、感動を演出するための都合の良い道具にされた。

つまりはだ、その場しのぎの急ごしらえの違法建築も、善意で舗装された地獄への敷石も、木村夏樹そのものと言っていい。だからこそ、木村夏樹にはこのシンデレラのお城の礎になっているからこそ、それを打破するだけのポテンシャルがあると思っている。獅子身中の虫として、どうしようもなくなっているシンデレラのお城を、運営の現状を内側から食い破るだけのポテンシャルが木村夏樹にはあると信じている。

木村夏樹であるからこそ、この違法建築も、善意で舗装された地獄への道も、なかったことにせず、悲劇を喜劇に変えることが出来る。

さて、こんなことを言っといてなんだが、自分はデレマス運営を信じているわけではない。むしろ信頼をなくしている。デレマス運営が何をやろうと歯車が噛みわず上滑りするのも、土台となる信頼が脆いから、その上に何も築くことが出来ずにいると思っている。

自分が木村夏樹に対して、公式の動きに信頼を置けるようになった最大の要因は、その声を担う安野希世乃さんの存在だ。

どんなことがあろうと、この人がいれば大丈夫だと思うほどのボイス実装があればアイドルはまだまだ戦える、デレマスはまだ舞える

だから、自分が運営に対して言えるのは、とっととアイドル全員にボイス実装しろとしか言えない。すべてはそこからだ、せめてアイドル全員にボイス実装の宣言だけでもいい。デレマスの現状を変えるには、デレマス運営が信頼は得るにはそこからしかない。その信頼の上に、崩れ去ったシンデレラのお城を再建するしかない。

そしてまた、これだけ偉そうに言ってもだ。今の自分には、デレマスの現状を嘆いている人の気持が分かるとはとても言えない。自分がデレマスで何より大事な木村夏樹は絶対に恵まれている方だから、本質的には現状を嘆く人の気持ちをわかり得ない、わかり得ないことをわかる。

だから自分がデレマスの現状に嘆く人に言えることは、進むも地獄、退くも地獄の中で、取れる手段は、地獄を記録して言葉にして、なかったことにしないことだ。

一番の地獄は、そのアイドルが大事にしているものを踏みにじっているのに、そのアイドルのプロデューサーでもない人からは好意的に受け止められていること、埋めがたい認識の差だ。

アイドルマスターシンデレラガールズでは、口を噤んで良いことなんて一つもなかった。言葉にして記録して、何度も何度も掘り起こして、なかったことにしない、それでようやく風向きが変わる。だから自分はこうして言葉にして記録している。

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