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最後の王座決定戦とベテランいぶし銀対決

昨日のnote、読んで下さった方々ありがとうございました。まだ読んでいないよーという方、一応ちょっとだけ頑張ったのでお時間ありましたら是非。

さて、今回は昨日書くと宣言した今週末の試合について改めて。今週は2つの世界タイトルマッチが行われる。1つ目はPremier Boxing Champions(以後PBC)によるSHOWTIME興行のメイン、IBF世界Sライト級王座決定戦。1位ヘレミアス・ポンセ(アルゼンチン)vs 2位スブリエル・マティアス(プエルトリコ)だ。Sライト級はジョシュ・テイラー(スコットランド)によって4つのベルトがまとめられていたが、昨年テイラーの返上ラッシュによってWBO以外の全てが空位となった。そのうちWBAとWBCは昨年のうちに決定戦が行われたが、この試合は残る最後の1席であるIBF王座を巡っての決定戦である。
この両者はどちらも非常に好戦的で、とてつもない量の手数を出しまくる。一歩も引かないバチバチの打撃戦を期待していい試合だ。下手したら、先週の2試合を上回る死闘になる可能性すらあると思っている。

ではそんな両選手について紹介していこう。まず1位のヘレミアス・ポンセ。30戦30勝(20KO)という素晴らしい戦績を持つ26歳。出世試合は、2021年6月のルイス・リットソン(イギリス)とのIBF挑戦者決定戦。テクニシャンで鳴らす強豪リットソンを1Rから烈火の如く攻めまくり、無尽蔵のスタミナでそのまま攻め落としてしまった姿はなかなか強烈なインパクトだった。当時自らを上回るキャリアと実績を持ち、それまで1-2の僅差判定負けによる1敗しかしていなかったリットソンを攻略しきった攻めはまさにエンドレス。良いタイミングのカウンターを何度も貰いながらも全く怯まず、上へ下へととにかく滅多打ちにした挙句、最後はボディで3度膝を着かせるという完璧なKO勝ちだった。KOラウンドは10Rだが、それまでのポイントもほぼポンセのフルマークに近い内容だったと記憶している。確か戦前の下馬評はかなりリットソン寄りだったため、思っていた展開と180°違う結末に驚いたのを覚えている。やや線が細めの長身(180cm)で手足が長い、そんなひょろりとした体形から繰り出される予想外の超攻撃型スタイル。彼の試合を見たのはその時が初めてだったが、その1試合でヘレミアス・ポンセの名前は私の記憶に強く刻まれた。当時まだ24歳とかなり若かったこともあり、勝てるかどうかは別として、是非ともジョシュ・テイラーに挑む姿を見てみたいなと思っていた選手の1人だ。世界的には決して有名な選手というわけではなかったこともあって、さすがにテイラーへの挑戦は叶うことはなかったが、ここに来てSHOWTIMEのメインという大舞台で遂に世界戦のチャンスが回ってきた。リットソン戦でIBF1位の座を掴んでからおよそ1年8ヶ月、ドイツで格下相手との調整試合をこなしながら待ち続けただけに(2戦ともKO勝ち)、モチベーションは最高潮だろう。Sウェルター級前王者ブライアン・カスターニョが陥落してしまい、世界王者がSフライ級王者のフェルナンド・”プーマ”・マルティネス1人となってしまった母国アルゼンチンに、2人目の王者誕生の吉報を届けることは出来るだろうか。

