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本当はみんな作りたいのでは? 私たちは秘めた創作願望に気付いてしまった【#01】(全文公開)

なんとなくの日常になんとなく満足してしまった今、書きたいことがない

(※2月某日、渋谷の某カフェにて。「もとくらの深夜枠」の新企画を考えようと集まったチェコ好きと小山内だったが、話は思わぬ方向へ……)

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小山内 エッセイやコラムに、もう書きたいことがあまりないって言ってましたよね。そう思うようになったのは、いつくらいから?

チェコ ぶっちゃけもう1年前くらいからだと思います。2017年はそれでもなんとか、息も絶え絶えやってきたんですけど、2018年になってさらに息も絶え絶えに…。

小山内 書きたいことがないってことは、逆説的にですけど、今本当に幸せなんじゃないですか?

チェコ 幸せなんだと思います。私もう、自分の生活に不満ないですもん。

小山内 なんか、この1年楽しくなるようなことがあったんですか?

チェコ 楽しいこと……むしろ、楽しいのが日常というか、平和すぎて、2017年は特に何もなかったんですよね。まず、労働環境に不満がないんですね。

確かに私、30歳なのに結婚もしていなくて、それをぐちぐち言ってくる人もいるかもしれないですけど。でも私自身はそのことに納得しているから、結婚しないと!っていう焦りからは完全に抜けちゃったんですよ。

小山内 焦っていたんですか?

チェコ 27〜28歳くらいのときは焦ってましたね。でも29歳くらいのとき、前の会社を辞めて、ずっとやりたかった中東への旅行を実行したら、そういうことが心の底からどうでもよくなってしまって、悩みのサイクルから抜けちゃったんですよ。

今、結婚したいとか、恋愛で悩んでいる女の人を見ても、頑張って!とは思うけれども、個人的には菩薩のような気持ちになってしまって。彼女たちにこういうふうにしたら?というお節介な感情が一切湧いてこない。だからもう、恋愛に関しては瀬戸内寂聴のようになっている。

仕事も満足、恋愛も満足、交友関係も満足で、不満が全くない。不満がないことによって、生きる気持ちまで失っているというのが今の私の状況ですね。

小山内 チェコさん人生でやり残したことってないんですか?

チェコ やり残したことも、ないんですよ。

小山内 瀬戸内寂聴化している…。

チェコ これをやらないと死ねない!ってこともないんですよ。明日あんた死ぬよ!って言われても、はいはいって言えちゃう気がする。

小山内 じゃあ、チェコさんはもう死ねるんですね。やり残したことがないはすごいなぁ、世界もたくさん回っていますしね。あ、世の中の面白さに対して、「こんなものか」みたいな感覚があるんですか?

チェコ そう、こんなものか感がすごいあって。

小山内 例えばですけど、今やっていることとはちがう他のなにか、芸能界…ではないですけど、他にこの世界に飛び込んでみたいはあるんですか?

チェコ そうですね…私は最近、身体能力が高い人ってすごいなって思うんですよ。だから私、小山内さんとかすごいなって思ってて。

(※小山内さんは学生時代、ソフトボール部のピッチャーで、めちゃめちゃ強かった)

小山内 (笑)。子どもの頃に自覚するんですよね。周りの子より身体能力が高いことを。周りがヒィヒィ言いながらやることを全然ヒィヒィ言わないでできちゃうっていう経験で気づくと思うんですけど。

自覚するのが早すぎて、慣れてしまうから本人は大してその世界に特別感を感じないで生きている気がします。絵が上手いとかとおんなじ感覚なんじゃないかと思います。私は逆に絵が上手い人を尊敬しますね。

チェコ 私、格闘技をやっていて。

小山内 え、ちょっと待ってください(笑)

チェコ もう1年くらいやっているんですけど、でも全然上手くならないんですよ。もともと私、運動神経が全然良くなくて、1年間頑張ってやっているんですけど、本当に上手くないんですよ。それでも楽しいから続けているんですけど、自分の上達が他の人より遅いってことがわかるんで、それで身体能力高い人がすごいなって思いますね。

