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デザインで問題を解決する“思考方法”とは――ミラノデザインウィーク展示/クリエイティブ協力

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毎年4月にイタリア・ミラノで開催されるデザインの祭典、ミラノデザインウィーク(※1)。2015年から出展している慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(※2 以下、慶應SDM)の、5年目となる今年のテーマは「Break the Bias」。4つのチームが、問題を解決する形として展示したソリューションに、D2Cdotのデザイナーがクリエイティブ協力を行いました。

今回は、慶應SDM特任教授の広瀬毅さんと、展示品のアイコンやインフォグラフィックの制作、展示会場で使用するブローシャ―など、アートディレクション兼アドバイザリーとして協力したD2C dotデザイナーの橋本純一にインタビューを実施。
問題を解く“ソリューション”を導き出す思考方法と、それをデザインで実現するために必要なことをお聞きしました。

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※1 ミラノデザインウィーク
毎年4月にイタリア・ミラノで開催される世界最大規模の国際家具見本市であるミラノサローネと、同時期にミラノ市内で開催されるデザインイベントの総称。2019年は4月9日(火)~14日(日)まで開催。
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※2 慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科
複雑多様な社会課題を解決するために、世界をシステムとして捉えて新しい価値を創出する人材の育成を行っている、システムズエンジニアリングを基盤とした大学院。
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■既存の枠を壊し、作りたい世界とは

――5年連続での参加となる今年。たくさんの方が慶應SDMの会場に訪れたとお聞きしました。

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広瀬さん: 6日間で合計30,000人以上もの方にお越しいただきました。会場がガラス張りだったので、通りがかった人が会場内の人の多さに興味を持って、さらに見に来てくれたんじゃないかと思います。

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――会場の外から室内をのぞいている方がたくさんいますね! 来場者の反応はいかがでしたか?

広瀬さん:今年で5回目の出展となりますが、毎年来場者からは「なぜ、これを思いついたのか?」という思考のプロセスをよく聞かれます。企業ではなく学生による展示だということを知ると、より興味を持ってもらえるみたいですね。

――今回のテーマの「Break the Bias」とは、どのような意味が込められているんでしょうか?

広瀬さん:変化が激しく、予測が難しい現代では、自分が気づかずに持っている先入観や既成概念などを壊し、他人や社会と新しく関係を築いていくことで、よりよい社会に繋がっていくと考えています。
例えば、「Your Pleasure」は鏡を用いたソリューションですが、3枚の鏡をちぐはぐに配置したもの。その不確実性から、自分だけのアクションでは予想しなかった面白いもの、きれいなものが生み出されるという、バイアス(先入観)やクリエイティブに対するためらいの開放を体験できます。

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その他に、抽象度の高いものでは、「Touch.」というソリューションを展示しました。「Touch.」はA1の黒い紙のようなものに手をかざすと、その部分だけ色が透けて、下に環境問題を描いた絵が見えてくるという作品。4つの中で一番アーティスティックですね。
ポイントは、1人で手をかざしても、絵は一部分しか透けて見えないということ。「1人で大きな問題に立ち向かうには限度がある。複数の人で手をかざし合うと広い世界やきれいな世界が見える」ということを感じることができるソリューションです。

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■イノベーティブな視点は、どう生まれるか?

――みんなで手をかざし合うことで「環境問題」を意識するなんて、今まで考えたこともありませんでした。素敵なコンセプトですね。

広瀬さん:慶應SDMでは学生に、解くべき問題・解きたい問題を探してほしいと話しています。その問題を「いかに他の人が見ていない視点で見るか」が、勝負のポイントです。

例えば、環境問題についても、何十年もたくさんの人が取り組んできて、何万通りもの方法が出たはずなのに、未だに解決していません。これまで考えられてきた何万通りの方法“以外のもの”を考えるのは難しいことです。問題がジェネラルであるほど、イノベーティブに解くのは難しい。けれど、“その視点で見ていなかった!”というポイントを見つけることができれば、普通に解いてもイノベーティブさが残ります。つまり、問題をオリジナルの視点で捉えなおすことが大切です。

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■コンセプトを形にする思考法

広瀬さん:頭の中でコンセプトができた後は、「それを実現することで生まれる価値は何か? その価値を実現するために必要な機能は何か? その機能を形として体験できる物理は何か?」と、段階を細分化して考えていきます。

――「この問題を解決したい」と思っても、形にする方法がわからないことは多いですが、慶應SDMでは一つずつ細分化して考えているんですね。でも実際に取り組むとなると、私にはハードルが高そうに感じてしまいます。