続いて対する2位のスブリエル・マティアス。次期王者に最も近い選手の1人として、長らく注目を浴びてきたプエルトリコのホープだ。この選手の特徴は何と言ってもその鈍器のような固い拳。その攻撃力の高さは18勝1敗18KOという戦績を見ればお分かり頂けるだろう。ただ、この選手のKOというのは少し独特で、直近の5勝中4勝がRTD、いわゆる相手の棄権によるTKO勝ちなのだ(1つドクターストップ含む)。もちろんダウンは奪うのだが、かと言って中間距離や遠距離からキレのあるパンチ1発で仕留めるという感じのKOは彼の代名詞ではない。井上尚弥やジャーボンデイ・デービス(アメリカ)のようなKOアーティストタイプではなく、どちらかと言うとLヘビー級3団体統一王者のアルツール・ベテルビエフ(ロシア)のようなタイプだ。大振りで一撃で倒しに行くパンチはそもそもあまり打たず、接近戦に持ち込んだ状態で7~8割程度のパンチをコンスタントに打ち込んでくるため、相手としてはむしろタチが悪いかもしれない。見るからに痛そうなパンチでみるみる顔を腫らしていき、ダメージの蓄積も顕著になっていく自分の選手を見て、相手陣営は試合をストップせざるを得なくなってしまう。
そんなまさに凶器のような拳を持つスブリエル・マティアスだが、実はそのパンチの強さ故に辛い過去も持つ。2019年7月19日のマキシム・ダダシェフ(ロシア)との一戦。テオフィモ・ロペス(アメリカ)vs 中谷正義のセミで行われた試合のため、覚えている方もいらっしゃるかもしれない。この試合は評価の高いプロスペクト同士による、IBF2位の座を懸けての無敗対決だった。(間違っていたらすみません。)結果はハイレベルな応酬の末、ダダシェフ陣営が11R終了時に棄権を申し出たことによるマティアスのTKO勝ち。両者持ち味をよく発揮し、さすがにこの階級のプロスペクトのレベルの高さは凄まじいなと思わせられる名勝負だった。・・・だが、試合後に悲劇が待っていた。11Rもマティアスの凶器の拳にさらされ続けたダダシェフが、脳へのダメージによって亡くなってしまったのだ…。確かにかなり深いダメージは負っていたものの、ダダシェフも決して一方的に打たれまくっていたわけではなく、個人的には特別ストップが遅いというのも感じなかった。28歳と未来ある若者に降りかかったあまりに悲しすぎるリング禍。もちろん1番辛かったのはダダシェフの家族やチーム、友人たちで間違いないだろうが、その報を受けた時のマティアスの心情も察するには余りある…。ドーピングや体重超過などといったルール違反を犯したわけでもないマティアスには当然何の罪もあるわけないが、自らのパンチが原因で対戦相手が命を落としてしまうというのは、自分だったらと想像しただけで罪悪感に押しつぶされそうになる。実際、さすがのマティアスもその後は少し調子を崩したようにも見え、次々戦ではロシアのペトロス・アナニアン相手によもやの敗戦を喫してしまった。しかし以降は立ち直り、3試合連続で世界ランカー相手にRTD勝ち。前戦ではアナニアンを圧倒してリベンジも果たし、満を持して再度世界2位まで返り咲いてきた。

マティアスが辛い過去を乗り越えて遂に辿り着いた世界戦。現在最も王者に近い選手と評されるプエルトリカンが、同じく高い攻撃力を武器とするアルゼンチンファイターをどう相手取るのか。逆に両手に凶器を備えるマティアスに対して、ポンセがあの超攻撃的ボクシングを貫けるのか。
ポンセのスタミナvsマティアスのパンチ力。王座獲得経験のまだない選手同士による決定戦ながら、まさしくKO必至の極上の世界戦なのだが、悲しいことに日本では合法的に視聴する術がない…。よって多くの方は結果だけという形になってしまうと思うが、だからこそ両選手の特徴や背景だけでも知ってもらえたらうれしい。
スブリエル・マティアスはダダシェフの分まで絶対に世界を獲って欲しいと特別強い思い入れを持って応援し続けてきた選手。ということで個人的にはやはりマティアス応援にはなってしまうが、どちらが勝つにしてもとかく面白い試合になるに違いない。いやはや本当に楽しみである。アルゼンチンとプエルトリコという往年のファンにとってはかなり思い出深いであろうボクシング大国のホープ同士。Sライト級最後の王座決定戦をモノにするのはどちらか。大注目の一戦だ。

この試合ともう1つ行われる世界戦は、お騒がせYouTuberジェイク・ポール(アメリカ) vs トミー・フューリー(イギリス)というクルーザー級8回戦のセミに組み込まれている。WBC世界クルーザー級タイトルマッチ、イルンガ・マカブ(コンゴ)vs 同級3位バドゥ・ジャック(スウェーデン)だ。サウジアラビアのディルイーヤで行われるこの試合は正確に言えば日本時間で2/27(月)なのだが、便宜上今週末とさせて頂く。
こんなことを言うと怒られてしまいそうなのだが、実は私はメインも割と普通に楽しみだったりする。と言うのも私は、ポール兄弟そのものが好きではないというより、プロボクシングと称して別競技の選手と戦ったり、とっくに全盛期を過ぎた元UFCファイターをリングに上げてボクシングルールで戦ったり、"まともな"ボクシングの試合とは到底言い難いことばかりやった挙げ句に大口を叩く、そんな彼らの一連の流れが好きではないのだけなのだ。そのため、今回のような正当なボクサーとの試合を重ねていってくれるのであればむしろ大いに歓迎で、普通に楽しみにしたいと思っている。何だかんだポール兄弟のボクシングはしっかり練習していることが伝わってくるし、特にジェイクの方はそれをよく感じる。ちなみにトミー・フューリーというのは、現WBC世界ヘビー級王者タイソン・フューリーの腹違いの弟だそうだ。ただ、この試合に関しては興味のある日本人ファンは少ないと思うので、セミのマカブvsジャックの世界戦に焦点を当てようと思う。

