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コラム・エッセイ「特筆すべき点P」(無料)

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脈絡のない思いつきを長々と書いているシリーズです。
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#小説

ふた

「わたしって、たぶん霊感あるんです。実家が山に挟まれた結構な田舎なんですけど、集落と裏山の間の、ちょうど境目あたりに石の祠があって、それのせいで気づきました。その祠に近づくと、子どもの頃からなんかすごく嫌な気分になるんですよ。祠はごつごつした大きい石を積み重ねて紐みたいなものを巻いただけの、かろうじて家の形に見えるような簡素なものなんですが。いや、ていうか、たぶんきっと祠じゃないんですよね。どっちかというと……そう、蓋みたいな。何かよくないものが出てくるのをふさぐための、蓋。

【11/7】品田遊の新刊『キリンに雷が落ちてどうする』と文庫『名称未設定ファイル』が同時発売します

2022年の11月7日に品田遊(ダ・ヴィンチ・恐山)の本が2冊出ます。 ■『キリンに雷が落ちてどうする 少し考える日々』(朝日新聞出版) 1500日以上にわたって1日も休まず更新してきた日記『ウロマガ』に掲載された文章から、約150篇を選り抜いて加筆修正をくわえた分厚いエッセイ集。山素さんの描き下ろしコミックも多数収録されてます。 ↑Amazonの予約ページはコチラ ■『名称未設定ファイル』(朝日文庫) キノブックスから発売され、単行本が絶版になっていたブラックSF

ライトノベル『転生しても寿司職人だった件』(AIと共作)

Youtubeで配信しながら小説生成AI「AIのべりすと」と一緒に書いた異世界ライトノベルです。辻褄の合わないところなどを中心に3割くらい人力の手が入っています。詳しくは動画を見てみてください。 ■プロローグ(人力) 俺の名前はニギル。  下町で店を営む平凡な寿司職人だった俺は、魚市場で起きた事故に巻き込まれ、冷凍マグロの山に潰されて絶命してしまった。  しかし、どうやら俺の死は神様の手違いだったらしい。  お詫びにと、神の遣いである女神様から「いつでも寿司を握れる能力

【短編】スポンジのような人材

「うちはね、入社面接で必ず『自分を物にたとえるとなんだと思いますか』と聞かせることにしているんです。ここだけの話ですが『はい、スポンジです。スポンジのようにものごとを吸収して身につけられるからです』なんて答える志望者は絶対に落としますよ(笑) うちはクリエイティブな人材を求めていますからね。そんな判で押したような人はふさわしくないと、こういうわけです」  巻頭の見開きインタビューを読み終えた山本は溜息を漏らした。社長のやつ、また無責任なことをべらべらと喋りやがって。そんなこ

サンタなどいないと両親は言った

 久しぶり。うん、元気だよ。いや、いいよ。気を遣わなくて。もう立ち直ってきたから。いま暇? よかったら茶でもどう?  いやあ、どこもかしこも人だらけだな。イルミネーションが眩しくて仕方ないよ。あと、コンビニの店員がサンタのコスプレさせられてるのってさ、なんか嫌じゃない? やらされてる感っていうか。  ……へえ。高学年になるまで? 純粋だったんだなあ。  俺はぜんぜんだったよ。むしろ両親がよく言うんだよね。「サンタクロースなんかいない。信じるな」って。はは。子ども相手にひ

【短編】カスタ博士

「たったいま、指導者はお亡くなりになりました」  横たわる亡骸を見下ろしながら、ベッドを囲む数人の男たちが悲嘆の息を漏らした。 「ああ、そんな……」 「まだ信じられない。我々の偉大なる指導者が永遠に失われたなんて」 「こんなに、今にも目を覚ましそうなのに」 「終末期は病に冒されひどく苦しんでおられましたが、最後はなるべく安らかな顔で逝きたいとのことでしたので」  独裁者の最期を看取ったカスタ博士は、使い終えた注射器のシリンダーを片付けながら訥々と答える。 「おそ

弟子入り

「僕を、弟子にしてください」 「うちは弟子を取っていないんだよ」 「先生の作品を見て、僕にはこの道しかないと確信したんです。お願いします!」 「ダメなものはダメだ。帰ってくれ」 「弟子にしてくれるまで、僕はここを一歩も動きません」 「何を言っているんだキミは。帰ってくれ」 「これが僕の本気です」 「聞き入れられるまで嫌がらせするということか。そういうの本当に迷惑だからやめてほしい。帰ってくれ」 「ちがいます。嫌がらせではなく、ここをテコでも動かないことによって

