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読書メモ「BCGデジタル経営改革」

買ってからずっと読めていなかった本をようやく読めたので、気になった箇所を要約しておこうと思う。

これはBCGによるデジタル・トランスフォーメーションの成功戦略について書かれた本だ。

Amazonのレビューには「抽象的であまり中身がない」といったコメントもあったけれど、僕は普段の業務でRPAを利用した業務自動化や効率化を行っている(&かなり大変で、悔しい思いを沢山してきた)ので、書いてあることはかなり具体的にイメージすることができた。その内容も、とても共感できるところが多く、「ですよねー!」的な箇所も多くあった。

また他部署の人への説明に使えそうな図表だったり、トークスクリプトに利用できそうな記述も多い点もとても良かったと思う。(なるほどと思ったことだったり、考えたこと、アイデアをツラツラと本に書いていたら、真っ黒になってしまったページがいくつもあった。それくらい、自分にとっては良書だったのだと思う)

今やっている仕事にも使えると思ったので、備忘録的に参考になった箇所を書き留めておき、定期的に読み返したいと思う。

(少し量が多くなってしまったけれど、今までインプットに時間をあまり避けなかったことにストレスがあったのか、GWはそのしわ寄せが一気にきてる感じがする。。)

もし「デジタルトランスフォーメーション(DX)」や「デジタライゼーション」といったキーワードにピンと来る人がいたら、読んでみることをおすすめする。

P14
「三つの要素を掛け算する」
デジタルの力を取り込んで企業を変えていくデジタル・トランスフォーメーションでは、大きく3つの要素を掛け算することが鍵となる。
一つ目が「顧客接点」だ。
従来は、顧客と接するのは、営業担当者や店舗・コールセンターのスタッフなどに限られていた。
それが現在では、ホームページやスマホアプリ、SNSと言った接点が増えたことで他の部門もそうした接点を活用できるようになった一方で、様々な接点を複雑に行きかう顧客が満足できる体験をどう提供できるかが重要な要素となっている。

二つ目の要素が「オペレーション」だ。これまではITを活用して業務プロセスを自動化しようとしても、うまくいかないことが多かった。
人間が無意識で判断している部分は想像以上に大きいため、自動化しようとなるとあまりにも細かくルールを設定しなければならず、現実的ではなかったのだ。

また現状のプロセスをそのまま自動化しただけでは、各部門で細切れにRPAなどのツールをいれていくような形となり、全体としては限定的な効率化に止まる。
だが実は、部門横断で業務を整理すれば、デジタル化による効率化は段違いの効果があげられる。

三つ目の要素が「データ活用」である。顧客接点やオペレーションの変化を通じて生み出される多様なデータを部門横断で共有することで、顧客により高度なサービスを提供したり、アルゴリズムが自動で判断してより早く適切なサービスを提供したりすることが可能になる。

P15
「デジタル=低価格から抜け出したウーバー」
デジタルの世界では企業価値の評価も変わってきている。どれだけアセットを持ち、どのくらい売上や利益を出しているかという財務的な実績ではなく、アクティブユーザー数やロイヤル顧客数でポテンシャルが評価され、資金が集まる傾向が見られる。これもこれからの時代の経営を考える上で重要なポイントだ

P16
「デジタル時代はスピード勝負」
デジタル時代の大きな特徴の一つは、トッププレイヤーがビジネス上の優位性を失うスピードが速まっていることだ。新規参入企業が業界のトッププレイヤーを追い抜くまでに、以前は5〜10年程度の時間を要していた。だが、現在ではデジタルのプラットフォームで市場を席巻する企業が時価総額やユーザー数という観点では1年、2年で業界トップの座を獲得するケースもよく見られる。もちろん、業種や業態によってそのスピードに違いはある。規制業界ではそこまで急激な変化は起こらないかもしれないが、競争において「速さ」が何よりも大切なのは事実だ。

「最大最速でPDCAを回す」
日本企業は総じて、ディスラプディブな新しいイノベーションを起こせと言われると苦戦してしまう。しかし、逆に日々小さな改善を積み重ね、継続的に品質を高めていくことは得意とする。言い換えると、高速でPDCAを回すスタイルには向いているのだ。