あとなんだろう、私、死んでも平気って思っているからか、死ぬかもしれないって思っているスポーツを見ているとすごく興奮するんですよ。

小山内 それTwitterにも書いていましたよね。

チェコ 一番興奮したのが、ハーフパイプの國母さんという人がスノボで断崖絶壁を駆け抜けている映像があって、それを見てすごく興奮したんですよ。私もこれやりたいって。あと、なんだろう、断崖絶壁からパラシュート一本つけて飛び降りるとか、そういう動画が最近すごく好きで。死ぬかもしれないって思っているスポーツを見ているとすごく興奮するっていうのが最近の私ですね。

小山内 バンジージャンプとか、絶対死なないって保証されているのはダメなんでしょうね。大丈夫ですか? チェコさん、飛ばないでください、生きて欲しい。

チェコ でも私は実際にはそれをやりに行かないというのが、ビビリというか、小心者の証だと思います。

小山内 たとえば、そこまで命を放り出さなくても、バンジージャンプとかやったことあるんですか?

チェコ ないですね。

小山内 実際そこに立ってみて、どう思ったかっていうのはおもしろそうですね。

チェコ バンジージャンプとか、スカイダイビングとかは、確かにやってみるべきかもしれないです。

小山内 「明日死んでもいい」は、本当かみたいな。本当に死に対して恐怖はないのか、とかはいいかも。でもその、毎日が楽しいから書きたいことがないという結論でしたけど、逆に毎日の楽しいことを書こう! とはならないんですか?

チェコ 毎日の楽しいことか……なんだろう、でも、うーん、毎日の楽しいことを書こうとするとどうしても会社の人の名前とか出さないといけないじゃないですか。それはプライバシーとかいろんなことがあるので、書けないですね。

小山内 もっと、結局楽しいことを書くと面白くならないとか、そういうことかと思っていました。

チェコ あ、でも、そういうこともあります。「今日も楽しかったです」を書いても面白くないじゃないですか。

小山内 そうですよね、私も「今日も楽しかったです」を、いい文章として読ませられる人ってすごいなって思っていて。

チェコ どちらかというと、「今日も地獄でした」のほうが、読んでいて楽しいじゃないですか。

小山内 うんうん。ハッピーエンドで泣かせるって、すごいことなんですよね。

チェコ なんか私、もともとの性格が悪いのか、あんまり……

小山内 なんの話ですか(笑)

チェコ あんまり、ハッピーな文章が好きじゃないんですよね。全体的な傾向として。悪夢の中でのたうち回っているような世界が好きで。毎日の生活にハッピーを感じているみたいな文章よりは、精神病が進みすぎてわけわかんなくなっているみたいな文章読むほうが好きなんですよね。夢野久作の『ドグラ・マグラ』みたいな……

小山内 そうなりたいみたいな欲求はあるんですか?

チェコ そうですね、もうちょっと苦しみたいですね。

小山内 そう考えると、生きるって暇つぶしですね。

チェコ ほんとそうです。

小山内 書きたいものがないけれど、書きたいという欲求だけがあるチェコさんに、書かせるためにはどうすればいいかという話。

チェコ 書きたい気持ちにさせてほしいですね! すごい難しいなそれ(笑)

小山内 求められなくても書きたい! みたいなのものはありますか?

チェコ なんだろう? でもこの前、もし今「なに書いてもいいよ」って言われたらなに書きたいかってすごく考えたんですよ。小山内さんは、二次創作ってやったことありますか?

小山内 実は、私二次創作に躍起になって、ランキングサイトに登録して、何十万訪問とかキリ番とかキリリクとかやっていた時代があります。かなり長いです、人に言えない(笑)

チェコ すごいじゃないですか。私はそんなやってはなかったんですけど、でも一番書きたいものなんだろう? と思ったら、高校生のときに一回だけ二次創作をやっていたことがあって。私、『バトル・ロワイヤル』の設定を借りて、バトロワの二次創作を書いたことがあるんですよ。もし今、1ヶ月間他の仕事やんなくてよくて、会社も行かなくてよくて、ブログも更新しなくてよくて、好きなの書いていいよって言われたら、バトロワの二次創作を書きたいかもしれない。あのバトロワの続きが書きたい。

小山内 すごい素敵。モバスペって知っていますか? ケータイ小説書けるサイトで、野いちごとか「魔法のiらんど」とか、私たち中高生世代はみんなモバスペにいたと思います。個人の簡易的なHP持てるんですよ。そこに自分の趣味全開の部屋を作れる。私は、モバスペだったか野いちごだったかで、ずっと、中学生の頃から高校生まで小説書いていたんですよ。やばいタイトルで、でもコメントもらえるのが嬉しくてのめり込んで書いていました。親に引かれながら。でもやっぱりそういうことやっていた時が本当に楽しかったんですよ。やっぱそういうことなんですかね。

ところでチェコさん、夢女子っていうの知っています?

