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もうビールをゴクゴクできない

『TVブロス』2017年掲載のコラムを加筆修正したものです。

 25歳未満の人間は、酒のCMに出演できないのだそうだ。

 人に教えてもらって驚いた。最近決まった自主規制で、未成年の飲酒につながりかねない、とかそういう理由で自粛しているのだという。

 実際に調べてみた。

「飲酒に関する連絡協議会」が2016年に定めた「酒類の広告・宣伝及び酒類容器の表示に関する自主基準」によれば、確かに「テレビ広告において、25 歳未満の者を広告のモデルに使用しない。また、25 歳以上であっても、25 歳未満に見えるような表現は行わない。」とある。

 他にも「ゴクゴクという効果音」「喉元のアップ」「運動・入浴直後の飲酒を思わせる表現」などもNGなのだそうだ。

 えっ「ゴクゴク」ダメなの?
 っていうか本当に「ゴクゴク」してなかったっけ?

 と半信半疑で最近のビールのCMをYouTubeで見てみた。
 確かに「ゴクゴク」していない。喉元のアップもない。山口智充がゴクゴクビールを飲んで動く喉元の映像が頭にはこんなに鮮明に浮かぶのに、それはもう存在しないのだ。

 ビールのCMを漁っていたら、祭りで神輿を担いだあとに一杯、というコンセプトのものがあった。
 おやおや、ちょっとちょっと、これは「運動直後の飲酒」じゃないのかしら? と意地悪く思ったが、よく見ると昼間に神輿を担ぐシーンのあとに時間帯が切り替わっており、夜のビアガーデンで「お疲れさま会」をしている。時系列トリック。全く気付かなかった。
 CMではこういう規制とそれに対する工夫が見えないところに凝らされているのだろう。

 そういえば、いつだったか見た「お~いお茶」のCM。タレントが茶畑に寝転んで「お~い、お茶っ!」と、「お茶という概念」に呼びかけていた。

 本来の「お~い、お茶淹れてくれ」という、家父長制を思わせかねない(というかそのものの)フレーズは、現代の価値観からズレつつある。しかし、「お~いお茶」というネーミングは広く浸透している。それを超解釈でセーフな表現に生まれ変わらせたウルトラC級の演出である。俳句大賞を開くに値する、言葉への気配りだ。


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