「全社的な変革フェーズでは発想転換が必要」
デジタル化を進めていくと、お客様との接点を様々なところに創り出すことができる。このため、どこで価値を創造・提供し、顧客体験を高められるかという視点で、組織の壁を取り払い、プロセスを再考しなくてはならない。

P18
「アジャイルに進める」
スピード感が求められるデジタル時代には、「アジャイル」と呼ばれるワークスタイルが中心となっていく。従来のように「6ヶ月に1回、新商品を出す」とゴールを設定し、そこに向かって進めるのではなく、「最速でいつ新商品が出せるか」という考え方をするところに大きな特徴がある。前回よりももっと速く終えるにはどうすればいいか、前回よりももっと速くできないかというように考えながら、プロセス自体のスピードを上げ続け、何らかのKPIで測定しながら、自らの生産性を高め続けていく
ただし、速さだけをひたすら追求すると、近視眼的になり、中長期で達成したい価値観や戦略目標から外れてしまう。そこで、大きな経営目標やこの領域で勝つのだという方向性を明確に示すことが極めて重要になる。

P18
意思決定の仕方もアジャイルに合わせなくてはならない。「次の経営会議」ではなく、決めたいときに意思決定者の判断を仰ぐという考え方に変える

「推進組織とリーダーシップ」
役員が集まる定例会議で、プレゼンテーションする機会を待つのではなく、顧客に最も近い推進チームが意思決定したいタイミングに合わせて担当役員が現場に出向く、コミュニケーションの頻度を高めるというように、リーダーシップのあり方も大きく見直す必要がある

P20
「デジタル・トランスフォーメーションの発展段階」
デジタルトランスフォーメーションでは、「既存事業の変革」、成長を担保するための「新規事業の創造」、それを支える組織・人材、データ、システム、パートナーシップなど「支援体制の整備」という大きく三つの領域の課題に取り組むことになる。

・既存事業の変革
顧客視点で全体のプロセスを再設計する際には、購買行動だけでなくその前後まで含めた「End to End(E2E)」のカスタマージャーニーを定義し、顧客ニーズの本質を踏まえて、どこで価値を創出できるかを検討することが出発点となる。顧客を中心に考えていくことで、営業とマーケティングを一体的に捉えた「デジタルGo-to-Market」、AIや顧客データを最大限活用する「パーソナライゼーション」など、多様なマーケティング活動をリアルタイムで展開できるようになる。

従来のサプライチェーンや事務のフローなどを見直し、部門横断、社内横断でプロセスを再設計する必要がある。組織の壁を壊して、人と機械の役割分担を見直し、ビジネスプロセスを再設計する取り組みとなる。

・新規事業の創造
オペレーションをデジタル化して最適化がはかられると、余剰人員も出てくるので、その人材を再配置して新しい価値を作ろうと新領域に取り組むことは、自然な流れでもある。

・支援体制の整備
大きな変革を行い、新しいワークスタイルや価値観を浸透させるためには、トップのリーダーシップが欠かせない。油断するとすぐに以前のやり方に戻ってしまうので、それを食い止めるための仕組みを用意しなくてはならない。自社が取り組むべき必須事項を見極め、必要な人材を手当し、社内でどれだけ取り組めているかを評価し、現場と経営、部門ごとの乖離を見つけ、温度感を揃えながら会社を変えていく。
それには、組織運営モデルや、意思決定、評価やフィードバック、コミュニケーションなどの仕組みをワークスタイルに合わせて刷新する必要がある。

P24
「顧客視点で事業を再構築する 部門横断のデジタル変革」
現場サイドはサイロ化による個別最適化の沼にはまりがちである。特に大企業は縦割組織で、部門ごとに閉じた形で3〜5年の中期計画に沿って施策の検討が行われる。自部門で来年実施したい大きな施策があっても、システム部門の基盤変革計画に合わせると5年先になると言われたり、チャネルやオペレーションへの影響が大きい案件が、社内交渉しているうちに行き詰ってしまったりと、部門をまたがる局面で様々な障壁に突き当たるのだ。