チェコ もちろん。私が唯一通ったオタクの道ですね。

小山内 私、あれのサイト作っていたんですよ。いろんな漫画のいろんなキャラと恋愛できる。あれで、「見てもらえる快感」を忘れられなかったんですよね。

チェコ その楽しさは、すごくわかります。私は、夢小説は読むだけで書かなかったけど、書く人の熱量を理解はできます。

小山内 普通の原稿書いているときに、もう3日くらいかかるんですけど。ああいうのなら、1万字もさらっと書ける。好きってすごいなって思います。

チェコ 私も今自分のブログ2,000字を一週間で書くのも息も絶え絶えだけど、バトロワの二次創作のキャラ設定表はたぶんすぐ作れます。

現実より楽しい「オタ活」と「都市伝説」

小山内 私はテニプリのオタクで、テニプリのゲームに3ヶ月間で6万課金しています。

チェコ 6万!?(笑)

小山内 沼です。

チェコ でも本当にオタ活楽しいですよね。

小山内 それが理由で振られたこととかありますもん(笑)怖いという理由で。

チェコ オタクの人って、一つのことにガッと集中する能力があるから……コスメオタクみたいな人いるじゃないですか。コスメオタクと、漫画とかアニメのオタクっていうのは、わりと層が被っているんじゃないかと思うんですよ。

小山内 あー……それで言ったら、私は割と当てはまっているかもしれなくて、Waseiの前は化粧品会社でインターンしていたんです。で、ちょっと化粧品オタクだねって何度か言われたこともあります。

チェコ 新商品がいついつに出るから、この日に並ぶとかって言っている人は、割と漫画のほうのオタクのひともいるんじゃないかって思います。

小山内 いると思います。

チェコ 一つのことを追求するのが楽しいみたいなのは、化粧品のアイテムとかメイク方法を研究するっていうのと、あともう絵をすごい頑張って書くとか、小説の世界観を作りあげるみたいなのと、けっこう一緒なんじゃないかと思っていました。

小山内 面白いですね。すいません、私のせいで脱線したんですけど、なぜチェコさんがバトロワにハマったのかっていう。

チェコ なんでだろう? 中学生から高校生にかけてすごいバトロワの世界観が好きだったんですよ。私やっぱり、ダークファンタジーみたいなのがすごい好きで。

小山内 デスノートとかもそうですよね。

チェコ サスペンスとか、SFとか、ダークファンタジーみたいなのが好きなんです。自分は大学と大学院で映画の研究をしていたんですけど、その映画もすごい血みどろの世界というかドロドロした映画を研究していたんですよ。

小山内 チェコさんが勧めていたやつ見ました、森の……

チェコ ラース・フォン・トリアーの『アンチクライスト』ですね。でもほんと、ああいう世界が大好きなんですよ。バトロワは、なんだろう? そういうダークな世界がありつつ、でも、エンターテイメントだと思うんです。もともと私の好きなダークな世界観が芸術系に行くと、私が大学院時代に研究していたようなものになるんですけど、それがエンターテイメントになるとバトロワになると思います。

小山内 なんか、そのダークのどこに惹かれているんですかね?