永劫回帰のネプリーグ

 頭が痛い。  薄目を開けた。瞼の向こうに白熱灯の薄明かりがぼんやり浮かんでいる。  上体を起こし、あたりを見回す。俺はワンルームの部屋にいた。窓の外は夜。  なぜ俺はこんなところで寝ていたんだ? 思い出せない。  いや、待てよ。……俺は、誰だ?  意識が混濁している。危機感をおぼえた。飲み過ぎたか。自分の記憶を失うほど飲むことなんて今まであったか? いや、そもそも俺は酒を飲むのか。  思い出せない。俺は俺の名前すら分からない。不安が俺を包みこむ。ここはどこで、い

これが海亀のスープですか? ★☆☆☆☆

本日は散歩にお誂え向きの小春日和。少し遠くへ足を伸ばし散策……。 すると、雰囲気のいいフレンチ・レストランに遭遇。 うんうん、店構えは合格点。シックだけれども嫌味ではない感じ。ちょうど日が暮れかけてきたので、ここで早めのディナーと決める。 いつも蕎麦やら天ぷらやらのレビューばかりなので読者諸氏は小生を和食専門レビュアーと思っているかもしれないが(笑)小生、フランス料理にも一家言も二家言もある。コンフィの奥深さなんか語らせたら1時間は止まらないと思ってほしい(笑)。ちとメンド

【短編小説】平成分裂

「新元号は縺オ縺です」  日本全国から集まる視線の中心で、官房長官が宣言する。  伏せてあった額縁を立てて起こすと、筆文字で「縺オ縺」と大書されていた。  2019年4月1日、平成の次の元号が発表された。天皇陛下の生前退位に伴って準備されていた新元号。数ヶ月前から世間はその話題で持ちきりで、さながら大喜利状態になっていた。  こんなことで馬鹿騒ぎしていったいなんの意味があるのか、という醒めたことを言う有識者もいたが、大半の者はこの「祭り」状態を楽しんでいた。暇な大学生の

幽霊出たけどおなかいたい

 変に安い部屋だと思ったのだ。 「晴子、このサイト知ってる? 事故物件を一覧できる地図が見れるんだ」  夕食後に浩介がPC画面を見せてきた。さっきツイッターで流れてきて存在を知ったのだという。画面をのぞき見ると、マップ上に点々と炎マークがついている。これが事故物件を示していて、孤独死や事故死、自殺や殺人などの履歴の詳細を見ることもできる。 「へえ、思ったよりも事故物件って多いんだね」 「まあ、老人の孤独死なんかよくあるから」 「うちの周りは大丈夫?」 「近所で惨殺事件と

【短編】ピッチ・ドロップ

「では、これから撮影の方を始めさせていただきます」  ディレクターはせわしなく動くスタッフたちを横目に据えながら、これまで何度も繰り返してきた言葉を述べた。 「映像はこちらで後に編集しますから、ゆっくり思いつくままにお話しいただければと思います。雑談をするつもりで」 「はいはい。雑談のつもりで、ね」  車椅子の老人は力なく繰り返し、それを見たディレクターは撮影のスタートを命じた。  老人の下に「岩永亮介さん(74)」というテロップが表示される。 「あの日からもう、週

不可能図形のコミュ

~事務所~ ペンローズの三角形「あの……大事なお話ってなんでしょうか? もしかしてクビでしょうか、そうですよね、やっぱり私なんか……」 「ははは、相変わらずネガティブだな、ペンローズの三角形は。むしろ嬉しい知らせだよ。今度のライブで、ペンローズの三角形にセンターをやってもらおうと思ったんだ」 ペンローズの三角形「ええっ、私がセンター……ですか!?」 四角すい「マジか! よかったじゃん、ペンローズの三角形!」 球「ペンローズの三角形ちゃんならセンターできるって、私、信

COVER~警視庁寝具部布団課~

「おい、聞いたかよ? 『公安の狼』の噂」 「公安三課の灰谷耀(はいたによう)か。すげえよなあ、長年足取りの掴めなかったテロ組織の尻尾を27歳で掴んだんだっけか。それもほとんど単独行動で」 「その灰谷な、別部署に飛ばされたそうだ。それも、なんと『寝床』だとよ」 「あの灰谷が『寝床』? いったい何やらかしたんだ」 「さあな。まあ、狼が吠える相手を間違えたってとこだろうよ。ここも結局は政治がものを言うわけでさ……」 ◆  警視庁寝具部。  署員たちは、そこを軽蔑と恐れを込めて