規制で生まれたアンセムは国を動かす!?――共産圏らで禁忌化するラップ、リリックはネットで国境を越える

――欧米ではポピュラーな音楽としてチャートを席巻しているヒップホップだが、ロシアではイベントが次々と中止に追い込まれ、中国ではテレビへのラッパーの出演を見合わせるなど、“ラップ”への規制が厳しくなりつつあるという。なぜ、そんなことが起きているのか? その内情を現地の状況と共に探る。

「ラッパー=品行不良」という方程式は時代錯誤である。プーチン大統領の目の敵にされたロシアのラッパー、ハスキー。

「ロシア各地で若者に人気のラップなどの音楽コンサートが11月以降、当局の要請で次々と中止になっている。10月に起きた10代少年による凶悪事件を受けて治安機関が取り締まりを強化したとの見方が有力だが、プーチン大統領が『中止の理由を明らかにすべきだ』と指摘する騒動になっている。南部クラスノダールでは11月、ラッパー、ハスキーのコンサートが検察の要請で中止となった。ハスキーは品行不良で裁判所から拘束12日間の行政罰を受けた。ほかにもラッパーやパンク・バンドの公演が検察の警告などを理由として、地方10都市以上で中止に追い込まれた」 ――2018年12月半ば、共同通信はこのように伝えた。

 ラップの検閲でよくある事例だ、と思われるかもしれない。詳しくは後述するが、社会が変革していく中で、“ラップ”にまつわる規制の事例が近年は多く見られ、こうしたニュースは後を絶たない。

 ハスキーはデビュー当初から、厳しい日常の生活をリアルに綴り、ファン層を広げてきたロシアの人気ラッパー。記事には“品行不良”とあるが、これは駐車されていた他人の車のルーフ上でパフォーマンスをした行為を指しているようである。しかし、そんな行動になったのも、多くのファンを集めたにもかかわらず、直前にライブが中止されたため、ファンを戸外に誘導し、メッセージを送ろうとしたからだった。つまり、ハスキーのリリックの内容が問題視され、しょっぴかれたわけではない。

 ここに、その翌月の12月15日に開かれ、生放送されていた文化・芸術の諮問委員会の席上でのプーチン大統領の発言を加えると興味深い。彼は、厳格な規制は逆効果になることが多いとし、ラップへのアプローチを変えるべきだと主張。「防止が不可能なら、監督すればよい。監督し、必要な方向へ導くにはどうすべきか。それがもっとも重要な問題だ」と述べた。これを聞いた現地のラッパーの中には、「政府が勝手に決めたガイドラインの中でラップするなんて御免だ!」と、すかさず意見を表明する者もいた。

 また、プーチンは「ラップをはじめとする今の音楽は、『ドラッグ、セックス、抗議』の3つの柱からなっている。この中でもっとも懸念しているのはドラッグであり、国の劣化にもつながりかねない」とも語った。今やロシアにおいてラップは、プーチンが扱いに手を焼くほど人気と影響力、そして存在感があるのだ。

 前置きが長くなってしまったが、これがロシアの現状である。本稿では同国をはじめ、中国やタイなど、厳しく規制されるラップの状況を見ていきたい。

イベントの中止はネットの拡散恐怖?

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