チェコ 物心ついた時からずっとその世界観が好きで、私は小学校のときに漫画を描いていたんですけど、ホラーを描いていたんですよ。

小山内 でも私も、一時期そういうのすごい好きで、ちょっとそれこそ夢小説書いていた時は、都市伝説もの書いていました。

チェコ 私も都市伝説すごい好きなんですよ。

小山内 だからあの、テレビで言うと『世にも奇妙な物語』みたいなのが

チェコ わかります、すごいわかります。

小山内 あ、わかります? なんか、『ほん怖』じゃないんですよね。

チェコ 私も『ほん怖』じゃなくて『世にも奇妙な物語』が好きなんですよ。

小山内 私も確かに、小学生の頃ミステリー小説が好きで、なんですかね? 非日常みたいなものを求めていたんですかね。私もチェコさんも学校生活をつまんないって思っていたんですかね。

チェコ 学校生活はたしかにつまんなかったです。でも、それがデフォルトみたいな状態で生まれてきたんで、きっかけみたいなのは本当に覚えていないですね。幼稚園くらいからそういうのが好きだったし、小学校入ってからは、ホラーとギャグが合体した、シュールなホラーギャグが好きだったんですよ。だから本当に昔っから。

小山内 先天的なものだったんですね。

最近のウェブメディア、もう面白さは飽和してしまった?

小山内 最近のウェブメディアに関しては、面白さ的に飽和したんじゃないかっていうのは思います。なんていうか、「選べる」ってことに対して、自由に選べるっていうことに、みんな一回、了解したなって思うんです。

チェコ 働き方とかも、すごい素敵な働き方している人はいっぱいいるけど、もうなんかだいたい例は出尽くしたんじゃない? っていうのはありますよね。

小山内 だからフィクションへ、っていうのは飛んでいるのかもしれないですけど。新聞とは違う、ウェブのメディアって、新しい世界とか新しい面白さみたいなのが価値だったんじゃないかって思うと、今のようなことをぐるぐるやっていても、面白いってふうにはならないかもしれないって思います。

チェコ 働き方とか真面目なほうもそうですし、恋愛とかセックスとかのゲス系のやつも、もう一通り出尽くしちゃったかなって気はするんですよね。

小山内 出ても、結局「人それぞれじゃん」みたいなところに落ち着きませんか、見る側のスタンスも。妄想とかフィクションの話と重なるかもしれないですけど、今は、未来はこうなるんじゃない? っていうのは読みたい気はしますかね。

チェコ なんか今日小山内さんと話してて気づいたのは、もうバトロワとか、現実では絶対ありえない世界とか、ほんとSFとか、今の社会の接続ではない世界みたいなのが、もしかしたら今私が一番求めているものかもしれないと思いました。

小山内 けっこう、私自身はどんなに世の中が発展しても、突き詰めるとわかりえないものは人の心かもしれないっていうのがあって。今チェコさんが言ったようなことも共感するんですけど、人の本心みたいなことが書かれているメディアだったら読みたいなって思いました。インタビューでも。

これはすごく性格悪いかもって思うんですけど、今出てるのは全部、なんか綺麗事に見えるというか。

チェコ それはありますね、すごい。でも、みんな実生活があるから、「綺麗事を言うな!」っていうのも無理がありますしね。

小山内 でも、結局もう私たちはファンタジーというかフィクションに興味があって、しかもそういうのが面白いんじゃないかっていうのはわかりましたよね。なんだろう、隠さなくてもいいような、ドロドロしたものが見たいんですかね。

フィクションで行きついたのが『バトロワ』となると、やっぱり人の死に対して特別に思っているんですかね、チェコさんは。

チェコ もとから特別に思っているというか、今そうなのかもしれないです。死ぬかもしれないスポーツ見たりとか。

小山内 二次創作に目が向いたのは、死について、考えたいがあるということですよね。

チェコ そう、あまりにも瀬戸内寂聴化してしまったので、もっとリアルに「死にたくない」とか「殺してやりたい」とか、そういうのを味わいたいのかもしれないですよね。

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「現実」のものとして書けること、書きたいことは、もうあまりないのかもしれない。描きたいものはあるけれど、それは「フィクション」という形式をとったほうが、現実よりも現実に近づける気がする。

小山内さんとの会話からそのことに気づき、後日、さっそく創作活動を始めることにしたチェコ好き。すると、小山内さん本人からも「小説を書きたい」と声が上がり、「それなら一緒に11月の文フリを目指そう!」という話に……

せっかくなのでさらに仲間を募ろうと、「くいしんBBS」でメンバーを募集。あとーすさん、よぴこさん、立花さんが文フリメンバーに加わった。

次回以降は、メンバーそれぞれが今手がけている作品、創作にかける思いをエッセイ形式で綴っていきます。

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