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指の動きから見る『獣になれない私たち』1話感想

2018年10月10日からスタートした野木亜紀子さん脚本作品『獣になれない私たち』。

ドラマに関する事前情報は、始まる前まではできる限り遮断するようにしているので、キャストとスタッフ以外何も知らない状況で見たけれど、第一話、面白かった。

野木さんはドラマの第一話での掴みが異様にうまい気がする。演出の水田伸生さんとのコンビも新鮮味があって期待できそうだ。

そんな第一話、初めて見たときからどうしても「指の動き」ばかり気になってしまったので、「指の動き」に注目して振り返ってみようと思う。

※考察ではなくあくまでも個人の所感なので、あしからず

冒頭の「5tap」

物語は、新垣結衣演じる新海晶の行きつけのクラフトビール店のオーナー・タクラマカン斉藤がビールをグラスに注ぐ手元のカットから始まる。

晶は彼氏である京谷(田中圭)の話を聞きながらも、目線は奥のテーブルにいる奇抜なファッションの女性に。

「ああいうのってさ どこにアピールしてんだろうな。あれ好きな男 そうそういなくない?」

と訝しむ京谷に対して、

「京谷のお母さんと会う日 ああいう格好で行こうかな」

「え? え? おどかすなよ」

「あはは」

といたずらっぽく笑いながらビールを飲むときに晶の小指がぴくっと立つところに目を奪われた。これが晶の癖なのかガッキーの癖なのかは分からないけど。

一方奥のテーブルでは奇抜なファッションに身を包んだ呉羽(菊地凛子)が、恒星(松田龍平)に突然の結婚を報告。

「これ ひゃっくまっんえーん」

と手を小刻みに振りながら指輪を見せる。呉羽は喋るときに身振り手振りが多く忙しいので割愛。

その後、呉羽の結婚に店内全員で乾杯するシーン、画面手前のおじさんが呉羽に向かって手を伸ばしグラスを向けてるのに呉羽が反応するまでに若干のタイムラグがあったので、え、このおじさん乾杯してもらえないの? 現実ではよくあるけどドラマの世界でそんなの再現しないでよつらいわ、と思ってたらちゃんと反応して乾杯してたので安心した。

乾杯後の談笑中、ふと恒星と目が合い会釈をする晶の小指がまたぴくっと立つとこで、これガッキーの癖であってほしいなとなんとなく思う。

恒星が席に戻り、晶が持っていたビールを手持無沙汰にぐいっと飲む、その手元のカットでシーンは終わり、タイトルバックへ。

このシーンに限らず、お酒を飲んでいるときの晶の指は、いつも所在なげにそわそわしている。

晶の部屋

京谷が腕時計を外して机の上に置くシーン。腕時計の触り方がエロい。ベルトの触り心地を親指の腹で確かめるようにすりすりしてる。

時計を置いた机には、晶の部屋の契約更新のお知らせの書面が。

直接的な表現を使わずとも、一緒に暮らすことを提案している晶に、はっきりせず黙る京谷。

「京谷」と短く、でもはっきりと答えを催促する呼びかけをしているにも関わらず、晶の指は「新しい入浴剤」をつかみ

「あ あった 新しい入浴剤。お風呂はーいろ」

と助け船を出してしまう。

終盤の「忙しいならいいです」と領収書を断るシーンもそうだけど、こういうところに、晶が仕事を押し付けられて疲弊している理由がある気がする。結局自分でその場を収めてしまう。晶が仕事を受けちゃうのも、仕事を辞めないのも、晶がそういう性格だからというのが一話でよく描かれていた。

シーンは、行き場なくさまようように指を動かす京谷の手元で終わる。

演出の水田さんといえば最近では坂元裕二さん脚本作品の『anone』を担当していたけど、このシーンで「部屋の更新のお知らせ」と「京谷の手元」以外に鏡で「京谷の口元らへん」を映しているのは、なんとなく『anone』を思い出した。『anone』は鏡越しにハリカを映すシーンが印象的だった。

