U-30ドリームトーナメント 津風呂湖編 プラ



沢山の困った


「困った事になった。」

これが嘘偽りのない正直な感想である。
今年の4月に行われた新利根川戦で私、辛島は浮かれていた。
何のスポンサーも受けておらず、出自が特別でもなく、週に一回に釣りに行き、時々ローカルの大会に出てるくらいの一般リーマンサンデーアングラーがTOP50やWBS、チャプター上位陣や各地のスーパーロコetc.相手に運営しながら戦えてしまった、というか入賞してしまったのである。(後一本が獲れず勝てなかったのは相変わらず幸せまで一本足りないを地で行く人生である。)
正直一本獲れずに優勝を逃した点については吐きそうなくらいに悔しかったのだが、それでもプラの段階から自分の釣りで魚を探し、本番に挑み、そこそこの結果を残せた事にそれなりの満足感を覚え、ハッキリ言って浮かれていたのである。

全国の猛者相手に三位入賞。詳細は新利根川編に書いてあります。


バスプロばかりの運営陣で一人だけの一般人が入賞。この浮かれっぷりである。

そして大会から数日が経ちnoteの記事を書き上げた辺りで、ふと冷静になった時に気がついたのだ。

「これは困った事になったぞ…」

当たり前なのだが第一戦で入賞したら年間優勝が見えてくる。
本人は目前の新利根バスに必死で年間のことなんか忘れていたのだが、冷静になった時に思い出してしまったのである。

年間優勝はワイルドカードと艇王の権利が授与される。
喉から手が出るほど欲しい人は沢山いるだろう。
そんな権利に手が届きそうな事をこの時始めて理解した。

ただ困ったことに第二戦の舞台は津風呂湖。
純粋に我が家からとても遠いのである(車で7時間程度)
費用と時間を考えた時にサラリーマンにはとても辛い。
そして困ったことにフィールドのタイプとしてもめちゃくちゃに相性が悪いのである。


山間部にあるリザーバーで水深が深くクリアな水質、バンクは切り立った岩盤でメインベイトはワカサギ、フロリダ種の血が濃いバス。
何から何まで本当にホームの長門川とは真逆なのである。
平地にあるタイダルリバーでシャローでマッディ、バンクはウッドカバーにオーバーハングとマンメイド、エビが大好きノーザン種。

最早同じバスフィッシングにカテゴライズして良いのかというレベルで違う。

水深数mのボトムまで丸見えで、シャローには小バスとギルが群れ、ディープにはワカサギがベイトボールを形成し、水深20mの6mに浮いてるバスをライブスコープで追っかけ回し、2インチのマイクロベイトやアラバマ、挙句の果てにはその魚を表層のピクピクで釣ったりするらしい。

関東ローム層を通過した泥水で生まれ育ち、人生で釣ったバスの8割は1.5m以浅、風と流れと太陽の位置etc.で魚を探し、魚探は水深、水温計と化し、ピンクのセンコーが見えなくなったらボトムという教義でバスフィッシングを覚えた身である自分からは、そんなアングラーは異教徒を通り越し、もはや宇宙人のように感じる訳である。
何もかもが違う、そして分からない。
だからこそ行くしか無いのだ。

「…とりあえず…行ってみるか…津風呂湖」

こうして泥水育ちのアストロノーツは別の惑星、奈良県へと旅立った。

宇宙

地表から約100kmで便宜上宇宙になるらしい。
ちなみに東京から100kmは熱海だ。
つまり我が家から宇宙よりも遠いのが津風呂湖である。
宇宙までにどれくらいかかるかは検討もつかないが、我が家から津風呂湖は休憩入れてみっちり7時間かかった。

初回のプラでは4日間釣りする時間を作った。
とりあえず自分のスタイルで釣れる魚を探し、全体的な雰囲気を掴むことが目的だった。

初日
想像以上にキツい…
まずバンクにカバーがない、本当に切り立ったタイプのフィールドでありシャローフィッシングが事実上ほぼ不可能。
またフロリダ種特有の物に固執しない性格と、メインベイトがワカサギという事もありある程度のサイズは沖で元気に走り回っている。
時々見えるバスもいるが、大したサイズではなく、そもそも11月の末にはこんな魚はいない。(後々本番ではサイトする選手もいたし、自分も数本の良いサイズを見かけた…つまり思い込み…)
なんとか走り回って釣れたのが1本。
前途多難、どうしたものか…

