トリカブトは苦い? ヘルドクター・クラレ厳選「危険すぎる猛毒植物」

――古来より人は、草を生活のあらゆる面で用いてきた。それを薬とすることもあれば、毒として使用されることも……。サイエンスライター・ヘルドクター・クラレ氏に、毒草について聞いた。

こちらが有名なトリカブト。きれいなムラサキ色をしているが……。

 良薬として、そして麻薬として人類の歴史に密接に関係してきた植物。だが、植物にはもうひとつ無視できない側面がある。毒薬としての利用だ。今回、植物の可能性を考える一環として、ウェブで「ググっても出ない毒薬の手帳」を連載中のサイエンスライター、ヘルドクター・クラレ氏に危険な毒の植物ベスト3を選出してもらった。

 第3位は「ユーフォルビア・ビローサ」。

「ヤドクキリンという別名があり、『ヤドク』という言葉からわかる通り、白い樹液に猛毒があり、アフリカの原住民はこれを矢に塗って狩りをしていたといいます。幹の表面には棘があり、サボテンにしか見えないのですがまったく別の植物。樹液の毒が付着した棘が刺さっただけで人間が死亡した例があり、私も水やりしていても緊張感があります」

 第2位は「トリカブト」。

「その毒性は青酸カリをはるかに超えるにもかかわらず、園芸店などで入手が容易という点からランクイン。その半数致死量はたったの0・2~1グラムです。毒の主成分は『アコニチン』という神経毒で、生命維持に必要な神経の情報伝達を阻害します。結果、口唇から胸腹部に焦熱感が出て、やがて歩行困難に。最終的には呼吸麻痺、ないしは心臓麻痺になって死に至ります。春先にはヨモギなどと間違えた誤食による中毒事故がたびたび報じられるように、日本人にとってもっとも身近な毒草といえます」

 そして第1位は「ドクウツギ」。

「これは非常に不思議な植物。類似の植物がないまったく孤立した種で、花弁が果実化するという、現存する植物にはあまり見られない特徴を持つ“生きた化石”のような存在です。また分布域がチリのごく一部、ヨーロッパの一部、ヒマラヤ、日本などと極めて分散しているのも謎。しかし果実に含まれる毒の威力は本物で、子供なら数粒、大人でも10粒食べれば呼吸困難や痙攣を起こし、血を含んだ泡を吐いて死亡します。トリカブトをはじめ、基本的に毒草は苦味が強く、誤食しても気づきやすいのですが、この植物の果実はほんのり甘く、誤食しやすいのが恐ろしい点です」

 ここで名が挙がった3つの植物は「危険性」という視点から選ばれている。というのは、最も強い毒性を持つ植物が最も危険な植物とは限らないからだ。クラレ氏曰く「最も少ない量で死に至る植物毒を挙げるなら、ドウゴマを材料とした「リシン」です。ラットでの半数致死量は0・7マイクログラムで、これはサリンの数千倍の毒性。純度50%以上で精製したリシンなら、粉塵として浮遊したチリを数粒吸い込むだけで人が死亡する可能性があります。しかし、食べ物として摂取した場合は別で、消化器からはほとんど吸収されないため、日常生活で人間に被害を及ぼすことは考えづらい。またトリカブトとドクウツギならば圧倒的にトリカブトの毒性のほうが強いのですが、先述の通り、トリカブトはひどく苦いので、もし毒殺に使おうとしてもすぐにばれるでしょう。毒植物の危険性を考える際は、毒性の強さ、誤食のしやすさ、毒が作用するメカニズムなどから総合的に判断するべきですね」とのことだ。

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