バッドトリップによる疑心暗鬼を描くリリックも…ドラッグを描いた日本語ラップの“パンチライン”

――こちらの記事では、紹介しきれなかった具体的なパンチラインを紹介する!

■外国人プッシャーをぶん殴る!
MSC

新宿のアンダーグラウンドにあるセックス、ドラッグ、バイオレンスをラップし、2000年代に注目された同地レペゼンのクルー・MSC。漢がラップするこのラインは、イラン人プッシャーをぶん殴る様子を描いたものと思われる。MSCを率いてきた漢の自伝『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社)でも、それが“リアル”に起きた出来事として綴られている。

CRUのマーボが手にした当具は
空のビール瓶
何も知らずに笑顔でやってきた
イランの額目がけて
タイミングよく振る渾身の
フル・スイング
――「新宿アンダーグラウンド・エリア」(リミックス曲が『Matador』収録/Pヴァイン/01年)

■ヤクザに使われる売人の悲哀
SEEDA

ハスラー・ラップのブレイクスルーとなったSEEDAの『花と雨』は、ハスリングや大麻栽培などドラッグ関連のトピックが満載だが、ハスラーを引退した自らの半生を振り返った作品。例えばこのラインのように、売人は所詮ヤクザの小間使いにすぎないことを私小説風に歌ったのだ。なお、「rob」とは「奪う」、「bounce out」とは「飛ぶ」という意味。

元手が無きゃマージンのはざま
ビビタル
映画より現実に学ぶdrug deal
homieがhomieをrob
言ったはずさ 金が人を喰らって
またbounce out!
――「LIVE and LEARN」(『花と雨』収録/KSR/06年)

■“売り手”の視点で歌ったストリート
漢 a.k.a. GAMI

MSCを率いる漢が“売り手”の視点から新宿のストリート・ビジネスを描いた1stソロ・アルバム『導~みちしるべ~』は、SEEDAの『花と雨』と並び、ジャパニーズ・ハスラー・ラップを確立した一枚といえるだろう。このようなリリックが何を意味するかはご想像にお任せするが、漢は自身のラップをリアル至上主義の新宿スタイルと言い表してきた……。

欲深い商売 すべて暗黙の了解
地方都市から延びる
人脈コネクション拡大
サンプル渡して在庫確認
翌日に落ち合い 月に一度の割り合いで
チョー腹黒いお付き合い
――「需要と供給」(「導~みちしるべ~」/Libra/05年)

■裏稼業の“後戻りできない”感
NORIKIYO

神奈川県相模大野をレペゼンするNORIKIYO。裏社会からの出口が見えずにいるハスラーの姿を歌ったアルバム『EXIT』で聴くことができるこのラインは、同地より小田急線の終電に乗り、新宿まで酷刑(コカインを指す隠語)を売りに行くさまを描いたもの。地元と都心が容易にタクシーを使えない距離であるため、“後戻りできない感”が詩的に演出されている。

23時各駅新宿シルバーシート
ヘッドフォン中鳴るMOBB DEEP
背にリュック車は避ける
小田急TRAIN乗り デリバリー酷刑
撥ねた円が取り分
――「23時各駅新宿」(『EXIT』/KSR/07年)

■身近な存在のドラッグとジャンキー
KOHH

現段階で2010年代を象徴するラッパーといえるKOHH。当初は極度にチャラいラップが注目されたが、14年にシリアスさもある『MONOCHROME』を発表。同作収録の「Drugs」は、彼が生まれ育った東京・王子の都営団地には薬物使用者が当たり前にいることを描いたが、これに続くのは〈だけどそんな俺はしない/だからって別に差別もしない〉というライン。

ママに吸わされた
初めてのマリファナ
あの時驚いたけど笑う今なら
合法でも非合法でも俺の周りは
薬物を使う人が多い
それだけの話だ
――「Drugs」(『MONOCHROME』/GUNSMITH PRODUCTION/14年)

■バッド・トリップによる疑心暗鬼
BES

コカイン摂取のエピソードを多く聴くことができるBESの『REBUILD』には、ドラッグのネガティヴな効用=バッド・トリップによって勘繰りや自己嫌悪に陥るさまが描かれている。それまでのラッパーは「オレは自信がある」と歌ってきたわけだが、例えばこのラインではそうした自意識の完全なる反転まで歌われているのだ。こちらの記事では本人が登場!

俺は誰だか自分に自信がある
使うのは頭、時間、金とRap
俺は誰だか自分で不安になる
使うのはDrug、時間、金とRap
――「ネバギバ」(『REBUILD』/Pヴァイン/08年)

■女性ラッパーによる大麻賛歌
NOPPAL

富山のフィメール・ラッパー、NOPPALによる「I Luv Mary Jane」は、一聴するとレイドバックしたサマー・チューンに思えるかもしれないが、リリックによく耳を傾ければ、このような大麻讃歌だとわかる。ちなみに、“真っ赤な目”も“マンチー”もマリファナ服用による身体症状で、後者は空腹感を意味するが、とにかく同曲に後ろ暗さは一切感じられない。

真っ赤な目したMy friendsが笑う
くだらないTalkがはじけるTonight
マンチーで手止まらない
チョコレートスナック
Every timeだけど
I’m broke for now
――「I Luv Mary Jane」(『SUMMER EP 2015』/IMAGE CLUV/14年)

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