01「なぜ我輩が滅ぼすのか」ただしい人類滅亡計画―反出生主義を考える―

プロローグ 魔王の出生

 ある日、立ちこめた暗雲が30日も空を覆った。

 31日目、雲が十字に裂け、瘴気をまとった人型のモノがゆっくりと降りてきた。異常な現象を前にして、人々は慌てふためいた。

 しかし、誰よりも驚いていたのは"それ"自身であった。

「"ここ"は、"これ"は、何だ……?」

 鋭い爪が光る手を眺めながら、"それ"は呟いた。

「お目にかかれて光栄でございます。ゼイン様」

 どこからともなく声がした。
 ゼインと呼ばれたそれが目を動かすと、見知らぬ者が傅いていた。

「私はゼイン様の忠実なるしもべ、ファイナと申します。さあ、ともにこの愚かなる世界を滅ぼしましょう」

 "それ"は、自分の名が「ゼイン」であるということを理解した。
しかし、ファイナと名乗る者が言っていることはさっぱりわからなかった。

「滅ぼす……。貴様は何を言っている?」

「まだ世界に現れたばかりですから、ピンと来なくとも無理はございません。ゼイン様はそのために生まれたのです。時間はたっぷりございます。きっとすぐに自らの使命を思い出していただけることでしょう」



ゼイン:
 ふん。なるほど。貴様に教えられた書物を20000冊ほど読んでだいたいわかった。この世界は人間という生き物によって支配され、数万年の歴史を持っている。

ファイナ:
 さすがゼイン様。生まれ落ちてからたった3日で、この愚かなる世界と愚かなる人類の概要を把握してしまったとは。では、ゼイン様ご自身の使命も、もう?

ゼイン:
 我輩は、この世界を滅ぼすために生まれた。そうだろう?

ファイナ:
 おっしゃる通りでございます。魔王ゼイン様。貴方はこの愚かなる世界に終止符を打つために生まれ、強大な力で全てを灰にする終末の王。王の中の王! そして私、ファイナは、ゼイン様の影であり、忠実な配下……。全て思い出されたのですね。嬉しゅうございます。

ゼイン:
 うむ。

ファイナ:
 では、さっそくこの世界を終わらせてしまいましょう。いえ、ゼイン様には難しいことではございません。たった一回、指をパチンとならせば、業火が世界を焼き尽くすのです。さあゼイン様、お願いいたします!

ゼイン:
 …………納得がいかぬ。

ファイナ:
 ……どうかなさいましたか、ゼイン様?

ゼイン:
 我輩がこの世界を滅ぼす使命を負っているということはわかった。だが、「なぜ」そんな使命を我輩が背負っているのだ?

ファイナ:
 ええとそれは……使命ですから、としか……。

ゼイン:
 ファイナ、貴様は我輩を「王の中の王」と言った! つまるところ、吾輩の上に立つ者が居らぬということだ。使命だから従う? それでは我輩は「使命」の下僕ではないか! 我輩は魔王として、そんな屈辱に甘んじるつもりはない。なぜ、我輩が世界を滅ぼさねばならないのだ? その合理的な理由が明白にわかるまでは、断じてこの指を鳴らさぬ!

ファイナ:
 そ、そんな……ゼイン様……。

 下僕は言葉を失った。
 ファイナは主の、王としての資質を見誤っていた。ゼインは魔王として、己の使命ですらも自らの理によって掌握しようとしていたのだ。

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