イルンガ・マカブvsバドゥ・ジャック。この試合は一言で言えば超玄人好みの激渋マッチ。この渋いというのは悪い意味ではなく無論良い意味だ。数少ないアフリカ人世界王者であり、高いKO率を誇る強打者マカブ。一時期カネロのターゲットとして名前を挙げられ少~しだけ有名になったが、それでも未だに決して広く知られた王者とは言えない。近年は開催される興行より立ち消えになる興行の方が多いで有名な、悪名高きドン・キングと契約する数少ない選手の1人で、それが故に王座を獲得してからもしっかり試合枯れに悩まされている…。今回も12月あたりに一旦は1位ノエル・ミキャリアン戦が組まれていたが消滅し、ジャックに相手を変えて試合が再セットされた。かつて1度勝利を収めた指名挑戦者タビソ・ムチュヌ相手に、負けでもおかしくなかった際どい判定を何とか拾って勝利した前回の試合から約1年1ヶ月ぶりの試合だ。ちなみにムチュヌ戦も1年1ヶ月ぶりの試合だったため、2試合続けて1年以上の試合間隔となる。35歳と若くはない上、高いKO率が武器の選手で決して絶対的な安定感があるタイプではないことを考えると、この試合間隔は正直不安要素だと思う。だがアマ実績のないプロ叩き上げの選手でロマンあふれる苦労人王者だけに、個人的には地味に応援している選手。是非とも頑張って欲しいし、願わくば統一戦までこぎ着けて欲しいものだ。

マカブに挑むのはこちらも苦労人39歳バドゥ・ジャック。ジャックという名前にちなんでジャック・ザ・リッパー(切り裂きジャック)のニックネームを持つが、そんな恐怖を煽るエイリアスとは裏腹にボクシング自体はテクニシャン寄り。北京五輪への出場経験も持つ。もちろんパンチ力もあるが、技術と経験に基づく手堅いボクシングが彼の身上だ。既にSミドル級とLヘビー級で世界王者になっている立派な2階級制覇王者でありながら、統一戦やそれに近いようなここぞの試合でドローや僅差判定負けを繰り返してきた、まさに”あと一歩”の男。ジャックほどの選手をあと一歩などと表現するのは失礼極まりないかもしれないのだが、本当に運次第でさらに偉大な実績を手にしていてもおかしくないそんな選手なのである。2019年、1-2で惜しくも敗れたジャン・パスカル(カナダ)との世界戦後、再戦も決まっていたパスカルから禁止薬物がごっそり検出されるという不幸な目に遭ってしまったのも記憶に新しい。あの時は、パスカルからベルトを取り上げて即ジャックに与えてあげて欲しいという気持ちになったファンも多かったのではなかろうか。最初にジャックを苦労人と評したのにはそういった理由がある。
そんな憂き目を見たジャックはその後クルーザー級に階級を上げ、3階級制覇へ狙いを定めた。Lヘビーでも特別大きい方というわけでもなかっただけに、クルーザー級の旅路は決して楽ではなかったと思われるが、さすがの底力で何とか世界戦まで漕ぎ着けてみせた。前回の試合では、ポパイこと曲者リチャード・リベラ(アメリカ)に2-1のSDで辛勝した。幾度もジャッジに嫌われてきたジャックが久々にモノにした僅差判定だけに、このチャンスは何としても活かしたいところだろう。39歳大ベテラン、バドゥ・ジャックのキャリア最後の大勝負にもなりかねないこの試合は苦労人同士の柔と剛対決。実はマニアを唸らせる味わい深いマッチアップなのだ。

どうだっただろうか。相変わらずめちゃくちゃ長くて恐縮だが、今週の試合が少しは楽しみになって頂けただろうか。へえ~そんな試合があるのかと、知って頂けた方がもしいらっしゃればそれだけでも幸いだ。ちなみに後に紹介したサウジアラビア興行の方は、FITEというアプリで1080円払えばPPVを購入できるようだ。ジェイク・ポールがタイソン・フューリーの兄弟を相手に初めて戦う"まともな"ボクシングの試合。そしてマカブとジャックというベテラン2人によるマニア向け試合。いずれかに興味がある方なら購入する価値はそれなりにあると思われる。ただかなり朝早いので、もし購入を考えられている方がいらっしゃるならそこには注意されたし。
というわけで今回も長文を読んでいただきありがとうございました。

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