この経営サイドと現場サイドの問題を一挙に解決できるのが「カスタマージャーニー」を起点とした、部門横断でのデジタル変革だと私たちは考えている。顧客が体験することをカスタマージャーニーとして描き出し、それを変革するために各部門が何をすべきか、施策を棚卸し・優先順位づけ・再構築し、事業のあるべき姿と必要ない施策の全体像を一枚のマップに落とす。部門毎にバラバラだったデジタル戦略を、全部門が「一枚岩」になって動けるように全社的な視点で再構築するのだ。

「個別最適化の罠」
全体で100の業務量がある場合、各部門で業務をそれぞれ4割効率化すれば、それを60まで減らせるかもしれないが、部門横断でフル・デジタル化すれば20にできるかもしれない。

個別最適化の罠は、業務効率化だけでなく、顧客満足度にも影響を及ぼす可能性がある点でも問題がある。
サイロ化していると、自分が担当している部分の顧客満足度は考えても、つなぎの部分の顧客満足度は他の部署の仕事なので、無関係だとみなしてしまう。顧客からすれば同じ会社のサービスなのに

サイロ化していると、各部門が取り組むのは自分の縄張りの中だけとなる。担当外の新しい領域にこそ、付加価値創出のチャンスがあることに気づけないのだ。

P26
「顧客体験の理想像を起点に足並みを揃える」
個別最適化されている施策を時間軸で(マーケティング・営業、アフターフォローなど)で連動させたりするには、どこかに起点を置かなくてはならない。
それを顧客の体験・満足度に置くのが「カスタマージャーニー」起点の発想である。
また、大企業の場合、バックオフィス業務の担当者は、自分の仕事が顧客価値に直接結びついているという感覚を持ちにくいが、カスタマージャーニーを軸に整理すると、仕事の意味合いが見えてくるメリットもある。

顧客の目に触れない裏側で隙間のない連携ができていれば、より充実した顧客体験が提供できるようになる。

「E2Eで顧客行動を捉え、機会を探る」
カスタマージャーニーを描くときには、「End to End(E2E)」で顧客体験の理想像を考えるが、そのとき時間軸をなるべく長く、視野を広く取ることがポイントになる。

E2Eの前後にはチャンスが見つかることが多いので、クリエイティブな視点で幅広に考えた方がいい。
このように業態の枠を超えて異業種サービスを掛け合わせれば、新たな試みが可能になる。実は、ディスラプターはこうした覚悟からビジネス機会を見つけて攻めてくることが多い。いかにカスタマージャーニーを広く能動的に捉えるかは、対ディスラプター戦略という意味でも非常に重要なのである。
ところで、カスタマージャーニーは1事業や1プロダクトにつき1つとは限らない。私たちは通常、顧客のニーズの塊でジャーニーを切るようにしているが、そこは自社の状況に合わせて戦略的に選ばなくてはならない。

P29
「MVPの開発」
顧客起点で再構築していくと、今までやったことがない施策、やれるかどうかわからない施策、想定通りに満足度が向上するかどうか不確かな施策などが多数出てくる。そこでMVP(Minimum Viable Product=市場に提供可能な最小限の製品)と呼ばれるプロトタイプを作って試験導入して、コンセプトを検証し、描いた絵姿を必要に応じて修正していく。
ここで大切なのが、実際にものを作って投資をしたという既成事実を作ることだ。というのは、人は放って置くとできそうなことにしか手をつけないからだ。
新しく難しそうなところは理由をつけて放置し、雲散霧消しかねない。特に新しい動き方はなかなか定着しない。油断するとゴムのように元の状態に戻ってしまう。

「推進体制と注意点」
私たちがカスタマージャーニー・プロジェクトを進める場合、「顧客軸での変革」「経済性・実現性の担保」「テクノロジー」「リーン・プロセス」という4つのケイパビリティ(組織能力)を持ったチームを作る

チームメンバーは拠点を分けずに、同じ部屋に集めることが大切だ

またこうしたプロジェクトは、すでに色々なデジタル活用の計画が進行している中で行われることが多い。しかし、理想論としては、最初にカスタマージャーニーを明確にし、それを起点に再構築の検討をした方が、リソースの分散や無駄な作業が回避できる。

