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これが海亀のスープですか? ★☆☆☆☆

本日は散歩にお誂え向きの小春日和。少し遠くへ足を伸ばし散策……。
すると、雰囲気のいいフレンチ・レストランに遭遇。

うんうん、店構えは合格点。シックだけれども嫌味ではない感じ。ちょうど日が暮れかけてきたので、ここで早めのディナーと決める。
いつも蕎麦やら天ぷらやらのレビューばかりなので読者諸氏は小生を和食専門レビュアーと思っているかもしれないが(笑)小生、フランス料理にも一家言も二家言もある。コンフィの奥深さなんか語らせたら1時間は止まらないと思ってほしい(笑)。ちとメンドクサイ数寄物親父なのだ。

さて、最近は本場フランスでも本物のフレンチを食わせる店がめっきり減った。ましてや日本となると、俄仕込みの半可通が胸を張っていること茶飯事であり目も当てられない。ま、客のレベル低下にも問題はあるのだが…

閑話休題。

では、この店は如何だったのか。結論を言えば「ここもか」と溜息が出るようなものであった。
店の名誉のために言っておくと、料理は低レベルではない。若いカップルであれば十分に満足して店を出ることだろう。肉の仕込みも、自家製のソースも、及第点と言ったところ。接客もまずまず。そんじょそこらのレビュアーが★5をつけても、おかしくはない。

ただね。海亀のスープ。これがいけなかった。

私は本物の海亀のスープを知っている。小生がまだまだ若造だった頃だ。以前、とある事情で困窮していたとき、仲間が振る舞ってくれた海亀のスープである。

肉を塩水で茹でて僅かな調味料で味付けしただけの、料理、などとも呼べない代物であったが、小生は後にも先にもあんなに美味い海亀のスープを飲んだことがない。あれこそが、本物の味だと思う。

それに比べて、この海亀のスープは似ても似つかぬ品であった。

確かに料理としてはこちらのほうが上等なのであろう。しかし、あのときのあの味とはかけ離れている。あの瀬戸際で啜ったスープの、生きる力を喚起するようなエネルギーが感じられない。プロの料理人は、人の心を揺さぶってこそ厨房に立つ資格があるのではないのか。

小生は思わずシェフを呼び「これは本当に海亀のスープですか」と訪ねた。無論、皮肉である。だがシェフは半笑いで「お客様、それは間違いなく海亀のスープですが」と人を食ったような返答。呆れてしまい、後から出てきた料理の味もよくわからない始末。

結局のところ、もはやこの時代に「本物」など無いということなのかもしれない。
まあ、再訪は無いでしょう。それにしても、あの日の海亀のスープが恋しい。

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