“情弱”という言葉の時代的変遷――東日本大震災後に増加! ネットスラング? 詐欺まがいのビジネス!?

――2月22日、ドワンゴの夏野剛氏が「76歳の母親がスマホ契約時に不当なオプション加入を押し付けられていた」という主旨の内容をツイッターに投稿し、話題となった。これを受けてネット上では「情弱ビジネスだ」と、批判の声が上がったが、「情報弱者」とは本来、情報技術の世界で使われていた専門用語だったはず。いつの間に「情報を十分に活用できない者」を指す言葉と化したのだろうか?

『貧乏人が激怒する ブラック日本の真実 「情弱一人負けの時代」を生き抜くヒント』(光文社)

「情弱」という言葉は複数のニュアンスを持っている。例えばスマホのオプション契約で不利益を被る者や、怪しげな情報商材に手を出しては負債を抱える者などだ。後述するが、本来の意味の「情報弱者」は、こうした者たちを指す言葉ではなかった。なぜ、ここまで広い意味で使われるようになったのか?

 そこで、「情弱ビジネス」の実態を解剖する特集の冒頭では、「情弱」という言葉の意味合いが、どのような変遷をたどっていったのかを考えていきたい。

 まず最初に、「情報弱者(情弱)」という言葉が登場したのは、いつ頃からなのか? 雑誌の図書館・大宅壮一文庫の雑誌記事目録を確認してみたところ、現在までに「情弱+情報弱者」というワードをタイトルに冠した記事は55件あった。

 初出は「情弱」が「ソーシャルメディアにスマホ…使っていても情弱な人とは?」(「週刊SPA!」2011年3月29日号/扶桑社)、「情弱ビジネス」はPCデポの高額解除料問題を取り上げた「月刊Hanada」(16年11月号/飛鳥新社)と、かなり最近だ。他方で「情報弱者」の初出は「財界臨増」(1996年9月20日号/財界研究所)で、應義塾大学環境情報学部の石井威望教授(当時)が、インターネットの浸透がビジネス環境にどのような影響を及ぼしているのかを語る内容の記事だった。

「『情報弱者』自体は古くからある言葉で、かつては『団地住まいの人が地域の情報に疎くなって孤立している』というような状況を表していましたが、80年代に『パソコン通信』が普及し始めると、『情報格差』という問題が生まれます。これは高齢者や視覚障害者、日本語が不得意な外国人などがコンピュータを使えないために、そこを経由して提供される情報に疎くなってしまうことを指します。実際、94年の防衛白書では『日本で災害が起きた際、このままでは外国人に情報が行き渡らない』という趣旨の問題提起がなされており、翌年の阪神淡路大震災で、それが現実化してしまった。そのような背景があり、情報格差を是正しようという機運が高まったんです」

 そう語るのはインターネットの文化史に精通する、ネット研究家のばるぼら氏。しかし、2000年代に入ると「情報弱者」という言葉は、インターネットが発達していく流れで別の意味合いを持つようになる。

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