通勤

晶はスマホをいじっているシーンが異常に多い。

通勤中も、社長の九十九(山内圭哉)からメッセージが届くたびに、カバンからスマホを取り出す。

満員電車に揺られるシーン、大きな揺れで体の体制が崩れたときに、つり革を掴んでいない左手で何かを掴むようにぎゅーっと手を握るシーンやその後つり革の手を入れ替えて荷台を掴んだり、離してつり革を両手で掴んだり、やっぱり荷台を掴んだり、と晶の指は大忙し。

ツクモ・クリエイト・ジャパン

会社に着いてからも、午前の会議の準備をしたり、自分の担当じゃない仕事のプレゼン資料の修正をしたりと晶は大忙し。

代わりにプレゼン資料の修正をしておいたことを本来の担当の松任谷(伊藤沙莉)に伝えるシーン、身振り手振りを交えながら説明をしていて、どうにか分かりやすいように説明をしようと意識していることが分かる。

通勤②

帰りも満員電車に揺られて帰る晶。電車の連結部の窓に押し付けられ、窓についてしまった自分の頬の跡を、ジャケットの袖を指で挟みながらふき取る。

あくまで指の描写のみの話なので、シーンはどんどんカットして進める。

5tap②

疲れて帰ってきた晶が「5tap」に寄るとそこには恒星が。

「斉藤うるさい」

と眼鏡をくいって上げるときの恒星の所作がいい。

恒星に、呉羽との間に本当は何があったのか聞く晶。この間もずっとグラスをいじいじしている。晶の手元が落ち着くことはあまりない。

余談だけど、晶がお会計するときの

「先にお会計お願いします」

「え もう?」

「まだ月曜なんで…」

「長いねえ 週末まで」

「えへへ」

というやりとりが、『獣になれない私たち』第一話で一番かわいいシーン。

ところで、公式サイトを見たら恒星のキャラ説明に「『世渡り上手』で『人当たりがよく』、女にもてる敏腕会計士」と書いてあるんだけど、恒星の「人当たりのいい」描写なんてあったっけ? と悩んだ。作中の描写だけで言うと、嫌味だけど面倒見は良さそうな感じかな。

根元会計事務所

恒星をベッドに誘う呉羽。「人妻とはやらないの」と断る恒星。

呉羽が恒星の手に自分の手を重ねながらのこのシーン。呉羽が指を絡めたり撫でまわしながらだったらエロイような気もするが、呉羽の指がぴくりとも動かないことからも、本気で誘ってるわけじゃないのだろう。近所のラーメン屋が社内にいたことからもおそらく出前のタイミング、真昼間だし。

松田龍平と指、というキーワードで考えるとやはり『カルテット』4話の松たか子とのシーンは外せない。

真紀さん(松たか子)にずっと片想いしている別府さん(松田龍平)が、

「あなたといると二つの気持ちが混ざります」

「楽しいは切ない。嬉しいは 寂しい。優しいは冷たい。愛しいは 虚しい」

「愛しくて愛しくて 虚しくなります」

とまっすぐ見つめ合いながら伝えるシーン。真紀さんの手首を掴んでいた別府さんの右手はそのまま手のひらと指先へと移動し、

「語りかけても 触っても そこにはなにもない」

「じゃあ僕はいったい何からあなたを奪えばいいんですか?」

と続き、ねっとりと指と指を絡ませていく。ここで一番エロかったのは間違いなく真紀さんのされるがままではなく一瞬だけ指が能動的に動いて別府さんを受け入れているところ。エロイし美しくて繊細過ぎるこのシーンはよく分からない感情になった。男女の駆け引きは、言葉以上に目と指で行われるものだと思う。

カルテットのこのシーンを「もう手ックスじゃん」って言った人がいたけれど、これ以上ないくらい的確な言葉すぎる。

手首から手を繋ぐ流れで言うと、『宮本から君へ』2話での宮本(池松壮亮)と裕奈ちゃん(三浦透子)のシーン。強風で傘が飛ばされた裕奈ちゃんを支えるために宮本は咄嗟に手首を掴むが、裕奈ちゃんはそのまま無言で手を握る。ここもいいシーンだった。シチュエーションはともかく、手首からだんだんと下がっていき手を繋ぐのって、割と現実でもよくあるのでは。