津風呂初バスは釣るのに丸1日必要だった。

2日目
この日は飛び入りで津風呂湖オープンへ参加。
勿論出るからには頑張るけど、何かしらヒントが貰えたらと…
ただここで「困った。」が起きる。

魚探が壊れたのである。

レンタルボートに乗り始めてから先輩に格安で譲ってもらったHUMMINBIRD。

10年近く使い、かなり粗雑に扱われてもめげずに付いてきてくれた健気な子である。遠征中、それも大会の当日朝に壊れるとは最後にやってくれる…今までありがとう…。

そんな訳で地形も何も分からんのでとりあえず見えてる魚を相手に奮闘。
1本のサイズ勝負という事もあり39cmを釣り18/100人位という順位。

たまたま見えた子。

ただお立ち台での上位陣のコメントは絶望するには十分だった。

沖のライブシューティング。
やはりこれがこの湖で最もホットな釣り方だ。

ライブシューティング自体を否定する訳ではないのだが、持ってない身からすると正直聞いたところで何も出来ない…とのなるだけなのである。

その後、ローカルの人達と会話して色々聞くもやはり宇宙人の言語を理解するには翻訳機がないことには無理だなと深い絶望に落ちていくのであった。

3日目
この日は全部で6艇というお客さんの少なさ。
ほぼ貸し切りとなのだが、残念ながら特に書くことは無い。
魚探なしでそれっぽい所を釣るもノンキーばかり。
時々ふらっと見えるモンスターに心踊らせながらルアーを投げるも虚しく、何も出来ずに1日が終わる。

絶望。

死なないだけスプートニク2号に乗ったライカよりはウン千倍マシだったとは思うが。

4日目
この日は朝から雨だった。
春先の冷たい雨がキツかった。

ここまで三日目、自分の釣りと付け焼き刃のご当地の真似事をして魚を探してきてほぼ釣れない事が明確に分かった。

ここで切り替えた。
まだ自分のスタイルも固まっておらず、世にライブスコープも無かった時代、こぞってみんな投げた往年の房総リザーバーの釣り。

レッグワームのダウンショット。(シンカー重め)

これでひたすらにそれっぽいところをランガンした。
分からん。魚探ないから水深も地形も分からん
ただひたすらに竿先からの情報で組み立てる。
ただ答えは帰ってきた。

オタが沈んでいそうなところにダウンショットを投げてひたすらボトムと会話する。

ファイト中にエビを吐いた子。


その後、岬周りを丁寧に探るともう1本。


恥ずかしながらこの2本を釣るのに4日かかったわけである。

自分がどれだけリザーバー、深い所でバスフィッシングをしてないか嫌というほど分かった。


2度目の挑戦

民間人が宇宙へ旅行するのには50億〜60億円ほどかかるらしい。
津風呂湖は僕にとって宇宙みたいな所ではあるが流石にそこまでの費用は掛からない。
とはいえリーマンアングラーにとって往復の高速代やガソリン代は馬鹿にならないし、何より困ったことに体力がキツイのだ。
仕事終わりに7時間も運転して現地につくとフラフラであり、釣りのパフォーマンスへの影響さることながら純粋に危ない。
そんな訳で今回は後輩をアブダクションした。

交代で運転し(途中マジで起きてくれなくて諦めて運転したが)現地には比較的体力が残った状態で到着した。

そして何より彼は宇宙を理解する為に必要な翻訳機(ライブスコープ)を所持し、普段から使っているのだ。

彼のミッションは1つ、とりあえずライブスコープで魚を探し、釣って、情報を集めてくれと。

その間、泣きながらバスボートから引っ剥がしてきたHUMMINBIRDでひたすらに前回釣れたようなポイントを探し、釣りをする。
前回から
魚のレンジは深い4~7m、下手したら8~10m
かなり動き回っていて、岬周りや垂直岩盤に時々コンタクトする(陸っぱりの人が粘って時々釣ってるのは回遊待ち?)
沈みオダにはエビがいて、サイズが小さいがある程度反応がある。

