鳥山明・浦沢直樹もマネをしていた!? 名作マンガは2度死ぬ!?人気復活“AKIRAが死ぬ日”

――日本のマンガ業界に革命をもたらした『AKIRA』。マンガの神様・手塚治虫さえ嫉妬したというその圧倒的な画力とストーリーは、連載終了から30年たった今もファンを獲得し続けている。アニメ版は海外の映画監督から称賛され、実写化の噂も絶えない。なぜいまもファンを魅了しつづけられるのだろうか?

 82年~90年まで「週刊ヤングマガジン」(講談社)に連載されていた『AKIRA』は、マンガ史に燦然と輝く金字塔として、現在でも読み継がれている名作だ。マンガの神様と呼ばれる手塚治虫をして「驚嘆し、羨望し、憧憬してかなわないと思う」「一も二もなく降参する」(『ユリイカ』88年・総特集大友克洋)と言わしめたその画力は、岸本斉史、貞本義行、弐瓶勉、浦沢直樹ら多くのマンガ家たちに絶大な影響を与えている。しかも、90年の連載終了から今年で27年になるにもかかわらず、いまだにハリウッドでの実写化の噂が絶えず、プロデューサーとしてレオナルド・ディカプリオや監督として『インターステラー』『ダークナイト』で知られるクリストファー・ノーランなどの名前が挙がっては消えている。

 世の中に、優れたマンガは数多く存在する。しかし、なぜ『AKIRA』は特別なマンガとなり得たのか? そして、なぜ現在まで読み継がれているのか? さまざまな世代の証言から、名作マンガを検証してみよう。

劇画を葬った神の所業

 73年、大友克洋は「漫画アクション増刊」(双葉社)から、『銃声』(単行本未収録)でデビューした。デビュー当初は、『AKIRA』には見られない劇画の影響が色濃い作風だったが、圧倒的な画力によってマンガファンたちの注目を集め、70年代末には吾妻ひでお、いしかわじゅん、諸星大二郎らとともに「ニューウェーブ」と呼ばれる。大友克洋の登場は、当時のマンガ界に「革命」と呼ばれるほどの衝撃を与え、「大友ショック」なる言葉がにわかに語られ、圧倒的な実力差に筆を折るマンガ家も絶えなかったという。『BECK』『Paradise Kiss』『ルパン三世』などを手がけたアニメ監督の小林治氏もそのひとりだ。

『AKIRA』
大友克洋/講談社(82年)/1080円~
新型爆弾が落とされ、第三次世界大戦勃発後の2019年。荒廃した都市「ネオ東京」を舞台に、アキラと呼ばれる超能力者をめぐって行われる軍やゲリラ組織の攻防を、暴走族のリーダー金田を中心に描く。

「かつて、ヤングマガジン編集部にマンガの持ち込みをしていました。その時、『大友さんの新連載のコピー読んでみたい?』と言われたのが、まだ世に出ていなかった『AKIRA』の第1話。それを読んだ瞬間、『俺のマンガ人生が終わった』というほどの衝撃を受けました」

 では、大友作品のいったい何が革命だったのだろうか? マンガ評論家であり『テヅカ・イズ・デッド』『マンガを読む。THE MANAGA REVIEWS』(共に星海社新書)などの著作で知られるマンガ評論家であり、東京工芸大学マンガ学科教授の伊藤剛氏は、「大友ショック」についてこう語る。

「『AKIRA』以前から、大友作品は『カミソリ感覚』『乾いている』と語られていました。熱血マンガ的な『成長』や、カウンターカルチャーの熱量を脱臼させ、当時の白けた空気を描いていた。例えば、1978年に発表された『大麻境』(『ショート・ピース』収録)という作品では、大麻から『反体制』の象徴という意味付けを外し、単に暇な大学生が無為に大麻を探すという作品にしています。そうしたドラマ性の排除が新しかった。同時にそれは、劇画的な描画の修飾も取り去った、日常の些事を描写しうる徹底的なリアリズムに支えられていました。マンガ表現のリアリズム自体が更新されたんです」。

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