普遍性の裏に隠れたイデオロギーと時代性――サイゾー的視点から読み解く『漫画 君たちはどう生きるか』

出版界のヒットメーカーが編集を手がけ、瞬く間に100万部を突破した『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)。糸井重里ら著名人も称賛のコメントを寄せ、メディアにも絶賛の記事が並んでいる。本稿では、そんな同書の裏にあるイデオロギーや時代性を、“サイゾー的”に批評、レビューしてみると……。

『君たちはどう生きるか』

原作・吉野源三郎
漫画・羽賀翔一

主人公は旧制中学に通う15歳の少年・コペル君。彼は叔父さんと対話を重ねながら、いじめへの対処法について悩む。友だちの家の貧しさに触れては、貧困問題を考える。そして「友だちを裏切る」という辛く厳しい経験も経て、勇気や友情のあり方を考え、成長していく……。ヒューマニズムの精神に根ざした成長譚が感動を誘う、2017年の話題作。

 8月24日の発売から4カ月あまりで100万部を突破と、2017年を代表するベストセラーとなった『漫画 君たちはどう生きるか』。原作本の発行は1937年で、著者は岩波少年文庫の創設にも尽力した編集者・児童文学者の吉野源三郎。近年までは岩波文庫版が広く流通しており、80年にわたって読み継がれてきた名著だ。

 本書が大ヒットしたのは、子ども向けの啓蒙書、道徳の書の色合いも濃かった原作本を、より自己啓発色を強く打ち出し漫画化した点にあるだろう。担当編集者は、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』『嫌われる勇気』の編集者として知られる柿内芳文氏と、『宇宙兄弟』『ドラゴン桜』を手がけた佐渡島庸平氏(コルク代表)という大ヒットメーカーだ。

 また、旧制中学に通う15歳の少年・コペル君と叔父さんとの対話を通じ、いじめ、友情、勇気といったテーマを掘り下げていく内容には、時代に左右されない普遍性がある。一方で物語には、家の貧しさを理由に学校に通えない同級生も登場。彼と接するなかで貧困問題について考える部分は、格差の拡大する現代日本には特に切実に響くテーマとなっており、それもヒットの要因と言えるだろう。

 本稿では、そんな『漫画 君たちはどう生きるか』を、サイゾーにゆかりのある有識者たちが分析。それぞれの専門分野の視点から、ヒットの背景や、本書の裏にある時代性、イデオロギーまで読み解いていく。

(協力/古澤誠一郎)

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