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In Between Days-2(2023夏 東京日記)

7月9日(二日目)

夏もあけぼの。一人旅の何が気楽かというと、朝食の支度をせずに、のんびりしていられるということです。目が覚めて、机の上にあるポストカードを見て、昨晩の楽しい夜は夢じゃなかったんだと思い出します。
(幡ヶ谷Club Heavy Sickを客として最後に出た時、片付けをしていたスタッフの方から買ったKameさんイラストのThe Zombies。とてもかっこいいカードです)

その日は黄緑色のボウリングシャツを着ようと決めていて、キャリーケースに取り急ぎ詰め込んだ小物から青地に白とグリーンの花柄のスカーフを選びました。前の晩にいただいたMotel’s Sofaのロゴ入りバッヂを付けるとしっくりきて、出かける気分も高まります。

Motel's Sofaのバッヂ

宿を出て、(前回の吉祥寺でKODAMA&THE DUB STATION BANDを観たスターパインズカフェに向かう前に立ち寄った)ハモニカ横丁の入口などをのぞきながら、お店に向かいます。WORLD BREAKFAST ALLDAY 吉祥寺店。
「朝ごはんを通して世界を知る」というコンセプトに惹かれて、事前に問い合わせをしてありました。イギリスやアメリカなどのレギュラーメニューに加え、2カ月ごとに異なる国をテーマにした期間限定のメニューが出るそうで、6月~7月はマレーシア。ご一緒する方に、どのメニューにしましょうかと聞くと意見が一致したので、いただいてみました。

最初はテイクアウトするつもりでしたが、雨の予報だったのでお店で待ち合わせることに。当日は曇り空、屋外のパラソルの下の席を選びました。前日に買ったエミとゲルの冊子をパラパラしたり、お土産に添える一筆箋を書いたりしているうちに正午。ランチタイムの朝ごはんです。
マレーシアの朝食プレートにはバナナの葉が敷かれ、香りのよいライス、ココナッツミルクと香辛料で煮込んだ鶏肉に、イワシの稚魚やピーナッツを揚げたもの、ふわっと軽い桃色のえびせんのようなスナック、茹で卵や胡瓜などが添えられて。私は自分の服の色に合わせたくて、フレッシュライムを使った飲み物を注文しました。

曇り空でいくぶん暑さが和らいでいたとはいえ、7月初め。香辛料の効いた食べ物でほんのり汗も出てきますが、外の空気にあたりながら遠い国の料理を味わうのは楽しい。相手のお声がよく聞き取れるので、BGMのかかる店内よりもいい。貴重な休日の時間を割いて来てくださって、初めてゆっくりと聞けたお話は興味深く、何にも勝るごちそうでした。
こんなに食べながら、ついでにおやつも食べちゃいましょうかとなって、英国イートン校のクリケット試合が発祥というデザート、イートンメスをいただきました。イートンと聞くだけでピンときてしまい、頼まずにはいられません。

イートン校ゆかりのデザート、イートンメス

すっかりお腹いっぱいになり井の頭公園へ。池のほとりを散歩しました。穏やかな口調でこれからのことなどを話される横顔が印象的だったので、お写真を撮らせていただきました。結局一緒に並んで撮ることは遠慮し、雑踏に消えゆく後ろ姿を見送りました。

井の頭公園 池の辺りで

宿に戻り、次の場所へ向かいます。20年も前から使っているNative Books & Beautiful Thingsという大好きだったお店のトートバッグはとっくに擦り切れていますが、今回の旅ではどうしても持って行きたくて、配るつもりのお土産を詰めて担ぎました。

電車を乗り継いで、もうすぐ目的地という少し手前が大岡山の駅でした。そこは3年前に亡くなった同郷の旧友が長く住んでいた場所です。そういえば彼女が里帰りのとき、「あんたが好きかなーと思って」とくれたミナ・ペルホネンのエコバッグ、どこへいったかな…。晩年あまり話さなくなってしまっていた彼女のことを思い出して、もっと向き合えばよかったねと、そっと目を瞑りました。改札口を出るとパラパラと雨。ようやく家から持参した折り畳み傘が役に立つことに。

訪ねてみたかったお店へ、ドキドキしながら入ります。お洒落で愛らしい店主さんが奥のカウンターにいらっしゃいました。地下へ降りたところで、ちょうどMarine Girlsの曲がかかって、その偶然がまた嬉しい。オンラインのサイトで見ていた、数々の音楽家とコラボレーションした商品はもちろん、オーナーのセレクトした小物や音楽雑誌、レコードを手に取るのが楽しくて、あっという間に時間が過ぎました。私はローリー・アンダーソンのパンフレットを買って帰ることに。またいつか来られるといいなと思いながら、お店をあとにしました。

次は今回のメインでもある高円寺のディスクブルーベリーです。
オーナーの中村慶さんは、2019年頃から私のイラストを自身の主宰するレーベルの作品で使ってくださった恩人のような方でもあります。鎌倉の新店舗へ移転する前で、高円寺のお店はイベントラッシュ。この日はフランスから来日したOrwellと、the paselinesのカセット「split ep series vol.5」リリース記念、ゲストにsugar meさんを迎えてのインストアライブでした。きっとお客様はいっぱいだろうな…と時間をずらして行ってみたところ、ライブ終盤を観ることができました。不勉強なので初めて聴いたのですが、ラストのほうでOrwellのジェロームさんがデヴィッド・ボウイの”Ashes To Ashes"をカヴァー。わあ、と引き込まれました。

