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インターネットを使うあらゆる人々が参加して意見する場にしてほしい――IGF2023京都に向けたパネルディスカッションより

2023年4月29日、群馬県で開催された「G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合」の中で、IGF2023京都に向けたパネルディスカッションが行われた。慶應義塾大学教授の村井純氏らが登壇し、IGFの紹介や京都開催への期待が語られた。

10月に京都で開催されるIGFへ向けて

2023年4月29~30日に、群馬県高崎市で「G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合」が開催された。これは「G7広島サミット」の関係閣僚会合の一つであり、その成果として「G7デジタル・技術閣僚宣言」が採択された。

この会合のサイドイベントとして、2023年10月に京都で開催予定の国際会議「インターネット・ガバナンス・フォーラム(IGF)」に関するパネルディスカッション「Toward IGF2023 at Kyoto」も行われた。

パネルディスカッションには国連IGF事務局長のチェンゲタイ・マサンゴ氏、慶應義塾大学教授の村井純氏、元IGFマルチステークホルダーアドバイザリーグループ(MAG)会合議長のリン・サンタモール氏の3人が登壇し、IGF2023に向けた国内IGF活動活発化チームチェアの加藤幹之氏がモデレーターを務めた。

また、IGFリーダーシップパネル議長のビント・サーフ氏からのビデオメッセージも紹介された。

本稿では、各登壇者の印象的だった発言をまとめる。

(※各登壇者の写真画像は本イベントの配信映像より)

モデレーターの加藤幹之氏
IGF MAGのメンバーとして、また経団連代表として2006年から毎年参加しており、近年は国内IGF活動活発化チームで国内での会議開催や海外連携を支援している

チェンゲタイ・マサンゴ氏――インターネットを利用する全ての人が意思決定のプロセスに関わる

国連のIGFプログラム&テクノロジーマネージャーであり、IGF事務局長を務めるチェンゲタイ・マサンゴ氏は、IGFの基礎知識としてその成り立ちと例年の様子、京都会合での議題、そしてマルチステークホルダーという考え方の大切さを紹介した。

IGF事務局長のチェンゲタイ・マサンゴ氏
国連のIGFプログラム&テクノロジーマネージャーも務める

IGF発足のきっかけは、世界情報社会サミット(WSIS:World Summit on the Information Society、ウィシス)と呼ばれる会合だった。2003年と2005年に行われたこの会合で、社会的な重要性と影響力が増してきたインターネットに関して、ガバナンスを定義するとともに、公共政策についての議論の場を設けることになった。そして2006年、アテネで第1回のIGFが開催された。

IGFにおいて重視されるのは、マルチステークホルダーアプローチという考え方だ。これは、インターネットを利用する全ての人が、意思決定のプロセスに関わるということ。

IGFのMAGは、世界各地のさまざまなステークホルダー40人で構成されており、加藤幹之氏もその一人だ。また、IGFリーダーシップパネルというグループもあり、2020年のノーベル平和賞を受賞したマリア・レッサ氏などが名を連ねる。そして双方のグループで議長を務めるのがビント・サーフ氏だ。

IGFでは、原則として「オープン」「ボトムアップ」「包摂性」「透明性」「非ビジネスで人間中心のプロセス」であることをうたっている。

IGF2023の全体テーマは「我々が求める、全ての人に力を与えるインターネット」となっており、次のような8つのサブテーマがある。

  • AIと新興技術

  • インターネットの分断回避

  • サイバー空間のセキュリティ、犯罪、安全性

  • データガバナンスと信頼

  • デジタル格差と包摂

  • グローバル・デジタル・ガバナンスと協働

  • 人権と自由

  • サステナビリティと環境

これらIGFのテーマは、国連のSDGsとも深く結びついており、その達成にはICTが大きく貢献できると考えている。

IGFで重要なのは、年に1回だけの会議をするのではなく、通年であらゆる取り組みがされているということだ。議員会合では、情報政策に関する議論が行われる。また、インターネットの将来を考える世界175か国・地域のユース会合もある。学生から高齢者まで、将来のインターネットに関して何かしら貢献できることがあると思うので、ぜひ参加してほしい。

村井純氏――コロナ禍を経たタイミングでの開催に意味がある

IGF2023京都を円滑に開催し、かつ盛会とするため、2022年に日本IGFタスクフォースが発足した。その会長を務める村井純氏は、IGFが京都で開催されることの意味について語った。

慶應義塾大学教授の村井純氏
日本IGFタスクフォースの会長も務める

今、日本全体のデジタルトランスフォーメーションが進められているが、あらゆる部分でインターネットを前提とした社会をつくろうとしている。

日本は、誰一人取り残されないデジタル社会というものを目指している。デジタルを使えない人を置いていくことなく、全員を入れなければならない。「全ての人がインターネットにアクセスして恩恵を受けられるようにする」「マルチステークホルダーとボトムアップ」といったIGFの考え方と、今この国が取り組んでいることはすごく同期している。

インターネットが普及し、我々の生活に関わることから健康、エンターテインメント、メディアまで、あらゆることがインターネットを前提にしているときに、誰が未来に対して意見を言うのか、あるいはどうやって未来を決めるのか。やはり全ての人の手になければいけない。これがIGFでも重要な考え方だと思う。

世界にはいろいろな環境がある。インターネットで国民を管理したいと思う国もある。インターネットの開発を全て民間だけでやっている国もある。国が一切関わっていないという小さな国もある。

日本は、産官学が力を合わせて、世界で最も信頼できるクオリティの高い環境を構築してきた。みんなの力、すなわちマルチステークホルダーでこのデジタル社会をつくってきた。私も関わってきた一人ではあるが、客観的に見てもマルチステークホルダーでデジタル社会をつくることを非常に高いレベルで先導してきたのが日本だと思う。

