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学生たちのポートフォリオ相談会

2021年3月から約1年間、デザイン学校のデザイナー職志望を対象に学生たちのポートフォリオ相談会を行ってきました。

面接を突破したいがポートフォリオの作り方に不安がある。制作中のポートフォリオをよりブラッシュアップしたい。そういう学生に対し、ポートフォリオを最適なものへと改善して、就職活動を有意義にする支援の一環として始めました。

コロナ禍でデザイナーの就職が厳しい状況にあることが、色々な方面から聞こえてきたこともあり、会社でデザイナーの育成にかかわってきた経験をベースに何かできないかな、と思ったことも始めた要因のひとつです。

2022年6月現在で、アドバイスさせていただいた学生は約80名。相談会を実施させていただいた学校は、下記の通りです。

山脇美術専門学校
桑沢デザイン研究所
東京デザイナー学院
東京デザイン専門学校
東京コミュニケーションアート専門学校
浜松デザインカレッジ
東京工学院専門学校
東洋美術学校

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上記は、2022年4月15日と22日の2日間、山脇美術専門学校様にて「ポートフォリオに関する講義と制作相談会」を行った時の写真です。デザイナー職の就職活動を行う学生の方々へ、自分の大切な作品をより良く見せるポートフォリオの作り方、面接の心構えなどをアドバイスさせていただきました。多くの学生のデザインを拝見しましたが、熱意を感じる作品が多く、デザイナーとしての未来が楽しみです。※本相談会は学校と相談のうえ感染対策を行なって開催いたしました。


ポートフォリオは包装紙のようなもの。素晴らしい作品を上手くパッケージするのがポートフォリオの役割です。ただポートフォリオの組み立てが良くても、作品のアイデアや表現のクオリティが弱いと、包装紙だけではさすがに苦しい。

また学生の場合、確実に利益を生み出す能力の証明と経歴はまだないので、面接官は自分のチームに加えたい人物なのか、チームを活性化してくれそうな人物なのかを見ることになります。作品・ポートフォリオだけ良くても面接をパスするかどうかはわかりません。

とはいえ、ポートフォリオの構成とプレゼンテーションで、作品が相手に伝える印象を大きく変えることができるのも事実。それで面接にプラスになるなら、テクニックとして知っておいた方がいいかもですね。

「こうすれば面接の印象が上がるのでは?」というポイントで少し書いてみました。あくまで私見です。

1. 面接時間を考える。

面接時間は短いです。VIVIVITクリエイティブ総研が、2021年4月〜6月にデザイナー採用担当者に行った「新卒採用ポートフォリオ評価調査」によれば、ポートフォリオ1冊あたりの平均閲覧時間は下記の通り。

◎ 1〜5分 48%
◎ 5〜10分 29%
◎ 1分未満 13%
◎ 10分以上 10%

思ったよりポートフォリオにかける時間は短いですね。新卒面接は複数人見ますし、作品以外にも、受け答え方・立ち振る舞い、履歴書などなど、チェックしなければならないことが多い。そのため、自分が作った作品を「相手の記憶に残す」必要があります。

私もそうですが、複数人つづけて面接する場合、印象が薄い学生は数十分時間が経ってしまうと、何を作っていたか覚えていないことが多いのです。

なぜか?

それはその作品が「いいデザイン」として、面接官の脳を動かしてないのです。面接官はいいデザイン、カッコイイデザイン、美しいデザインを日常的に毎日見ています。会社には出版されているデザイン関連の資料もたくさんある。そんな中、面接官が印象に残るデザインを、学生がプレゼンするというのは少し難しいかなと思います。もちろん、センスやデザインの丁寧さも大切なので、クオリティだけを求めているワケではありません。

学生にしかできないこと。そんな作品を提示されると引き込まれます。意味はわからないけれど、迫力やパワーが伝わってくるような作品。

私たちはマーケティングオリエンテッドの世界でコミュニケーションを考えているため、単に「カッコイイ」「オモシロイ」というだけの、ロジカルでないアイデアは提案ができません。データの裏付けがない企画は、コンペでほぼ負けます。クライアントもそのような提案に、何百万、何千万というお金を出しませんし、「ウチのことよくご理解されてないようですね」などと言われかねません。

