サイバー監視国家、言論統制、されど楽しい中国のネット文化――「プーさん」が検索禁止でも……エロは隆盛! 中国ウェブの今

——中国のITは相当進んでいるらしい——という噂は聞くが、実際はどうなのか? ネット事情を含めて、中国の社会事情に精通するノンフィクション作家・安田峰俊が、現地から中国ウェブ事情の“今”を完全リポートする。

中国版ツイッターともいえる「微博」。日本のタレントもプロモーションを兼ねて利用する者は多く、水原希子はなんと280万以上のフォロワーを擁している。

 共産党の一党専制体制下にある中国のインターネット事情が極めて「不自由」であることは、おそらく読者もある程度はご存じだろう。

 中国では政府のネット規制政策(「赤い万里の長城=グレート・ファイヤー・ウォール」)によって、ラインもツイッターもフェイスブックもインスタグラムもYouTubeも使えない。それどころかグーグル系のサイトへの接続がすべて規制されているため、私たち日本人にはおなじみのサービスを用いた検索やメールチェック、地図の閲覧すらもできない。接続規制を免れている海外サイトでも、旅行やネットショッピングのサイトを含めて、基本的に中国国内からの接続速度は非常に遅くて不便が大きい。

 ゆえに同国内では、ラインの代わりにウィー・チャット(微信)やQQ、ツイッターの代わりにウェイボー(微博)、グーグルマップの代わりにバイドゥ地図(百度地図)といった類似サービスが登場し、多くの国民によって親しまれている。だが、近年10年足らずで急速にサイバー監視国家へと変貌した中国において、これらの中国製サービスでやり取りする登録情報や会話内容、モバイル接続時の位置情報などは、基本的にすべて当局に筒抜けである。

 特にここ数年、中国ではウィーチャット・ペイ(微信支付)やアリペイ(支付宝)などの電子マネーを使ったスマホ決済・送金システムが大幅に普及し、世界のビジネス界からも驚きをもって受け止められている。都市部でこれらの普及率は98%ともいわれ、チェーン系飲食店やコンビニでは現金を使うと逆に困った顔をされるほど、生活に密着している。だが、もちろんこれらの決済情報や利用時の位置情報も当局が把握可能である。アリババ社が運営する世界最大のネットショッピングサイト・タオバオの利用状況も同様だ。

 電子マネーの普及と並行して、シェア自転車のモバイクやofo、フードデリバリーの美団外売や餓了麼、シェアライド(中国版Uber)の滴滴出行、旅行サイトのシートリップなど現地の特徴に対応したさまざまな派生サービスが生まれた。結果、都市部の庶民の暮らしは劇的に便利になった——。というより、それを使えない者が明らかに不利や不便を被る社会になったが、これらの利用情報もやはり当局に流れていると考えていい。

 中国では、IDカード番号・携帯電話番号・銀行口座情報が三位一体で強く紐付けされて国家のビッグデータとして蓄積されている。事実上、便利な生活と引き換えに自身のあらゆる情報を当局に引き渡すシステムの社会なのだ。最近はさらに、顔認証機能を用いた個人の人相や指紋もこの紐付けに組み込まれつつあるほか、少数民族問題が深刻な新疆ウイグル自治区では住民に対する生体情報(DNAなど)の採取すらも進んでいる。

 いまや中国には国内各地に1億7000万台以上の監視カメラが存在する(将来的に4億台の設置が計画されている)。うち、都市部を中心とした2000万台には、高度な顔認証機能と人工知能技術が搭載されており、クラウドに接続して政府側のビッグデータを参照、通行人の素性をリアルタイムで把握する「天網」という最新の国民監視システムが組み込まれている。中国の監視社会化の陰には、ITやウェブの大幅な発展が存在する。

“くまのプーさん”もNG! 大喜利化するネット検閲

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