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【日記/45】ヒッピーとポリアモリー

ヒッピー、それは自然と愛と平和と自由とセックスを愛す、1960年代後半にアメリカのサンフランシスコもしくはロサンゼルス郊外の若者の間で起きたムーブメントである。私の日記のなかでも最近になって何度か登場しているので、いつも読んでくれている人は、「またヒッピーか」と思っていることだろう。

【日記/41】ヒッピーとバックパッカー

【日記/42】ヒッピー文化、わかりました

今回はそんなわけで、誰も得しない私のヒッピー文化研究の続報である。

1年前に一時的に興味がわいたことがあり、『ポリアモリー 複数の愛を生きる』という本を買った。しかし買った後すぐに興味が薄れてしまい、この本は長らく積読になっていた。だけど、最近になって積読解消キャンペーンを始めたことによって、この本を1年越しに消化することになったのだ。

予備知識ゼロの人のために説明すると、ポリアモリーとは、〈1対1〉の恋愛関係を結ばずに、複数の人と同時に恋愛関係を築いている人たちのことを指す。

「それってつまり浮気のこと?」と思う人がいるかもしれないが、浮気は〈1対1〉の関係(モノガミーという)が基本としてあるので、別の人と恋愛関係にあることを、パートナーに知られるとまずい。一方ポリアモリーは、別の人と恋愛関係にあることを、パートナーにオープンにする。そして、パートナーのほうもまた別の人と恋愛関係にあるか、もしくは自分の恋人や配偶者が別の人とも恋愛関係にあることを、深く理解している。(いわゆる「浮気」の文脈でポリアモリーという言葉を使うことは、あくまでパートナーに対して誠実であろうとする真性ポリアモリーの人たちに対して失礼になるので、やめたほうがよい。)

ポリアモリーと一言でいっても、多様な形態がある。1つはオープン・マリッジ、オープン・カップルという形態で、モノガミーの婚姻関係・恋愛関係を基礎として築いているけれど、互いにパートナーが他の人と性愛関係を結ぶことを認めている、というパターン。この場合は、パートナーのパートナーに対して少しばかりの嫉妬を抱いている人もいれば、パートナーのパートナーを大事に思い、友人のように考えている人もいる。その内情はカップルによって、当然ながら微妙な差異がある。

もう1つは、グループ・マリッジ、トライアッド、ヴィーという形態。これらは3人による結婚、性愛関係を築いているパターンで、たとえばヴィーは、A(女性)にB(男性)とC(男性)という2人の恋人がいて、BとCは友人関係にあり、3人で暮らしている、といったもの。BとCがバイセクシャルで、その2人の間にも性愛関係がある場合は、トライアッドとなる。単なるカップルであるだけでなく、たとえばAとBが法律的に結婚したりすると、グループ・マリッジとなる。この場合も、途中でBがAを独占したくなるとか、そのせいでCが仲間はずれのようなかんじになるとか、必ずしも関係が順風満帆に行くとは限らない。さらに、性愛関係が4人になったりすると、クワッドとよばれる形態になったりする。

私も本を読んだだけなので間違っていたら指摘してほしいのだけど、ポリアモリーがLGBTとちがうのは、LGBTが「変えられないもの、アイデンティティ」であるのに対して、ポリアモリーは思想である、という点だ。たとえばゲイの男性は、自分がゲイであることをやめられないし、やめる必要はない。だけどポリアモリーは思想なので、モノガミー社会にいる人が「選択」する。つまり、ポリアモリーを選択したもののやはりまっとうすることが難しくて、モノガミーの形態にもどる、という人もなかにはいるわけだ(もちろん、思想は思想として尊重されるべきである)。思想なので、ポリアモリストは白人、中産階級、高学歴、などの特徴を有していることが多いらしい。つまりは、リベラルなエリートなのだろう。

さて、ヒッピーの話をしていて、なぜポリアモリーが出てきたのかと疑問を抱いた人もいるだろう。これは私にとっても意外な発見だったのだけど、ポリアモリストはヨガをやっていたり、タントラや東洋思想に興味があったり、といったことが珍しくないようだ。他にも、ポリアモリストを志したきっかけが「ヒッピーの聖典」として名前があがることがあるハインラインの『異星の客』というSF小説だった、といったケースもあるらしい。つまりポリアモリーは、ヒッピー文化やカウンターカルチャーと、けっこう親和性のある思想である、ということだ。

ヒッピー文化、というのは冒頭に書いたように1960年代後半のムーブメントではあるのだけど、決して死んだわけではない。「ヒップ」という言葉は健在だし、ヨガ、東洋思想、麻薬、バックパッカーの旅、それからビートルズやグレイトフル・デッドの音楽は、今もなお多くの人を惹きつける。

そして私自身はというと、先の日記に書いたように、ヒッピー文化に同族嫌悪のような反発心を抱きつつも、それをやはり胸の内に内包している。カウンターカルチャーってなんなんだ? 私のヒッピー文化研究は、たぶんもう少し続く。ジャック・ケルアック『オン・ザ・ロード』の感想をそのうちブログに書きたい。

「ヒッピーの七不思議」みたいなタイトルで連載をやらせてくれる媒体様がありましたら、ぜひお声がけください。

(※絶対にない)



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