P30
「マーケティングと営業が連携して顧客中心のジャーニーを描く」
Go-to-Marketとは広義のマーケティング・営業のあらゆる要素を統合した概念である。デジタル・トランスフォーメーションを進める上では、理想のカスタマージャーニーを実現するために、デジタルを活用してこそ可能なマーケティングと営業のあり方を一体として考えることが重要になってくる。
なぜなら、マーケティングと営業は往々にして、組織上でも、活動面でも分断しているからだ。
例えば、消費財メーカーのマーケターは商品やブランド単位で販売や認知を広げることを中心に考えるのに対し、営業担当者は小売店や小売りチェーンなどチャネル単位で商談をどう有利に運ぶかと軸に考えることが多い。
マーケターが考えたデジタルの施策は、営業担当者からすれば新しいメディアやチャネルの追加にすぎない。自分たちの活動とは関係がない、と考えがちだ。
しかし、実際にカスタマージャーニーを描いていると営業担当者の認識とは様相が異なる。というのは、今日の顧客は事前にネットで調べてから店頭に足を運び、購入後もリアルだけでなくネット経由でもアフターサービスを受ける、というように、想像以上に複雑にオンラインとオフラインを行き交っているからだ。

「デジタルマーケティングに赤信号?」
マーケティングと営業の統合という観点からも、従来のデジタルマーケティングの活動は見直す必要がある。
特に問題なのが、マスマーケティングに、新しいデジタルという「広告塔」を足せばいいと考えて、代理店に丸投げする傾向が観られることだ。

最初にすべきことは、顧客の行動変容に繋がるツボを見つけ、マーケティング営業を連動させ、オンラインとオフラインの施策を組み合わせて働きかけていく。

大きなブランドがシェアを落とす一方で、小さなブランドがシェアを伸ばすという現象がグローバル全体で観られる。メーカー側がコストを抑えながら、柔軟に少量多品種を生産できるようになっていることもその背景にある。
マス向け商品を扱ってきた企業は今後、デジタルで個別化し、その顧客に一番刺さるマーケティングを行いながら、一定の市場規模を持つスモールマス向け商品を作って販売することを視野に入れておく必要があるだろう

P34
自動車などの購買意思決定は消費財ほどシンプルではなく、カスタマージャーニーは長くなることが多い。
顧客は買うものを決めてから来店するため、店頭で新規顧客を集めようとしても手遅れだったりする。その場合、店に足を運ぶことのハードルを下げることが重要になるが、事前に顧客がどのような行動をするかは掴めていないことが多い。その部分の情報をいかに見える化するかがポイントとなる。
ウェブの回遊行動が把握できれば、自社商品を買ってくれそうな人の特徴をプロファイリングし、買ってくれそうなタイミングを捉えて個別に訴求することで、店頭に誘導することも可能になる

トップセールスは顧客一人一人に合わせて説明や提案を行うことができるが、これまでは個人技でしかなかった。ここでもAIにこれまでブラックボックスだったトップセールスのノウハウを学ばせれば高い営業効率が実現できる。

ところで、新たなデータの取得や活用に取り組むときには、最初から既存のレガシー・システムと融合させることや、多用途で使える巨大な顧客データベースを作ろうとしないほうがいい。既存の基幹システムは手を入れようとすると、大掛かりな作業になって、機敏に動けなくなるからだ
必要なデータのみを取り出して、別途分析基盤を作ってフロントエンドのサービスを作り込み、後からAPIとシステムを連結させるという発想で取り組むと良いだろう。

「デジタルが可能にする顧客中心のアプローチ」
顧客を中心に据えるというのは、古くて新しいテーマだ。これまでは掛け声や精神論に止まり、具体的に実現する手段がないことが多かった。しかし今は、デジタルで実現できることが増えている。

P36
「個別対応が当たり前になる消費者向けマーケティング」
消費者向けマーケティングは、マス向けに画一的な商品やサービスを売るスタイルから、セグメントごとに異なる訴求をするスタイルに移り、さらに現在では、購買行動に応じて個別に働きかけるパーソナライゼーションへと発展しつつある。

「意図を設計するのは人間」
AIがアクションの最適化をするためには、AIが抽出する様々な顧客行動のパターンから、ロイヤルティが育っていく理想的な道筋を人間の目で見出す必要がある。
さらに各段階において、どのような行動変容が起きれば、ロイヤル化の階段を一歩上ったと言えるのかを明確化し、その道筋を設計する必要もある

