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コラム・エッセイ「特筆すべき点P」(無料)

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脈絡のない思いつきを長々と書いているシリーズです。
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2019年3月の記事一覧

【短編小説】平成分裂

「新元号は縺オ縺です」  日本全国から集まる視線の中心で、官房長官が宣言する。  伏せてあった額縁を立てて起こすと、筆文字で「縺オ縺」と大書されていた。  2019年4月1日、平成の次の元号が発表された。天皇陛下の生前退位に伴って準備されていた新元号。数ヶ月前から世間はその話題で持ちきりで、さながら大喜利状態になっていた。  こんなことで馬鹿騒ぎしていったいなんの意味があるのか、という醒めたことを言う有識者もいたが、大半の者はこの「祭り」状態を楽しんでいた。暇な大学生の

良いアイデアいりません

 仕事で書き物をやっていて、特にマンガや小説などのフィクションを作っている人が、たまに言われることがある。 「いいアイデアあるんだけどあげようか?」  これを言われた人の結構な割合がムッとしている。  いらないからだ。  創作者(上から目線で嫌な言葉ですね)に、アイデアがない人などいないのである。  小説家なら「小説のアイデア」を10個や100個持っていて当たり前だし、マンガ家は「マンガのアイデア」を無数に持っている。起業家ならおびただしい数の「新しい会社のアイデア」

社会と芸術の間には相互詐欺関係がある

 芸能人が薬物使用で逮捕され、携わってきた作品が次々と回収されている。やめてよ。  やめてよと思うと同時に、作品の権利元である企業の立場を想像すると、そりゃ自粛したくもなるよな、とも思う。「犯罪者が関わった作品を販売することで、間接的に裏社会に寄与している」という指摘は、たしかに正しい。問われるとすれば指摘の真偽ではなく、それを踏まえた上で容認し作品を販売し続けるべきなのか否かだろう。  企業が自粛を選ぶ動機はとても単純明快だ。社会の中で商売をするうえでわざわざリスクを取

欠点を開き直る人はえらい

「僕、遅刻癖あるんで、集合時刻とかぜんぜん守れないんで、そこのところよろしくお願いします」  と、仕事相手に言われたらどう思うだろうか。はぁ? なんだこいつは。何を開き直ってるんだ。と、イラッとくるのではないか。  しかし、私はこういう行為を許容したい。「よくぞ言った!」と褒めたいくらいだ。その理由はシンプルで、遅刻する人間のほとんどは「私は遅刻します」と言わないから、言ってくれるぶんだけエライという話だ。あらかじめ遅刻することがわかっているなら対策を練ることができる。