「けもなれ」と関係ない話なので終わり(「けもなれ」という略称、「けもフレ」みたいで慣れない)。

京谷のお母さんとの顔合わせ帰り

レストランでの顔合わせを終え、京谷と二人で帰る晶。

エスカレーターの頂上付近、後から登ってきた京谷が隣に並んだのを見計らって身を寄せ腕を組む晶。エスカレーターを降りるときに一瞬、京谷の腕の感触を確かめるかのように腕を握りなおす晶の描写がめちゃくちゃいい。

前クールでやってた波瑠主演の『サバイバル・ウェディング』の8話の話をしたい。その回には、主人公のさやか(波瑠)と柏木王子こと柏木祐一(吉沢亮)が初めて手をつなぐシーンがある(二人は付き合ってるのか付き合ってないのかよく分からない関係)。

インテリアショップを二人で回りながら、流れで手を繋ぐことになるんだけど、初めての手繋ぎに少し興奮してるさやかに対して、柏木王子は涼しい顔で繋いださやかの手を指先でとん、とんと感触を確かめてるの、柏木王子これやり慣れてやがるなって感じであざとさ最高だった。

手を握りなおすとか、感触を確かめるとか、この手の描写に弱い。

天草製薬への謝罪

天草製薬の件で、提出期限を忘れていた松任谷の代わりに担当者に謝罪に行く晶。

晶は、反省していない(ように見える)松任谷の代わりに反省してる姿を見せろと土下座を要求される。

言われたとおり土下座をする晶を見て、「やだな なんちゃってって言ったのに」と焦る担当者だがその後、

「女の子泣かせるのは趣味じゃないんだよなあ ごめんねえ ごめんごめんごめん」

と晶の頭をなで始める。このシーン、とにかくきもい担当者、何がきもいって撫で方がきもい。手のひらで卑しく撫でまわしながらも極めつけは親指の動き。撫でまわす手のひらの動きとは独立して親指の腹で撫でてるんだけど、明らかに前戯としての愛撫に近い。散々愛撫したあとに、晶の頭をぽんと叩くのも勘違い感すごいけど、やっぱり親指がきもい。

ちなみにこのシーン、通行人の女性社員が一度気づき、立ち止まりそうになるんだけど、やっぱりきもいものには触れない方がいいかのごとく知らないふりをして通り抜けようとして、でも意識が前方に向いてなかったから目の前から歩いてくる他の社員にぶつかりそうになって避ける姿がいい味だしてる。

帰りの駅のシーン

社内の協力もあり、無事天草製薬への提出物を送ることができた晶だが、その報告の連絡でまたあのきもい担当者からのセクハラを受け、ぷつんと気力が切れてしまう。

呆然としながら、ホームに立つ晶の手元のスマホには、九十九からの「やる気あんのか」というメッセージが表示されていた。酔っ払いとぶつかり、落としてしまったスマホを拾う晶だが、そのまま吸い込まれるように黄色い線を踏み越え一歩ずつ進んでいく。

しかし、すんでのところで電車の存在に気づき、後ろに尻餅をつく。動揺しながらも何とか立ち上がる晶だが動くことができず最終電車を見送ることに。気が動転していても、スマホは離さず手に持ったまま。

5tap③

終電を逃したのでタクシーで帰ってきた晶。客はまたしても恒星のみ。

無言で人差し指一本を立てビールを注文し、立て続けに2杯のビールを飲み干し3杯目。

店長が店の奥に行ったタイミングで、恒星との会話が始まる。

「やっぱりしたいもんなの? 結婚」

「あ マリッジブルーなのか」

恒星の話を聞きながら、晶の指はずっと、迷っているのか、感情の整理がつかないのか、ぐちゃぐちゃした動きを繰り返し、まるで感情表現のすべてが指先にこめられているかのよう。

絞りだすようにつぶやいたのは、

「結婚 したかったこともあったけど いまは恋がしたい」

「誰かに恋をして すごくすごーく好きになって]

「なれたら 新しい恋ができたら 何か変わるのかな?」

終わり

『獣になれない私たち』について書いていたはずが、知らない間にどんどん脱線してしまった。

ただ、それはそれとしても、やっぱり手元を映すカットが多いような気はする。これを書いてみて初めて「普段から人の手元を見てるからドラマでも見ちゃうんだな」ってことに気づいた。

指のことは置いておいても『獣になれない私たち』、細かい部分で魅せるドラマだと思うので、第二話以降もとても楽しみ。

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