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【日記/74】ジャカルタの午後

夕方、窓の外の景色をぼんやり眺めながら電車に乗っていると、制服を着た中学生くらいの女の子たちがどたばたと車両に乗り込んできた。

緑色のチェックのひざ丈スカートからはあまり細くない脚がのぞいていて、靴はノーブランドのスニーカーで、半端な長さの白いソックスをはいていた。

中身がぱんぱんに詰まったリュックをしょって、髪は全員うしろで一つにしばって、四人組のうち二人が眼鏡をかけていた。

言葉がわからないから何を話しているのか知らないけれど、おおかたクラスの子の噂話とか、先生のこととか、テレビの話とかだろうと思う。女の子たちは飽きもせずに、ずっとぴーちくぱーちく言いながらつり革につかまって、にぎやかに会話していた。

特別綺麗なわけでもおしゃれなわけでもない彼女たちはきっと、クラスではあんまり目立つほうではなくて、どちらかといえば地味なタイプなんじゃないだろうか。日本でも、平日の夕方に電車に乗るとまったく同じような光景に出会うことがあるから、だいたいわかる。そして私は、そんな特別綺麗なわけでもおしゃれなわけでもない普通の女の子たちがにぎやかにおしゃべりしている様子が、わりかし好きなのであった。

世界のどこにいても、女の子はおんなじだなと思う。

東南アジア最大規模といわれるジャカルタのモスクを見学しに行った。受付には二十代半ばくらいのヒジャーブをかぶった女の子が二人いて、外国人は記帳するようにいわれたので名前を書いた。

「どこから来たの?」と聞かれたので「日本です」というと、右側の女の子が「えー、待って! あたし日本語調べる! 検索するから今!」みたいなことを言う。

彼女がスマホの(たぶんGoogle翻訳かなにかの)画面を見ながら、「案内、シマスカラ、ココデ、十分間、マッテテクダサイ!」と私にたどたどしい日本語で言うと、左側の女の子が何やら大ウケしている。「合ってる? これ合ってる?」みたく私の顔色を二人でうかがってくるので、「合ってるよ」というと、また二人で大ウケしている。

結局、左側のイナという女の子が、私にモスクを案内してくれることになった。私は英語がだめなのでイナの言葉はところどころわからなかったのだけど、彼女が敬虔なムスリムであること、そしてほんとにごく普通の二十代の女の子であることは、よく伝わってきた。イナは穏やかでスマートで可愛くて、とってもいい子だった。

今年の初めにイスラエルに行ったときのことも、私はよく覚えている。

後半、自分は旅の疲れからか何でもない普通の電車に酔ってしまって、到着したテルアビブの空港のベンチで休憩していた。すると隣のベンチに、髪をターバンでひっつめたユダヤ人の女の子四人組が集まっていた。

彼女らは久々の再会だったようで、「うわ、めっちゃ久しぶりじゃない? 前会ったのいつだっけ?」「今日これからどこ行くー?」「あたし空港出たところに美味しい店あるの知ってるー」「じゃあそこにしよ」みたいな会話を、ベンチを去るまでずっとしていた。

私は当然ユダヤ人のヘブライ語はわからないので会話の内容は推測だけど、まあだいたいそんなことを言っていたんじゃないかと思う。これもやっぱり、日本でもまったく同じような光景に出会うことがあるから、雰囲気でわかる。

サウジアラビアとかはどうなんだろう。あそこまで本格的なイスラム国家になると、そもそも女性はあまり外に出なかったりして、公共の場でぴーちくぱーちく会話することもないんだろうか。でもきっと、家の中とか学校とか女だけの場で、おんなじようなことをやっている気はする。

いかついライフルを抱えたイスラエル国防軍の兵士だって、女の子は休憩タイムには近くの塀に腰掛けて、互いのスマホの画面を見せ合って笑いこけていた。

国に政治的な問題があっても、宗教が異なっても、世界のどこにいても女の子はおんなじだな、と思う。ユダヤ教徒でも、ムスリムでも、仏教徒でも、ヒンドゥー教徒でも、ほんとに同じだ。女の子は二人三人四人で集まると、いつもどうでもいいような話でぴーちくぱーちく言っている。もちろん、男の子もおっさんもおばちゃんもおじいちゃんも、だいたい一緒だ。

人間なんてほんと、どこにいてもそんなに変わんないんだよな〜と思う。ジャカルタで過ごす午後、電車に乗って女の子たちの会話を聞きながら、なんだかそんなことを考えていた。


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チェコ好き(和田真里奈)

旅と文学について書くブロガー・コラムニスト。 AM連載:https://am-our.com/author/103/article 書籍:『寂しくもないし、孤独でもないけれど、じゃあこの心のモヤモヤは何だと言うのか』

日記

2015年11月から2017年7月までの日記です。100記事いっぱいになったので以後更新されません。
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