“病みver”【青山ひかる】と送る・女子とメンヘルカルチャーのいびつな関係

――今、10代後半~20代の女子の間では、「ゆめかわ」「病みかわ」と称されるファッションが一部で流行している。そしてSNSでは「メンヘラ」が揶揄の言葉であると同時に、女子がカジュアルに自称する言葉にもなっており、「メンヘル」「病み」のようなネガティブなワードが誇らしく語られる属性になりつつある。カジュアル化する「メンヘラ」を取り入れた過激なグラビア写真と共に、この現象を考察する。

(写真/草野庸子)

【拡大画像はグラビアギャラリーでご覧いただけます。】

「ギャル消費」や「ヤンキー経済」「パリピ経済」など、カルチャーのセグメントによる経済効果に注目が集まる昨今、またひとつ新たに勢力を拡大しつつあるカルチャーがある。それが「メンヘラ」だ。

 ここでいうメンヘラとは、精神科に通院する患者をそのまま指しているわけではない。SNSで「メンヘラ」と検索すると、自傷写真や向精神薬の写真が出てくると同時に、「今日のメイク、メンヘラっぽい」と添えた女子の自撮りや、イラスト投稿アカウント「メンヘラ少女」、ピンク髪の女の子キャラ「メンヘラチャン」のイラストなどが引っかかる。「メンヘラ少女」「メンヘラチャン」は人気アカウントで、後者はアパレル展開もしており、“病みかわいい”と呼ばれるファッションを好む層から支持されている。まとめサイトでもメンヘラとの恋愛トラブルネタは定番だし、アダルト系サイトでもひとつのジャンルだ。

 この言葉を掲げたアーティストも登場している。名前からそのままな「病ンドル」や、“病みかわいい”がビジュアルコンセプトの「ぜんぶ君のせいだ。」といったアイドルグループのほか、代表曲が「メンヘラ」のロックバンド・ミオヤマザキ、「病ンデル彼女」などの楽曲を持つビジュアル系バンド・R指定などが次々に台頭。音楽メディアでも、この言葉を目にする頻度が一気に高まった。

【1】メンバーオーディションから「病んでいる」ことを資格として結成されたアイドル「病ンドル」。元あやまんJAPANのメンバーがプロデュースしている。【2】「病みかわいい」をコンセプトに据えたアイドル「ぜんぶ君のせいだ。」。【3】自身のメンヘルキャバ嬢経験などを過激な歌詞で歌うバンド「ミオヤマザキ」。代表曲はストレートに「メンヘラ」。【4】中高生から支持の厚いビジュアル系バンド「R指定」。2016には幕張メッセでのワンマンライブを開催した。

 メンタルヘルスという言葉自体は80年代から使われているものの、今日的な意味の「メンヘラ(メンヘル)」は2ちゃんねる・メンタルヘルス板発祥とされ、精神疾患を抱えた人、あるいは精神的に不安定な状態を指す言葉である。蔑称として使用されることもあれば、当事者が自虐的に名乗ることもある。一方で、無邪気に「メンヘラに憧れま~す」という人もいる。メンヘラカルチャーが拡大している背後には、「メンヘラ」という言葉の意味の拡張があるのだ。

「病み」を標榜するカルチャーというもの自体、大人から見ると理解し難いところがある。しかし各所で「メンヘラ」表現は浸透しており、今後も影響力を増しそうな気配がある。それこそ「メンヘラ消費」「メンヘラ経済」が誕生するのも遠くない未来なのかもしれない。匿名掲示板発祥のアングラ的存在だったものが、どのようにメジャー化してきたのか、本稿ではその軌跡を辿っていきたい。

(取材・文/藤谷千明)
(スタイリング/Hitomi)
(ヘア・メイク/kuu)

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