見出し画像

【お茶と文学-チェチェン編】ロシアンティーと『コーカサスの金色の雲』

コロナで旅行に行けないので、「もし世界一周をやるならこういうルートでやるんだけどな〜」を妄想しながら、旅先の文学と料理(が、できないので飲み物)を楽しむ自分内企画、実は地味に続いている第5弾。8月上旬にモデルナワクチン2回目を接種し終わったので、接種証明書的なものをパスポートに貼り付けた人はとっとと海外旅行に行っていいよという世界線に早くならないかなあ〜とヤキモキしています。

初回は韓国、第2回目はチベット、第3回目はインド、第4回目はベトナムときて、今回はチェチェン共和国へ。チェチェンというか、私はいつかコーカサス地方を、とりわけジョージアを旅してみたい。なぜならセルゲイ・パラジャーノフの映画が大好きだからです。

しかし、ジョージア文学であまり読みたいものがなかったので、近接地域であるチェチェン共和国へ。ちなみにベトナム・ハノイ空港からチェチェン共和国(ロシア連邦)・グロズヌイ空港までは28時間かかってお値段約8万円でした。毎回だけどあまり現実味のない好き放題なルートを選んでいるので、「世界一周するならもっと経済的なルートあるだろ」という感じだ。

ロシアなので、本当はサモワールなる大型湯沸かし器具を使って淹れた紅茶が欲しかったけど、そんなものを手に入れる余裕はないのでアッサムティーにジャムを合わせてロシアンティーということに。でも適切な器がなかったので、ジャムを盛ったら「ご◯んですよ」のようになってしまった。まあ、細かいことはあまり気にせずに、プリスターフキンの『コーカサスの金色の雲』を読む。なおこの作品は、チェチェン民族の強制移住に触れているため、当初は発表を許されなかったらしい。しかし地下でコピーが回し読みされ、のちのち映画化もされている。

そう、この小説を読むにあたって、まず頭に入れなければならなかったのがチェチェン民族の強制移住だ。1944年、スターリンの命により、約50万人のチェチェン人とイングーシ人が、カザフスタンなどの中央アジアやシベリアなどに移住させられ、命を落とした。『コーカサスの金色の雲』の背景にあるのは、そんな歴史である。主人公は、サーシカとコーリカという双子の少年。彼らがロシアの孤児院からコーカサス地方へ送られるところから、物語は始まる。この、故郷を追いやられた双子の少年という点が共通しているので、本作は米原万里の『打ちのめされるようなすごい本』の中で、アゴタ・クリストフの『悪童日記』と比較されていた。『悪童日記』は、私は原作は読んでないのだけど映画のほうを観た。なお『悪童日記』は、おそらく第二次世界大戦中のどこかの国が舞台だと思われるが、特定の国名や地名は出てこない。だから、普遍的な物語として読むことができる。

もしかすると、新しい土地でも幸福など待っていないのだ、という恐ろしい思いがよぎったためかもしれない。だいいち僕らは幸せなんて知らなかった。ただ、生きたかっただけなのだ。(p.86)

もともと孤児院出身なのに、さらに故郷を追いやられたサーシカとコーリカに、頼れる人はいない。「幸せになる」のではなく、ただ生きるためだけに全力で生きている双子の少年は、食べ物を得ることにも必死だ。盗みもするし、盗んだものを売り払ったりもする。

そのためか、この小説に出てくる食事は、どれも粗末なものなのに不思議と美味しそうに思える。いや「美味しそうに思える」はちょっと違うかな、「これで生き延びられる」って感じがする。たとえばクミース(馬乳酒)。これはモンゴルとかも含む中央アジアで飲まれている、馬や山羊の乳を原料にした酒らしい。小説の中で読むと命の水かのように思うけど、実際はクセが強くて二度と飲みたくない系の酒だろう(食に対して保守的な考えを持つ人間の意見です)。それからスイカ、水っぽい雑炊、小麦粉と水、ネギ、ジャガイモ、ナツメヤシ、干しブドウ、腐ったニンジン。冷静に考えたら美味しいわけないだろうに、食べ物の描写が出てくるとそこだけ輝いているように見える。グルメ本ではまったくないのに、サーシカとコーリカを通して見る「飢え」が、読む者をそこに惹きつけてしまうのだ。まあ、生のままの野菜を食べてお腹を下したりする描写もあるんだけど……ニンジン、腐ってるからな。

中央アジア、本当に憧れの地なので、歴史も勉強したいしいつか絶対に行ってみたい。行くとしたらやっぱりジョージアかな。アゼルバイジャンとかアルメニアのあたりも興味がある、ナゴルノ・カラバフ戦争のあとの治安がどうなっているのかあまりわかってないけど。ソ連時代の温泉保養地だったらしいツカルトゥボとか、写真で見るととても魅力的だ……。

【写真特集】ソ連時代の夢の跡に暮らす難民たち

しかし、現実的なルートを無視しすぎなのでそろそろ真面目にルートを考えたい。というか飛行機ばっかり見てるけど実際に世界一周するなら陸路を使うべきだろ。いろいろ自分に突っ込みたいところはあるけど、この企画はのんびり続きます。陸路で国境またぐの、なんか独特の楽しさがあるんだよな〜。


この記事が参加している募集

おうち時間を工夫で楽しく

شكرا لك!