教えてよねえ 選ばぬまま 過ぎ去った道のその行く末を/木村夏樹の覚え書き/2023.01

2023年3月にはモバゲーのアイドルマスターシンデレラガールズがサービス終了予定の中で、その最後の復刻イベントが昨年の暮れに投票によって選ばれた。その一つであるLIVEツアーカーニバル『追想公演 Missing Link Memories』が今月、復刻開催された。

この公演は木村夏樹にとっては異例づくしであった。そもそもが木村夏樹が劇中劇である公演に出演するだけでも珍しい事件だ。そして劇中劇である公演は、普段のアイドルの人格とは全く異なる役柄を演じることもあれば、普段のアイドルの人格をより掘り下げるような役柄もある。


その公演で木村夏樹が演じたのは、先輩風を吹かせてカッコつけながらも、実際は過去に向き合わず逃げ惑っていたという役柄であった。

過去にあったことを隠して過去に向き合わず、胸襟を開かずカッコつける。まるで木村夏樹そのものだ。

木村夏樹は過去よりも未来志向、さらには今その瞬間が全てであるかのような刹那的な思考がある。だがそれはカッコつけて過去に向き合わずに逃げていることの裏返しだ。

木村夏樹が過去に何かあったのは『空想探査計画』のコミュの「「お前には才能がない」なんて他人の言葉を素直に聞いてやる必要なんてない」、『Jet to the Future』コミュの「ロックな音楽だけじゃやっていけなかったヤツなんだ」などのセリフからも察しが付くが、そのカッコつけの性分から明らかにせず隠している。

そんな木村夏樹の、カッコつけて過去に向き合わず逃げ惑う姿を、劇中劇でメタ的に描いた追想公演は、木村夏樹の活動全体で見ても異例中の異例で事件だった。

その公演がモバマス最後に復刻されるイベントの一つに選ばれるというのは、つくづく皮肉な巡り合わせだ。

公演が開催された2020年12月から復刻されるまでこっち、木村夏樹の過去についてはろくに掘り下げられることもない、フェス限定SSR[My Life, My Sounds]という絶好の機会ですら限定的な内面の吐露に留まった。依然として木村夏樹は過去に向き合わず逃げ惑っている。2年もの間、そしてモバマス11年の歴史で木村夏樹が積み重ねてきたものは何だったのかを考えざるを得ない。

それにしても、今月はモバマスでの復刻イベント以外に、これといって木村夏樹関係で動きはなかった。それでも何の動きもないアイドルに比べれば恵まれている。

そのモバマスもあと2ヶ月でサービス終了となり、これからアイドルの活躍の機会は一層限られることになる。

そのモバマスで最後の復刻公演の一つが開催される裏で、デレステの『ハートボイルドウォーズ』コミュでは、これまでのデレステのイベコミュでは類を見ないほど徹底した劇中劇で、どこかモバマスの公演を彷彿させるトンチキ演出や、出演者もマシマシで普段の垣根を超えた何でもありの演出から、デレステがモバマスの公演のエッセンスを受け継ぐ意思表示とも見えた。

かと思えばモバマスで最後を飾るイベント『ラストシンデレラヒストリー』においては、事務所の引越しという体で、モバマスのサービス終了とこれからも続くデレマスというコンテンツをメタ的に描いている。だがその演出には新しい事務所には持っていけないものがあると語られており、これはモバマスから受け継げないものがあると言外に語っているようでもある。

モバマスのサービス終了を控えて、さらにはアイドルマスターシリーズそのものが「PROJECT IM@S 3.0 VISION」として、これまで以上のマルチ展開やVTuber業界に進出など、大きな転換点を迎えようとしている中で、2023年のアイドルマスターシンデレラガールズがどうなるのか、木村夏樹がどうなるのか、考えてみると楽観視は出来ない。

とにもかくにも、アイドルマスターシンデレラガールズを楽しむということは、担当アイドルや気になっているアイドルの活動を楽しむことになる。活動は多いにこしたことはないが、一方でアイドルマスターシンデレラガールズというコンテンツの運営は、後先考えずにアイドル一人ひとりの人格や積み重ねよりも、運営のやりたいことをゴリ押しするエゴイストである。何のことはない、過去に向き合わず逃げ惑っているのはアイドルマスターシンデレラガールズというコンテンツのそのものなのだ。

これからのアイドルマスターシンデレラガールズ、そして木村夏樹のことを思うと、ただひとつ自分が言えるのは、カッコ悪い木村夏樹がどうなるか、過去に向き合わない一方で過去に未練たらしく、カッコつけて胸襟も開かない木村夏樹がどうなるか、これに尽きる。

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