コリー・ハートに花束を

中学2年生のときにMTVで観たカナダ人のミュージシャン、コリー・ハート。一時期はブライアン・アダムスと人気を二分するくらい本国では人気があったと雑誌で読んだ覚えもあります。なんとなく垢抜けないような、でも漂う哀愁が魅力的で、私は彼のレコードを買うようになりました。高校生のときまでに出たアルバムは全部持っています。大学受験の頃に佐野元春さんのラジオで彼のヒット曲「Never Surrender」が流れたときは泣きたいくらい嬉しかったですし、エルヴィス・プレスリーの「Can’t Help Falling In Love(好きにならずにいられない)」をカヴァーして日本での人気に火が付いたときは、でしょ!と思ったものでした。

大学ではフリッパーズ・ギターに夢中になってしまったので、ほとんど聴かなくなっていたのですが、大学4年のある日、当時の彼が「コリー・ハート好きだったんだろ、スタジオ観覧のチケット申し込んでおいたら当たったよ」と言ったのです。TVK(テレビ神奈川)のファンキートマトという番組で、その頃は森若香織さんが司会をしていらっしゃいました。

町田駅近くで真っ白いカラーの花を買って、チケットを当ててくれた彼と一緒に、電車で銀座ソニービルの公開録画スタジオに向かいました。その日のメインゲストは元ボ・ガンボスどんとさんで、どんとファンのお客さんが多かったです。コリー・ハートはその頃にはあまりヒットに恵まれず、収録でもわりと地味な扱いでした。あるスタッフさんが、私が手にしていた花に気づいてくれて、コリー・ハートさんがスタジオから去る前にお花は渡せますかと聞くと快く許可してくれて、手渡すことができました。

収録後、プレゼントのコーナーが。コリーのサイン入りファイルを欲しい人、とスタッフさんが募ると数人が手を挙げ、それではじゃんけんで、ということになりました。私はじゃんけんが弱いので端から諦めていましたが、どうしたことか、あいこが二、三回続いた後、私が運よく勝ってしまったのです。ああ、どうしよう、いいんだろうか…と迷っていると、先ほどのスタッフさんが「あなたが勝ったんだから」と声をかけ、いいから遠慮しないで持って行きなさいと促してくれました。同じ思いを持って集まった数人のファンの方々のお気持ちを考えると心苦しかったのですが、そのままいただくことにしました(今でも保管しています)。

14歳の夏から大好きだったコリー・ハート。まさかこういう形でお花を渡せる日がくるなんて思いませんでしたし、まさかプレゼントがいただけるなんて。ふわふわとした足取りで帰路につきました。

人って自分ひとりでは、なかなか物事を動かすことはできません。たくさんの人の優しさや後押しがあるからこそ可能になることが多いです。
そのときでいえば、当時の彼やスタッフさんがそうでした。残念ながらもうお付き合いしていた彼に会うことはないでしょう。コリー・ハートはその後、幸せな結婚をしてバハマに移住し、3年ほど前(2020年)に新しいアルバムを出して、とてもナチュラルにいい年のとりかたをしていらっしゃいます。ファンでよかったなあとアルバムを聴きながら感じました。ちなみに下記リンク先のビデオに一緒に出演している少年は実の息子さんだそうです。

もし、いま、コリー・ハートとあのときの番組スタッフさん(もしかしたらディレクター的な方だったのかもしれない)、どちらかに会えるとしたら―、私は迷わずスタッフさんに会ってお礼を言いたいです。あなたのご配慮のおかげで夢がかないましたと。
そしてできるならば、白いカラーの花束を、その方にもプレゼントしたいのです。素敵な思い出をいただいた、遠い日のお礼に。

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