日本のルポマンガがフランスで金脈になる日は近い? 「ワンピース」にはもう飽きた! 拡大するフランスのマンガ市場

――2000年からパリで行われている「JAPAN EXPO」も今年で17年目を迎え、海外におけるマンガの浸透率はNo.1と言われるフランス。そんな同国において、近年では“日本では売れ筋とは一線を画す”作品の売れ行きも著しい。同国のマンガ事情は今、どう変化しているのか。最新事情を探った。

『絶望の犯島』フランス語翻訳版のひとコマ。闇組織のボスは、孫正義氏にそっくりなビジュアルで笑いを誘う。(『Ladyboy vs Yakuzas, L'île du désespoir』Toshifumi Sakurai/AKATA/1巻より)

 日本とフランスは文化的な親和性が高いといわれる。

 古くは、1867年のパリ万国博覧会に出品された浮世絵などの日本美術がジャポニスムという潮流に昇華され、最近ではシラク元フランス大統領が大の相撲好きで、『万葉集』などの日本文学にも通暁していることは有名な話だ。

 このように日本文化が相当に浸透しているといわれる同国で、2015年2月の発売以降、注目を集めているマンガがある。櫻井稔文氏の『絶望の犯島─100人のブリーフ男vs1人の改造ギャル』【1】だ。

 同作は、闇組織で働く主人公が、組織のボス(孫正義似)の妻子に手を出した報復として、強制的に性転換されてギャルとなり、100人の性犯罪者がひしめく無人島に送り込まれる、という奇抜なストーリー。フランスのアマゾンで発売直後、変態マンガ部門【編註:成人向けマンガカテゴリーの名称にわざわざ“HENTAI”と書かれている】で1位、マンガ部門全体で21位を獲得し、発売初日に在庫切れになった。だが、著者の櫻井氏はそもそも、「海外展開はまったく想定していなかった」という。

「フランスの出版社(AKATA Editions)から突然、出版したいとオファーがあったんです。私は海外で出版されるなんて考えてもなかったので、びっくりしましたよ。いざ出版することが決まってからも、タイトルの『絶望の犯島』をどう訳すのか気になっていたのですが、フランスの出版社が提案してきたのが、フランス版のタイトルにもなっている『Lady Boy vs Yakuzas』でした。100人の性犯罪者の中にはヤクザ出身もいるんですが、半グレもオタクもいて内容と違う。日本でも『犯島』を“犯す島”と誤解している人がいますが、私は“犯罪者の島”という意味でつけたタイトルで、こだわりがあった。最終的には、フランス語で『絶望の島』というサブタイトルをつけてもらうことでOKしましたが、その押しの強さには驚きましたね。

 私はこの作品をリアルな性犯罪者を描くルポ的なものでもなく、単なるエロマンガにもしたくなかった。目指したのは間抜けなブラックユーモアだったんですけど、それがどこまでフランス人に伝わるのかも、不安でした(笑)」(櫻井氏)

 そんな氏の心配をよそに、フランスアマゾンのレビューには「卑猥で不健全で低俗な風刺画だ……そして、とにかく面白い!」「あなたに笑いが必要なら、躊躇しないで手に取るべき!」など、同書の魅力を絶賛するコメントが書き込まれている。

「実は、フランスで発売されてから、ツイッターでフランス人のフォロワーが激増したんです。でも、よく見るとみんなレディーボーイ(ニューハーフ)で(笑)。レディーボーイのマンガが出たから読んでみよう!と、マイノリティーの人たちの中で作品が広がっていったんです。ほかにもかわいい女の子や男3人組が、作品について熱心に語っているYouTubeの動画なんかもあるんですよ。意外なことに、意図はきちんと伝わってるんだなと」(同)

ジャンルがどんどん広がるフランスの日本マンガ市場

 芸術の国・フランスでは従前から、建築、彫刻、絵画、音楽、文学、演劇、映画、メディア芸術を「8つの芸術」【編註:順番や内容は諸説あり】と位置づけてきた。16年には、ルーブル美術館が監修した特別展「ルーブルNo・9~漫画、9番目の芸術~」を日本でも開催。『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦、『鉄コン筋クリート』の松本大洋、『テルマエ・ロマエ』のヤマザキマリらの作品も展示された。マンガ(「バンド・デシネ」を含む)を新たな“芸術”のひとつに位置づけていこうという動きが、ここにきて活発化し始めている。

 そうした背景もあってか、日本のマンガ文化にもっとも精通する国といわれるフランスでは、読まれているマンガのジャンルも多岐にわたる。

主人公・コーゾーが送り込まれた無人島には、ヤクザらしき男たちもちらほら。(『Ladyboy vs Yakuzas, L'île du désespoir』Toshifumi Sakurai/AKATA/1巻より)

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