一方で、日本の良くないところも1つある。それは、自分の立場でインターネットに対する意見を大きな声で言わないところで、みんなつつましくて謙虚だ。京都では、自分の思っていること、自分の関わっていることについて、各自の視点から意見を言ったり、実際に活動したりしてほしい。そのチャンスとしてIGFを積極的に使ってほしい。

2023年になり、COVID-19がようやく落ち着いてきた。この2~3年でインターネットをベースにしたデジタル技術やそれに対する期待など、ものすごく認識が深まった。インターネットが自分と関係ないと言える人は、ほとんどいない状況になった。今年のIGFは、そのような歴史的な時に行われることでも意味があると思う。

リン・サンタモール氏――多国間主義は当然のものではなく、これからもそうであるという保証はない

元IGF MAG会合議長のリン・サンタモール氏は、米国ニューヨークからオンラインで参加。IGFの価値とマルチステークホルダーアプローチについて紹介した。

元IGF MAG会合議長のリン・サンタモール氏
長年インターネットソサエティの世界代表も務めていた

IGFはWSISがきっかけで生まれたが、当初は国連の取り決めを厳格に守り、政府や他国間との交渉が中心だった。そのため、市民や民間企業の方は、限られた議論にしか参加できず、副次的な役割しか果たせなかった。

しかしその後、地域のインターネットのレジストリやIETF、ICANN、ISOC(インターネットソサエティ)など、インターネット技術関連のコミュニティが追加のステークホルダーとして議論への参加を許された。

WSISの準備会合というものがあり、そこで各国の政府や議長たちは、インターネットが単に新しいコミュニケーションツールであるだけでなく、開発・発展そのものが他とはまったく異なるものであると気づいた。

インターネットの製品やサービスは、個人によって開発され、世界中に相互接続された数十~数万のネットワークを通じて簡単に広めることができる。これが可能なのは、オープンでボトムアップなプロセスだからであり、その相互接続の規格は自主的に決めて守っていた。

これは明らかに、他のコミュニケーション手段の開発・発展モデルとは異なる。インターネット技術コミュニティは、確立された従来のやり方とはまったく違う形で運営されており、オープンであること、アクセシビリティ、対話、合意という原則を順守していた。

これは20年以上前のことだが、デジタル技術が私たちの生活の全てに影響を及ぼし、急速に変化していることは明らかだった。これらの変化やそれを生み出す技術を、ほとんどの人や政策立案者は理解していなかった。

私たちは少しずつ、包摂的でオープンな議論を行うことの価値に気づき、それがIGFとマルチステークホルダーモデルにつながった。IGFの価値は、政策提案への影響力をはじめ、あらゆるところで成果として現れている。

IGFやそのコミュニティは常に進化してきたが、改善の余地もある。2025年にIGFは20周年となるが、同時にインターネットガバナンスも徐々に変化している。それに関連する取り組みとして、グローバル・デジタル・コンパクト(GDC)、WSIS+20、そして新しいフォーラムも生まれているし、OECDの技術関連セッションもある。

また、効果的な多国間主義(マルチラテラリズム)に関するハイレベル諮問委員会には、公正で持続可能なデジタル化に関するグローバル委員会の創設を提案した。多国間主義というものは当然のように感じるかもしれないが、常にそうだったわけではなく、これからもそうであるという保証はない。

日本は、マルチステークホルダーアプローチとオープンであることを強く支持し、技術者コミュニティの声を求めて戦ってきた。先ほど、村井先生からその言葉を実際に聞くことができてうれしかった。

ビント・サーフ氏――インターネットの影響力が増す中での国際会議はこれまで以上に重要

IGFリーダーシップパネルの議長を務めるビント・サーフ氏から、ビデオメッセージが送られた。同氏はTCP/IPの共同開発者であり、グーグルの副社長兼チーフ・インターネット・エバンジェリストとして知られている。IGFでも主導的な役割を果たしており、毎年IGF会合に参加している。

IGFリーダーシップパネル議長のビント・サーフ氏

インターネットやコンピューター技術は、2003年から大きく進化した。私たちが使っているツールは、20年前と比べて無制限に強力になっている。

これらのツールは非常に強力であるがゆえに悪用される可能性もある。このことが重要なのは、その影響が世界に及ぶからだ。

インターネットのトラフィックに対して、各国・地域の法律や規制は比較的ゆるやかだ。この力と利益を活用できる一方、人々の権利と利益、安全、安心、プライバシーの保護に関する共通の合意を得ることに複雑さをもたらす。だからこそ、G7における技術と通信に関する会議が、これまで以上に重要な意味を持つ。

これらの会合が世界中で行われる理由の一つは、幅広い視点を提供することで政策の策定を支援することにある。皆さんは、IGFに関連する他のさまざまな活動、特にIGFの年次会合の開催を支援するMAGについて知っていると思う。

他にも国連が担う活動として、例えばGDCは、技術面だけでなく、国連が採択したSDGsに関しても、より良い未来のために各国が協力する方法を見いだそうとする取り組みだ。これら全て不可欠なものだ。

京都で開催されるIGFの会合で、多くの皆さんとお会いできることを楽しみにしている。


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文:仲里 淳
インプレス・サステナブルラボ 研究員。フリーランスのライター/編集者として『インターネット白書』『SDGs白書』にも参加。

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インプレスホールディングスの研究組織であるインプレス・サステナブルラボでは「D for Good!」や「インターネット白書ARCHIVES」の共同運営のほか、年鑑書籍『SDGs白書』と『インターネット白書』の企画編集を行っています。どちらも紙書籍と電子書籍にて好評発売中です。