広瀬さん:難しいですが、その方がやりやすいんですよ。また、最近コツがあることに気付きまして……「その物理に知見があるか」ということも、実現への重要なカギになります。ソリューションとして形にする際には、それまでの経験が生かされる部分も多いため、学生チームはスタックしてしまいがちです。知らない部分は「その分野の人に聞く」ということも大切です。

「Co-fuu」は「人間の感情をコントロールする」をコンセプトに、抱きしめるとその人のその時の感情に合わせ、呼吸するソリューションです。こちらの制作時、どのような形状がよいのかといった分野は学生チームでは弱い部分だったので、知見を持っているD2Cdot橋本さんにお願いしました。

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■同じ言葉でも、想像するものが違う

橋本:はじめに「Co-fuu」についてチームメンバーから話を聞いたとき、メンバー全員が想像している完成系が違うことに気が付きました。「Co-fuu」の形状、素材について話す前に、まずチーム全員の完成系のイメージ合わせを行いました。そもそも“かわいい”の認識がそれぞれ違ったので、イメージを合わせるためにメンバーでブレストも行いましたね。

広瀬さん:同じ言葉を使って会話をしていても、実際にどう認識しているか人それぞれ違うことはよくありますね。プロジェクトが途中で進まなくなったときは、だいたいこのケースに陥っています。

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橋本:私も今回参加させていただき、こんなにも人が持つイメージに差があることを改めて感じ勉強になりました。
チーム内のイメージ合わせをしてからは、「Co-fuu」の色や素材、どういう毛の長さが良いのかなどを話し合いました。最初はピンク・白・黄色で作ることを想定されていましたが、男性にも親しみを持ってもらえるよう、グレーや茶色も提案しました。

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広瀬さん:実際はピンク、黄色、グレーで展示しました。展示中にゴールデン・レトリバーが「Co-fuu」に向かって吠えている場面があり…、「Co-fuu」は動物からも生き物認定されたみたいです(笑)。

■コンセプトの本質を探るため、深く入り込む

――各ソリューションのアイコンとインフォグラフィックの制作、ブローシャ―の制作まで橋本が担当させていただきましたが、制作時のことを教えていただけますか?

広瀬さん:制作をお願いした時点では、ソリューションが完成していなかったので、まずは各ソリューションのコンセプトを知ってもらうところから入っていただきました。

橋本:チームに入って各ソリューションのコンセプトをお聞きした後、すぐデザインに取り掛かることはせず、私もメンバーの考え方に寄り添えるように「みなさんがどのように考えているのか」を、自分の中で固めるところから始めました。
最初に聞いた完成系から変わったソリューションもありましたが、元のコンセプトを聞いて準備していたことで「なぜ、変わったのか」をすぐに理解し、デザインに対応させることができました。

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橋本:依頼をいただいた時点では完成品ができていなかったので、インフォグラフィックの制作は難しいかなと思っていたんです。でも、各ソリューションのコンセプトを理解していたことで、「どの部分を切り取って表現すれば、考えが伝わるか」ということを、あまり悩まずにデザインすることができました。

――ブローシャ―の色がカラフルで、とても印象に残りました。こちらは広瀬さんからご要望があったのですか?

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橋本:カラーバリエーションについては、私から提案させていただきました。昨年までのものは白ベースに黒字で作られていたのですが、以前来場者にブローシャ―を渡したとき、違うソリューションのものであっても、「さっきもらいました」と受け取ってもらえなかったことがあるという話を思い出したんです。じゃあ、思い切ってソリューションごとにカラーをつけてはどうかと「ちなみに、こんなパターンも作ってみましたが……」と、提案しました。

広瀬さん:一目見て、このデザインがいいと思いました! 去年までの流れで制作するのではなく、新しいデザインで進めようと。

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橋本:ありがとうございます。「こっちのパターンにしよう!」と言っていただけた時、ほっとしたのを覚えています(笑)。
お話をいただいた最初の段階から、各ソリューションの目的や考え方など「ソリューションの本質」をお聞きしていたのと、今まで展示した時の出来事や課題を聞いていたので、デザインに反映することができたと思っています。

広瀬さん:お願いする側としても、コンセプトを知っていただくことはデザインするうえで重要だと思いました。コンセプトを深く理解していただくために「各チームが目指している世界はこうです!」という部分からお伝えしました。そういった思いを、デザインに汲み取っていただき、ありがとうございました。

――広瀬さん、貴重なお話をありがとうございました!

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