【無料公開中】医療、軍事、娯楽、セックス、報道――すべてを担う テクノロジーは人類を幸せにするのか?

――今や生活に溶け込んだスマートフォンも、かつてはSF作品に出てくるようなファンタジックなものだった。ならば、同様に現在すでに開発・研究が進んでいる、「夢の技術」もあるのだろう。テクノロジー最前線に萌芽する変革の兆しと、すでに生活に入り込んだものとの付き合い方を考える。

■ 医療とヘルスケア

[2020年のヘルスケア業界におけるIT関連職の割合増加率予測]21%

ヘルスケアと医療の世界は、スタートアップがこぞって参画する注目領域だ。シカゴ大学の予測によれば、2020年までにはヘルスケア業界におけるIT関連職従事者は現在より21%増えるとされている。3Dスキャナと3Dプリンターによる移植用心臓や動脈の制作、パーキンソン病の発見にも活用されようとしているウェアラブルコンピュータ、大塚製薬も出資する米ベンチャー・プロテウス デジタル ヘルス社のデジタル錠剤(薬にICチップを埋め込み、飲み忘れを防ぐ)など、各種の研究が進んでいる。テクノロジーの発展は、人類の寿命を延ばすことになるのかもしれない。

■ 交通インフラと車
[エアロモービル3.0試作機]最高時速200km

SF的な未来都市の風景といえば、空飛ぶ車だろう。スロバキアのエアロモービル社は14年10月、試作機「エアロモービル3.0」を発表。日本でも自動車エンジニア・中村翼氏がプロジェクト「SkyDrive」を進め、17年の完成を目指す。一方で交通インフラも、ソーラー道路の開発やイーロン・マスクが構想するチューブ型輸送システム「ハイパーループ」など変化の予兆を見せる。都市の過密と環境破壊の大要因となっている交通システムの進化は、暮らし方の大きな変化となりそうだ。

■労働と人工知能
[コンピュータが全人類の知性を超える予測年]2045年

コンピュータが全人類の知性を超える未来は、2045年にやってくる、とアメリカの発明家レイ・カーツワイルは予測している。これは「シンギュラリティ(技術的特異点)」と呼ばれる地点を指し、現在の人類はそこに向かっているとする説がある。それ以後は人工知能やロボットが経済の主体となり、人間は労働から解放される――というと良きことのように思えるが、「技術的失業」の一種であり、第一次産業革命で機織り機によって織工が仕事を失ったのと同じこと。「人間」にできることとは何か? が問われている。

■ 娯楽とコミュニケーション
[フェイスブック社によるオキュラスVR社買収価格]20億ドル

14年3月、フェイスブック社はヘッドマウントディスプレイ「オキュラスリフト」で知られるオキュラスVR社を20億ドルで買収した。ヘッドマウントディスプレイはゲームにおける活用が期待されるほか、360度展開されるVR映像を共有できれば、遠くの人と臨場感を持ってコミュニケーションが可能になる。「遠隔臨場感(テレイグジスタンス)」と呼ばれる技術は、「人間」の拡張可能性として注目を浴びる分野だ。遠隔地のロボットのセンサーと自身をリンクさせることで、視覚以外の感覚も体感できるようになる可能性があり、各国で研究が行われている。

 スマートフォンでテキストチャットをし、SNSで知らない人と戯れ、ウェブメディアでニュースを知る――もう当たり前になった、日常の光景だ。しかし振り返ればわずか15年ほど前、こんな生活を送ることを多くの人は想像していなかった。

 21世紀に入って以降、生活に直結するテクノロジーの進化は目に見えて速くなっている。ならば、ほんの数年後にまた我々の生活や世界観を変えるテクノロジーが、すでに知らないところで産声を上げているのではなかろうか――ということで、ITライターや研究者、メディアアーティスト、テック系メディア編集者等、この道に詳しい方々へ聞き取りを行い、本誌でピックアップした注目のジャンルが上記の4つである。

 2014年はウェアラブルコンピュータ市場が盛り上がる、とされていた年であり、その中身としては健康管理に関する機能を備えたものが多かった。ウェアラブルコンピュータ自体は期待されていたほどの成功を収められていないが、テクノロジーの次の方向性のひとつにヘルスケアがあることは疑いがないだろう。スマートフォンでもヘルスケア系アプリが多数存在し、このジャンルで一旗揚げようというスタートアップも多い。

 日々の生活を支える交通手段も変革のポイントだ。電気自動車が実用化され、先進国では広く普及。さらに混雑を解消し、よりスマートな移動を実現すべく、新しい輸送手段が生まれる可能性は高い。

 ただし、そうして毎日出かける先の職場が消えてなくなる可能性もある。工場などの単純労働はすでに多くがロボットに置き換えられているが、現在の人工知能の発達からいくと、ホワイトカラーの職種でさえも、そう遠からず同様の事態を迎える、という予測がなされている。人類の存在が人工知能によって置き換えられる未来が来る、という予測もある。

 一方で、「人間」を拡張するようなテクノロジーも開発されている。視覚や嗅覚、触覚といった五感を外部の存在と同期・共有することで、居ながらにして遠隔地の感覚を得られる、「どこでもドア」のような技術も生まれてきた。

 テクノロジーの発展の舳先には、こうした兆しが萌芽している。他方、現在すでに我々の生活に入り込んでいるテクノロジーも日々アップデートされており、社会がそれに追いつけずに振り回されることもある。本特集では、いま激動するテクノロジーと社会の接点を、メディアやジャーナリズム、軍事、音楽・ダンスのようなエンターテインメント、あるいは性欲といった角度から見ていきたい――。

(文/松井哲朗)

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