宇多丸さんの映画評論評論。

 TBSラジオ『ライムスター宇多丸のウイークエンドシャッフル』内で,映画評論をされてる宇多さんこと宇多丸氏。彼の評論は世間でとても評価が高い。自分自身も基本的には毎週楽しく聞かせてもらっている。…が,彼が映画評論の王道やトップとして激賞される風潮には首を傾げたくなる。

 なんでかというと,彼の映画評は“構造”“テーマ”に関する視点からのものがほとんどで,それ以外はおまけでしかないから。この場面はこういうメタファーになっている,この台詞は彼だけでなくマイノリティ全体の叫びになっている…などなど,監督や脚本家が強い意図を込めたシーンについて語るときは非常にハマるが,それ以外の美的な感覚や各俳優の演技などについては,実はあまり読み取るスキルがないんでないの?と思ってる。

 それを一番最初に強く感じたのは,『プリンセスと魔法のキス』の回。この映画はディズニーがしばらくやめていた手描き2Dアニメを復活させたというのが話題で,当然その評論も「各キャラの動きはどうだ?」が主題になると思われた。…のだが,宇多さんは評論の大部分を「ここまでのディズニーアニメの系譜」や「主人公が強い女性ということの意味」に費やし,(自分の記憶が確かならば)肝心のアニメーションとしての動きの質については1秒も触れなかった。正直,「下手なこと言ってアニメマニアから突っ込まれるのが怖くて逃げたのでは?」と思ってしまったほどである。

 また,ときどき「え,なんで?」という考えすぎの解釈ミスも見受けられる。これはリアルタイムでなく後から音源を聞いたのだけど,シネマハスラー誕生のきっかけにもなった『キサラギ』評。この映画のラストに対して宇多さんは
  「あれだけそのアイドルの顔を出さずに話を進めてきたのに,
   最後になってあっさり出しちゃうんですよ。
   しかも深キョンとかならともかく,しょっぼーい普通の子ですよ。
   それまでの演出忘れたのかよ!」
みたいに怒るわけですが,その部分って完全に
  ・話の途中では,アイドル役の顔を出さないことで
   「皆がこれだけ崇拝するんだから,どんなに凄い子なんだろう」
   とワクワク想像させる
      ↓
  ・最後にしょっぼーいC級アイドルを見せて
   「こんな子のために大のオトナが真面目に? トホホ~ガックシ」
という単純なギャグですよね? その演出意図が読み取れないのはスキルとしてどうかと思ってしまう。

 俳優の演技についても「ホントにわかって言ってるのかな?」と思う場面が多々。たとえば『SPACE BATTLESHIP ヤマト』の回では「黒木メイサだけ頑張っていた」みたいに語っていたが,自分はあの映画での黒木メイサはむしろひどい大根だったと思う。ステレオタイプな表情と言い方のオンパレードで,正直キムタクのほうがよっぽど柔軟な演技ができていたのではと感じた。

 ことほど左様に,宇多さんの映画評論は基本的には「彼独特のヒネくれた視点からのオモシロ解釈」であって,決して毎回「まさにこの映画の本質!」とか「最高の評論!」とか賞賛する類のものではないのでは,と考えてしまう次第。
 最近,とくに構造論ばっかりになってる回が多いのも気がかり。やっぱり『インビクタス』の回で皆から絶賛されたのが分岐点になってしまったのかな… 反論上等でヘボ映画のしょーもないシーンにツッコむ,“当たり屋”宇多さんの姿がもっと見たいと思っているのは決して自分だけではないはずなのだが。

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