以上の事を意識して、フラットのオダでノンキー〜キーパーギリギリの魚はポツポツ釣れた。
また回遊に上手く当たるとそれなりのサイズが時々釣れる。

ただこの回遊してる「それなり」がいつどのタイミングで現れるのかが分からない。

ただレッグワームでやってれば普通に食う。

何となく、陸っぱりがいるところは避けて回遊してる…くらいしか分からない。

頼みの綱の後輩もそれなりに釣ってはくれたのだが、やはりフロリダ特有の動きに翻弄されているみたいでイマイチ掴めないとの事。

分からん…本当に分からん…

2日目釣りをしてキーパーギリギリは5.6本
「それなり」は3本…

突然に釣れる「それなり」。
サイズに対してウェイトが重い。

前回よりはマシだが…勝負にならんかもしれない…

なんとか…最終練習で…何かしらを掴まないと…
不安と焦り、ライブシューターへの妬みと見当違いの怒り、ルールで許されている以上、買わない自分が悪いのは分かっているのに。
(あんな最新技術の塊、高級魚探なんて…)
酷く醜い嫉妬心を抱きながらハンドルを握り帰路についた。


充分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない。

アーサー・C・クラーク

2001年に宇宙の旅へ行くことは無かったが2023年に魔法使い達と戦う羽目になった。


決戦前夜

宇宙人でも魔法使いでもない一般リーマンサンデーアングラーが彼らと戦う為にはとにかく練習してレベルを上げて物理で殴るしかない。
有給を使い何とか試合前二日間の練習時間を確保した。

直前練習初日は前回(3週間ほど前)に反応が多かった4~7mフラットや岬回りをチェックした。
8~10mまでそれらが続いており、季節が進んでも一段深い所に落ちるだけで魚を見失うことはないだろう。




と思っていた。

だが大変困った事に全く反応が得られなかったのである。
そして魚探が水深表示を間違えるほどの大量のヘラブナの群れがメインのポイントに溢れかえっていた。
調べてみると漁協が尺以上のヘラブナを放流したらしく、それがメインエリアに溜まってしまっていた。


(バスがいなくなってる…新しく探さなくては…)


こうして直前になってまた自分に釣れる魚を探す旅に出る羽目に。
(ただこれが勘違いであり、試合当日はここから何本もビッグバスが出ていた。純粋に釣る技術がなかっただけと言う事実に余計ショックを受けた。)

「それなり」のサイズも明らかに落ちていた。

そして度々の「困った。」がここでも起きる。

メインロッドのガイドが折れた。
釣具屋に電話するもガイド単品を置いているお店はなく、仕方なく中古釣具店でジャンク品のロッドを買いガイドを引っぺがし応急処置。

貴重な試合前の時間が無駄に消費されていく…
見かねた琵琶湖ガイドのジャッキー(成龍)君が車を出してくれたので楽ではあったが…
なんで試合直前に…

長距離運転のあと1日中釣りして疲れ果てた体でガイドを付け直す。
布団に入る頃には肉体的にも精神的にも大分追いつめられていた。

このタイプのガイドは自分と相性が悪い。


持って来ていたPEとホームセンターで買った接着剤で懐かしい金色のガイドを付ける。


直前練習2日目は初日の最後に大きく移動して発見したエリアから再スタート。

津風呂湖大きく分けて4つほどのエリアに分かれるのだが、比較的水深が浅く最も人気のないエリア(の一龍周辺)で自分にも釣れる魚がいた。
前回のプラの時にも魚は釣れていたのだがサイズが小さく、本番で使う事はないだろうと思っていたのだが、ここでしかキーパーを超えるサイズを獲る事が出来なかった。

他は見返り橋周辺に2か所ノンキー~ギリギリキーパーが溜まっているポイントを発見したが、それも一番良い時間に行って何とか反応があるだけ。
他の選手が朝イチにキッカーサイズの狙いに行く中で、自分はキーパーギリギリのサイズが釣れるか釣れないかという低レベルな戦いしか出来ない事が本当に悔しかった。

あとは時々回ってくる「それなり」のサイズがラッキーで釣れるかどうか…

決戦前夜
泥水育ちのアストロノーツは魔法使い達相手に
戦う前から負けていた。

つづく

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