P43
「ウェブテクノロジーの理解無くして顧客視点もない」
ウェブテクノロジーを活用するということは、単に個別の技術そのものを理解し、適切に実装するということだけではない。
企業と顧客が交わる接点としてのウェブにおいて、実現可能な体験をどれほど質的に向上できるか、その余地を、ウェブテクノロジーを起点にして考えることにこそ価値がある。
技術的に実装可能なサービスのレベル感を見極め、その実現のために求められる改善の取り組みを、ウェブ以外の、価値提供のプロセスおよび接点にまで反映できて初めて、ウェブテクノロジーの活用が成されるのだ

「日本のウェブテクノロジーは未成熟」
なぜウェブテクノロジーへの理解は十分に進まないのか。その背景にはまず言葉の壁がある。
この分野では、海外で進展する技術動向に注目し、その情報やノウハウを積極的に導入・活用しながら自身のスキルを高めていかなければすぐに乗り遅れてしまう。
しかし、当然ながら全てのやりとりは英語で行われており、世界中の技術者がウェブ上で意見やコードをかわしながら新しい体験を生み出すための技術を磨いている。
ここが、従来の日本のものづくりとは大きく違うところで、ウェブの領域においては国内や自社内に閉じこもり、職人的に努力するだけではすぐに限界がきてしまうのだ。
実際、この分野では頻繁に世界中でカンファレンスやミートアップイベントが行われており、そこでエンジニアが盛んに意見をかわし、ネットワークを広げ、単なるスキルアップ以上に自身の研鑽を積んでいる。

この分野で活躍する人材は、従来型のビジネスを前提とした仕組みの中で勝手に育つものではない。国境がないウェブに関わる上では、人材もまた外に開かれ、世界と繋がっていることが自覚できる環境に身を置くことが求められるのだ。

P44
「デジタル・トランスフォーメーションの突破口は論より証拠」
「論より証拠」を示すことによって、クライアントの取り組み推進にドライブをかけることがでいたのだ。
今、デジタル・トランスフォーメーションを推進する上で多くの方々が頭を抱えていることの一つに、社内理解の醸成や迅速な意思決定の難しさがあるだろう。
いくら中期経営計画に「デジタル化対応が急務」と掲げていても、現実の組織や意思決定は旧来の仕組みで動いている。そのため、デジタルの特徴である「スピード」を完全に削がれてしまうことも多いのは事実だろう。

デジタル分野で数多くのプロジェクトを手がける中で痛感するのは、デジタルの前に立ちはだかるアナログなハードルの多さである。
それは各企業が、長い時間をかけてビジネスのシステムやプロセスを築き上げてきた証左とも言える。

容易に変えることは許されないし、許すべきではない面も当然ある。しかし、だからといってデジタル化への対応を遅らせていい理由にはならない。
今、最前線でそのジレンマと戦っている方々を目の当たりにする中で、従来の戦略策定だけではなく、こうしたウェブテクノロジーの活用、ないしそれにより生まれる「目に見える成果」を持って事業をドライブする組織能力なしにはこれらのハードルを超えられないと感じることが多い

P45
「デジタルでビジネスプロセスを変える」
RPAは従来の手順のままで取り入れられるため、導入や受容のハードルが低い。利用する側は自動化されて便利になったことを直接的に実感できる。
ところが、効果を感じやすい分、ツール導入そのものが自己目的化し、現場は入れただけで満足してしまう傾向がある。
重要なのは、導入した結果、どれだけの時間や人手が削減されたかだ。
1日のうち10分程度、作業時間が短くなったとしても、それで大きく残業時間が減るわけではない。

「本格展開で直面する壁」
RPA導入時によく見られるのが、次のような展開だ。
まず、半年程度かけてパイロット導入する。フィージビリティ・チェックを通じてうまく自動化できることが証明され、本格展開に進むことができる。
デジタル化推進チームが説明会を開き、対象案件を募集して順次導入することにしたり、各部門の現場担当者が各自で設計・導入できるように、パッケージ化したツールを用意して配布したりする。

