読者からの苦情は「内容が残酷すぎる!」――レディコミの女帝が描いた背筋も凍るタブーエピソード

男女がまぐわう性描写をはじめ、人生の転落、復讐劇、育児ノイローゼ、嫁姑問題――。世の女性たちが決して表に出さず、内側に潜ませている怒りや欲望、そして闇をリアルに描き出すレディースコミック。本稿ではレディコミの女帝こと井出智香恵に泣く子も黙る鬼畜エピソードを聞きながら、歴史と変遷を追ってみよう。

(写真/西木義和)

 冷たい風が舞う師走の京都。今回のマンガ特集で取材に応じたのは、1989年から「週刊女性」(主婦と生活社)にて連載がスタートし、日本の家庭に根深く残る“嫁姑問題”をリアルにえぐったマンガ『羅刹の家』の作者である井出智香恵。嫁姑問題はもちろん、女性同士の諍い、出産や育児、そして浮気や不倫のセックスなど、世の日本女性が抱える悩みや欲望をつまびらかに描いてきたことで、いつしか彼女はレディコミ界の女帝として名を轟かせる。

 そもそもレディコミとは何か――正式名称は〈レディースコミック〉で、その名称の通り、女性向けマンガのジャンルのひとつ。不倫や浮気の過激な性描写、嫁と姑の確執、さらには隣人&ご近所トラブルなど、作者の経験や読者からの投稿を元に作られている。男性にはなじみの薄いジャンルかもしれないが、コンビニの雑誌コーナーで「嫁姑最終バトル! 私は姑を殺すことにした!」「不倫からの転落劇~略奪愛の末路~」といった見出しの付いた本を目にしたことはないだろうか。もしくは、年の離れた姉や、早熟な妹がこっそり部屋で読んでいたり、あるいはワイドショーが大好きな母親が新聞と新聞の間に挟んで、シレッと古紙回収に出していた、なんてシーンを目撃した読者もいるかもしれない。

 井出智香恵は、そんなレディコミ界で、先述『羅刹の家』をはじめ、『女監察医』や『SEXセラピスト 氷川京介』(共に芳文社)などの代表作を持ち、今なお現役でトップをひた走っている。これまでに手がけたマンガのタイトルは間もなく1000に届く勢いで、総ページ数は約7万ページに及ぶ。

 今年、齢70を迎える彼女は言う。「年齢は自分で支配できない数字。その時代に生まれたことには、きちんとした意味があるの。だから、私は年齢を恥じない。ただし、心だけは若くありたいけどね。そうじゃないと、面白いマンガなんて、描けないから。それとね、女は年齢を重ねるに連れ、自分を慰める場所が少なくなっていくの。レディコミは、いちジャンルとして日本の文化として残り、これからもそんな女性の気持ちを慰めてくれる役割を果たしていくと思うわ」――女帝が描いてきた女の汚行が、逆に女の心にできた隙間を埋める役割となろうとは、まさに女心と秋の空といったところか。

 約50年、マンガ家として活動してきた女帝に、長きレディコミの歴史と変遷を聞きながら、彼女が描いてきた数々のタブーなエピソードを聞いてみた。

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