マンガこそ福祉を学ぶ最良の教科書だ――貧困から発達障害、介護まで、福祉問題の本質を知る11選

――進む高齢化率、子どもの貧困、児童虐待の増加……。増えるばかりの社会課題に、福祉は対応を迫られている。それらの現実をエンターテインメントの形で伝えてくれる、格好の教材でもあるマンガ作品を、ここでは紹介していこう。

『光とともに…~自閉症児を抱えて』(秋田書店)1巻より。

 児童虐待の防止に向け、児童相談所(児相)の介入の機能を強化する――。厚生労働省の社会保障審議会ワーキンググループが、そうした報告書素案の調整に入ったことが、12月1日、東京新聞などで報じられた。

 記事によると、2017年度に全国の児相が児童虐待の相談や通告を受けて対応した件数は13万件以上。職員の数は限られているため、すでに各児相の業務はパンク寸前の状態にあるが、痛ましい事件が起こるたびに、児相による「介入」が不十分であったのではないかと指弾されている。

 1994年から95年にかけて雑誌に掲載され、96年に文庫化された、ささやななえの『凍りついた瞳』【1】は、そのような児相の葛藤を早くから掘り下げていた作品である。同作はジャーナリスト椎名篤子氏のルポルタージュを原作としており、虐待がいかに子どもに対して一生の傷を残すか、そして、児童虐待への対応がいかに難しいものかをリアルな筆致で描いている。

 親に虐待を否定されてしまうと、制度の壁に挟まれ、行政は即座に対応できない。そのことに葛藤する職員の姿を描くと共に、同作は、虐待家庭から保護された子どもが施設で幼児やお年寄りに暴力を繰り返してしまうという悲しい現実も描く。虐待されて育った子どもが大人になると、また子どもを虐待するという悲しい連鎖について問いかけるこの作品のタッチは、淡々としていながら迫真性に満ちている。

 また、虐待で傷を受けた子どもの痛々しい身体は、文章では正確に表現するのは難しいだろう。マンガだからこそ伝えられる社会的な課題があることを示してくれた、先駆的な作品である。

もの貧困や虐待を考える

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