人種の社会問題を反映する書籍群――他者の目で知る国家の多面性! アジア移民文学に見る差別の現実

――今、アメリカで『PACHINKO』なるタイトルの小説がベストセラーになっている。在日朝鮮人一族を描いた同作は、差別や移民に対する風当たりを浮き彫りにしているが、そのほかにも、アジア移民をテーマにした作品は多い。それらの書籍は、一体何を訴えかけているのだろうか?

『よい移民: 現代イギリスを生きる21人の物語』(創元社)

 大阪や横浜を舞台に、ある在日朝鮮人の一族の歴史を描き、アメリカで最も権威のある賞のひとつ「全米図書賞」にノミネート。2018年に全米のベストセラーランキングを賑わせた小説がある。そのタイトルは『PACHINKO』【1】。あのパチンコである。著者は、韓国のソウルで生まれ、幼い頃にアメリカに移住したミン・イン・リー。

 英語で書かれたこの小説には、日韓併合から第二次大戦、朝鮮戦争といった激動の時代のドラマを通して、済州島から日本に移住した在日一世から三世までの生活や意識の移り変わりと、世代間の葛藤が描かれている。タイトルにもなっているパチンコは、主人公のひとりである在日二世の“職場”として登場する。日本社会で差別を受け、堅気の会社に就職できなかった在日朝鮮人たちは、パチンコ屋や焼肉屋といった商売に生業を求め、中にはヤクザの世界に生きる道を求めた者もいた。『PACHINKO』のストーリーには、そんな移民と差別の歴史も刻まれている。

『PACHINKO』は文藝春秋より、早ければ今年中にも邦訳が刊行されるとのことだが、アメリカの文学界では、これまで移民を扱ったさまざまな作品が生まれてきた。多民族国家であるアメリカでは、アジア系の移民が自らの家族の歴史をモチーフに書いた作品も多い。いわば旧来の白人層が主な支持層となった、トランプ政権下で移民の流入に対する制限が強まる中、むしろこれらの移民文学の社会的重要性は増しているともいえる。

 そして、移民の歴史が、差別の歴史でもあったことから、移民の文学は、そのテーマの中に、差別についての内容を必然的に含んでいる。本稿では主にアジア系移民を中心に、差別というキーワードで読み解ける本を紹介していきたい。

移民の子孫が描く彼らの苦難の歴史

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