【松尾匡】安倍政権の自国中心経済は勘違いのたまもの? 経済理論が政策に与えた影響と誤解

――ここまでは、ピケティ評や過去のノーベル経済学賞について紹介してきたが、では経済学は現実の経済政策にどう反映されてきたのか。『ケインズの逆襲、ハイエクの慧眼』(PHP新書)が話題の立命館大学経済学部教授の松尾匡氏に、ケインズやハイエクらによって影響を受けた経済政策と今後の方向性について聞いてみた。

『新自由主義―その歴史的展開と現在』(作品社)

 この数十年間、特に経済政策に影響を与えた学者といえば、ケインズとハイエクだろう。ジョン・メイナード・ケインズは1920~40年代に活躍した英国の経済学者で、その著書『雇用・利子および貨幣の一般理論』では、資本主義経済は放っておくと不況になって倒産や失業が深刻化するため、国家が積極的に介入すべきとした。

「第二次大戦後の先進資本主義国では、どこでもその学説に従って、政府がいろいろなことにお金をかけて景気を良くする政策が取られてきました。ちょっと図式化しすぎかもしれませんが、例えばアメリカでは軍事中心、ヨーロッパでは福祉中心、日本では道路やダムを造る公共事業を中心に政府支出をしてきました」

 さらに、先進資本主義でない国でも、例えばソ連や東ヨーロッパでは、ケインズ型よりも、もっと国家介入が強烈なシステム――「共産党」などマルクス=レーニン主義を看板に掲げる政党が独裁政党として、企業は原則国有で、政府の指令で運営する経済体制が取られていた。しかし、転機が訪れる。

「経済発展の行き詰まりから起こったスタグフレーションに、膨らむ福祉国家の財政赤字、ソ連崩壊と国有指令経済の終焉がポイントです。そこで70年代までの、政府が経済に管理介入してくるやり方が行き詰まり、脱却の動きが世界中で起こりました。経済とテクノロジーの発展が『ある転換』を促したのです」

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