【精神科医・岩波明】『エヴァ』や宮崎アニメとも相通じる!?「ピュアな革命思想」に現代の若者が共振か

出版界のヒットメーカーが編集を手がけ、瞬く間に100万部を突破した『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)。糸井重里ら著名人も称賛のコメントを寄せ、メディアにも絶賛の記事が並んでいる。本稿では、そんな同書の裏にあるイデオロギーや時代性を、“サイゾー的”に批評、レビューしてみると……。

岩波 明・精神科医

1959年、神奈川県生まれ。東京大学医学部卒。都立松沢病院、東大病院精神科などを経て、現在、昭和大学医学部精神医学講座教授、昭和大学附属烏山病院・院長。近著に『精神鑑定はなぜ間違えるのか? 再考 昭和・平成の凶悪犯罪』(光文社新書)などがある。

 この作品が売れているのは、やはり宮崎駿監督が次作に同じ題名をつけると2017年10月に発表した影響が大きいのでしょうね。ただ近年は若い方が「非現実的なピュアな物語」を求める傾向にあり、その流れでこの作品が読まれている気もします。宮崎監督の『風立ちぬ』(13年)や新海誠監督の『君の名は。』(16年)もある種の純愛物語ですし、住野よるさんの小説『君の膵臓をたべたい』(15年)も、恋愛未満の淡い心境を描いている。TBSのドラマ『逃げるは恥だが役に立つ』(16年)は、純粋無垢で、いわゆるアスペルガー的な登場人物の恋愛物語でした。

 主人公のコペル君は、『エヴァンゲリオン』の碇シンジに似ていませんか? 頭は良く純粋だけれど子どもっぽくて甘えん坊という、近代以降の日本文学がたびたび描いてきた「ナイーブな現代少年」「悩める青少年」のひとつの典型です。現実ではこういうタイプは、対人関係をこじらせがち。ただコペル君は、「自分の言葉を持っている」ので立ち直っていけるでしょう。彼は、おじさんにきちんと内面を告白し、仲違いした友達にも手紙を書いて関係を修復できました。精神科を受診するところまで病んでしまう若い方には、受診時にもひとこともしゃべらない方も多いですから。

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