イスラム国の戦士もジハードのために服用!? サウジの王子が大量に密輸!イスラムとドラッグの危ない関係

――イスラムの戒律において麻薬は酒と同様に禁じられている……ようにも見えるが、その一方で、イスラム圏にはアフガニスタンのようなアヘンの一大産地もある。また、最近は、あのイスラム国の戦士たちが士気高揚のためにドラッグを使用しているなんて噂も!? イスラム世界のドラッグをめぐる実態と諸問題に迫りたい。

アヘンの原料となるケシの果実。その世界最大の産地がアフガニスタンである。(c)Farmer Dodds

 2015年、イスラム過激派・イスラム国の戦士がカプタゴンなる薬物を使っている可能性があると、BBCやCNNなど欧米のメディアが報じた。だが、イスラムでは麻薬をタブー視し、それに手を染めたムスリムは厳罰に処される印象も。また、イスラム過激派といえば、イスラムの教義を厳格に守るはず。イスラム法を研究する桜美林大学の堀井聡江准教授はこう話す。

「イスラムの聖典『クルアーン(コーラン)』で禁じているのはブドウ酒のみですが、イスラム法学ではその禁止がほかの酒や麻薬を含む酩酊物一般に及ぶと類推解釈され、イスラム国もそれらを禁じています。ただし、生命にかかわるほど必要不可欠な場合には禁止物も解禁されるというイスラム法学の原則に従い、医療用の麻酔などはイスラム世界で許される。ともすれば、この原則は方便的な解釈につながる可能性も。例えば、イスラム国では一般市民が麻薬を使えば厳罰に処されるが、戦士が士気を高めるべく麻薬を使うのは必要不可欠だ、という解釈も成り立つでしょう。また、聖典で明示的に禁じられているのはブドウ酒であるため、酒の禁止にこだわるムスリムは多いですが、人によっては薬物にあまり抵抗を感じないことも考えられます」

 実際、イスラム世界の歴史をさかのぼると、確かにドラッグとは無縁ではない。堀井氏はその一例として、11~13世紀にイラン高原で独立政権を打ち立てた、シーア派二大分派のうち少数派のイスマーイール派の分派・ニザール派を挙げる。

「彼らはリクルートした若者に大麻を吸わせ、敵対勢力の暗殺を実行させました。そのことから“暗殺教団”とも呼ばれ、その名前は“assassin(暗殺者)”の語源になりました」

 また、13~15世紀頃に台頭した、神アッラーとの合一を目指すイスラムの修道者・スーフィーは、修行の手段としてしばしば酒や麻薬を用いていた。

「もっとも、これには酩酊により神と合一したような気分になれるという側面もあるでしょう。ただ、スーフィーにとって酒や薬物の禁止はイスラム法の象徴であり、そのタブーをあえて冒すことで、イスラム法をただ遵守するよりも、神への真の信仰心が大事であると示そうとしている面もあるのです」(堀井氏)

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