お店はもちろん満員なので入口の外側から覗いていたところ、あれ、もしかしてこの方は…と思う方が幾人も。SNSでお顔は知っていたので話しかけたものかどうか迷いながら、お話することができました。The Carawayの嶋田修さんは、2018年のイベントフライヤー用にイラストを依頼してくださって―その後に繋げてくださった方なのです。クリスマス曲のEPイラストを担当したこともあり、いつかお礼を申し上げたいと思っていました。当日司会を務めておられたThe Bookmarcs近藤健太郎さん、通訳のPATさんなど、一方的に存じ上げている方々や、普段フォローしている方々と声をかけ合えて、わあ本物だあ!となって、昨晩から私どれだけたくさん素敵な方々に会えているのだろうと頭がいっぱいに…。思わず、担いでいたお土産を初対面の方にも突然分け始めたりして、はっきりいって挙動不審でした。演奏を終えたイケミズマユミさん(連日大忙しなのです)やカウンターにいらした中村さんにご挨拶して、確かb-flower八野英史さんのThe Beefieldsの新作も入っているはずと思いながらも、その日発売されたばかりのスプリットカセットのみを購入し、おいとましたのでした。たぶんそれ以上残っていると、キャパシティオーバーの私はもっと不審な言動をしたに違いありません。(後日知ったのですが、お客様の中には私が一度お会いしたかったTwitter繋がりの方もいらして、お土産を配る私に気づいておられたとのこと…私おかしな人でしたよね、きっと…)

移動が長かったからか胸がいっぱいだからか、心地よい疲れ。生姜の入った夕食でチャージをし、宿に戻った私は、Corneliusの『夢中夢』とセルジュ・ゲンズブールの『メロディ・ネルソンの物語』をダウンロードして繰り返し聴きながら夢の中へ。
”耳の奥かすめて/火花が散った”
メロディの乗った貨物飛行機…。


7月10日(三日目)

一昨日、羽田空港に着いたのとほぼ同じ時刻に羽田発。つまり滞在時間は48時間。わあ濃かったなあと思い返しながら、リムジンバスで空港へ向かいました。空港へ向かう間、The Pale Fountainsの"Thank You"を聴いていました。

戻ってきてからこの文章をまとめるまでの間に、またいろんなことが起こりました。ジェーン・バーキンも空へ旅立ってしまい、多くの方が彼女の死を悼みました。

そんな中、幾つか気づいたことがあります。滞在中に相手がふと口にしたHard Luck Womanという言葉が私の中でずっと残っていました。
そうだ、全てにおいて幸運な人なんていなくて、みんな外からは見えないけれど、なかなかのハードラックを抱えているのだよなあと。ライブやイベントに集ったり、音楽などの趣味を愛する人たちも、それぞれに仕事をこなしながら、その楽しみに向けて日々を送っていたりするのですね。

ノロガルナイトでかかったThe Cureの"In Between Days”も音だけ聴くとキラキラのポップスだけれど、最近になって意味を知った歌詞はちょっと情けない。そんな情けなさも吹き飛ばす感じがとても救われて、そこからビートルズの"A Hard Day’s Night"や"Eight Days A Week"を思い出していたのですが、あの日のノロガルナイトでは、peteracco live!がKISSの"Hard Luck Woman"をカヴァーされたのだそう。連想と現実が繋がるようで興味深かったです(そう思うのは私だけかもしれません)。

7月の中旬にはBetween The Linesというイベントがあって、沖野俊太郎さんがむかし小山田圭吾さん達と組んでいたVelludoや、Penny Arcadeが出演、これまたとても素晴らしいライブだったのだそうです。
ちょうど私が東京へ行っていたときにPenny Arcadeは都内でシークレットライブをされていて、それはプレミアムチケットとなってしまったBetween The Linesが観られない友人やファンのために企画されたことを知り、人はこうして誰か大切な人たちを喜ばせるために一生懸命に動いておられるのだなあとまた胸が熱くなり。

Between The Linesには「行間」という意味があるそうです。
人と人との出会いとか、出来事の間には空白があって、それがとても密なこともあれば、私みたいに長い人生を生きてきてもスカスカなこともあります。けれど会いたい人の扉を叩いたり、知りたいことを調べたり、自ら行動して単調な暮らしの中に杭というか目印になるものを打っていくと、それが後々、自分の支えになるのかもしれないと、また上手くまとまりませんが、思うのです。

そして、つまらなく思える日々の行間にも、ときどき、宝物は見つかるのだろうと。
だから、また私は時折、小さな旅に出るのです。


追記

シャルロット・ゲンズブールが監督した母と娘のドキュメント『ジェーンとシャルロット』が、ジェーンの亡くなられたこの夏日本公開となり、サエキけんぞうさんがプロデュースしたイベントが8月2日に行われました。
POiSON GiRL FRiEND feat 斎藤ネコのライブ、多くの方の胸を打つものだったそうです。"Yesterday, Yes a Day"を選ばれたと知って涙が出そうでした。私がひと月前に行ったあの下北沢Flowers Loftで。
その頃私は、島で台風6号に閉じ込められながら、母の仏壇の近くに敷いた布団の中で、隣の部屋の父の小さないびきを確認しながら、ライブの感想を読んで想像するばかりでした。

観たいものをなかなか生で観ることはできないし、会いたい人たちのお顔もそうそう直には拝見できないけれど…。
想いだけは遠くへ飛ばしながら、すぐ隣にいる人たちへの優しさも忘れないように居たいなと思ったのです。


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