ですが、学生の方はそういったデザインをつくってもいいのではないかと思います。「学生にしかできないこと」というのはそういう意味。「なんかわからないけどこれはすごい!」作品。ロジカルに物事を考えられるに越したことはないのですが、そういった思考は社会に出れば対応できますし。学生の作品には相手を吹っ飛ばすような勢いがあってもいいのではないか…と思っています。

「そんな作品は評価できない」との考えも一方であるので、これは意見がわかれますので、ひとつの考えと捉えてください。

2. ストーリーをつくる。

面接時間が短いので、たくさん作品を載せてもすべては説明できません。マックスで6点くらいでしょうか。メインの自信のある作品が2〜3点とその他、という構成。「おいしいものを後で」と考えると、面接が時間切れになる可能性が高いですね。

そのためポートフォリオの構成は、細かいデータをたくさん詰め込むのではなく、ページをめくったときに、相手を驚かせるようなビジュアルショックを考えた誌面構成にするといいかと思います。

たとえばインタビュー雑誌では、文章で埋めたページをめくると、ビジュアルのみのページになったりしますよね。そのようにページ構成にリズムをつけると、見る人を飽きさせないポートフォリオになります。同じフォーマットですべての作品を紹介すると、よほど優れた作品でない限り、飽きられてしまうかもしれません。

メインの2〜3点はそのように数見開きを使い、リズム感がある構成にして、それ以外はフォーマット化して紹介することも考えられますね。

色々な雑誌や写真集を見て欲しいです。ページモノはネットを探してもあまり存在しないので、可能ならば書店に足を運んでみてはいかがでしょうか。ページを開いた時の見せ方など、参考になる雑誌・写真集など書籍はたくさんあります。

面接官は学生がどうプレゼンするのかも見ています。そのため時間を有効に使えるように考えると相手にいい印象を与えられます。「お時間が限られているので自信のある作品をご説明いたします」などと冒頭に言うと評価ポイントが高いかもしれません。

構成を練って作られた優れたポートフォリオによって、プレゼンにストーリーが生まれます。相手に与える印象も高くなります。つまりは、「相手の記憶に残す」ことに繋がるのではないでしょうか。

3. モノつくりへの欲求

学校の課題は、学生のスキル・発想力・クリエイティブの知識を伸ばすため、各々の学校によって丁寧に計画し実施されたものです。学生はそこでデザインについて、必要な様々なことを学びます。

ですが面接に向けたポートフォリオの場合、学校の課題だけで構成すると、モノをつくることへの興味があまりないと見えてしまうかしれません。

すでにデザインの仕事を手掛けている学生もいます。仕事として制作した作品は、クライアントとのやりとりを踏まえ、実社会を経験した作品なので評価ポイントは大きいと思います。実際の仕事は自分の発想・アイデアだけでフィニッシュすることは難しいため、そのような作品を掲載すると、社会を経験していることになるので、「学生というラインをすこし超えている人」と面接官は受け取ります。

実際の仕事でなくても、自主作品で課題以外のデザインがあれば、それも評価になります。グラフィックしか興味がなかったり、動画以外興味がなかったりするとなかなか面接をパスするのは難しいですね。新しい表現スタイルへの興味やアンテナの量がどれだけあるか、それが課題以外の作品制作に現れます。

ポートフォリオを作る時に気をつけることは、他にもたくさんあります。今後も書いていきたいと思います。

デザイナーの育成についての情報を発信します。
たき工房には115人のデザイナーが在籍しており、日々さまざまな仕事で自己研鑽をしています。また、キャリアと適性に応じた研修・育成制度が、個々の能力向上に活用されています。
デザインには、一気に上手くなるような一発必中の魔法はありません。繰り返し反復することにより、少しずつ、デザインクオリティが上がっていきます。
このコラムでは、たき工房のデザイナーたちがどんな方法でスキルアップをしているのかをご紹介しますのでご覧いただければと思います。

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