ここまではいいのだが、問題は、RPA化の候補となる作業を洗い出した後である。対象件数が膨大なため、優先順位をつけずに走り出すと、実際に導入されたのか、誰がどこまで使っているのか、それでどのくらい効果が出たか、トラッキングしきれなくなる。

P47
「鍵は業務プロセス全体の見直し」
このような状況で、部門Bが業務効率化のためにRPAを導入しようとすると、自部門が担当している一覧化のプロセスのみが検討対象になる。
自動化すれば、確かにその作業の効率は上がるが、業務プロセスの見直しは行われない。
ここで本当にやるべきなのは、業務プロセス自体を見直し、あるべき姿を考えてみることだ。非効率な業務をそのまま自動化しても、部分最適にしかならない。

業務というものは、紙や人が介在すればするほど非効率になっていく。どうすれば省けるかという視点から、プロセス横断で効率化できる余地を発掘し、その業務を最適な部署に移管する。

デジタル化推進チームに適切な権限が与えられておらず、業務全体を見渡した効率化に踏み込めずに終わることも多い。

業務の簡素化、デジタル化、スケール化という手順で進めるのが、大きな成果に繋がる業務改革の要諦である。いずれかの業務で自動化の成功事例が一つできれば、類似業務にも導入するなど、適用領域は広げられる。提携作業に加えてAIなどを活用して高度な判断業務まで自動化すれば、さらにインパクトは大きくなるはずだ。

P48
第一にコスト効率の向上だけでなく、トップラインにも影響を及ぼせる可能性が出てくるからだ。

第二にデジタル化によって、担い手に求められる知識や経験も変わる。RPAやAIを使うのであれば、それなりのリテラシーが必要である。
これらのツールで何ができ、何ができないか。どこに限界があり、どんなミスが起こりうるのか。RPAによる処理が信頼できないのは、その本質を把握できていないためだ。さらに理解を深める必要がある。

そして最後の点として、機能単位の視点から全体を踏まえた発想へと
パラダイム転換を促すことができる。

スピードや変化への適応が求められる時代には、現場レベルでも全体的な視点を持てる企業の方が強さを発揮する。

P49
「全体最適の発想にシフトする」

プロセス改革はもともと、ボトムアップで進めるものなので、部分最適化しやすい傾向がある。

部門Bやグループ機能子会社との調整コストが大きいからである。部門や組織横断で取り組めるような環境整備が必要になる。

・共通目標を置き、合意をとる
そのために最も有効なのが、目指すべきカスタマージャーニーを共有することだ。銀行であれば、預金や決済、住宅ローンなど商品ごとに担当部門が違うかもしれないが、顧客からすれば全て同じ銀行である。顧客を起点に考えればここの部門や組織の論理を超えて全体最適の視点が持ちやすくなる。

・チーム編成に留意する
各部門のトップや担当者、時には役員に掛け合って部門横断的な活動を進めていく。一方、エキスパートはテクノロジーに精通し、技術的解決策を提案する。さらに、現場でオペレーション全般をよく理解し、プロセス分析に強い人員も必要である

「壁との対峙がスタートになる」
スピード感を持って進めたいならば、最初に、何をやるかについて現場や対象者に腹落ちさせることが大切だ。そして外交官とエキスパートを組み合わせた専任のチームを作り、ステージ1から業務改革を進めていくのが最短最速のやり方となる。
そのためには、経営層の見立てやコミットメントが不可欠になる。ビジネスプロセスのデジタル化がなぜ重要かということを十分にコミュニケーションし、側面支援をしていくことは、経営層の重要な役割である

P50
「デジタル化を契機に戦略的な間接部門へ」
デジタル化の次の波として、コーポレート昨日のデジタル化が論点になってくることは間違いないだろう。

・既存業務の効率化
複数のシステムから取り出した財務データをエクセルで統合するなど、加工して報告書を作成するような仕事も自動化の余地が大きい。

・付加価値の創造
定型業務の効率化はもともとIT化やデジタル化と親和性の高い領域だが、日本企業では後手に回ってきた。定型業務であっても、意思決定が必要な場合や機密情報を取り扱う場合には、基本的に正社員が担当する。パートやアルバイトなら人員削減も可能だが、効率化で生まれた余剰の正社員をどうするか、という出口の問題が付きまとうのがその要因だ。
そこで検討が必要となるのが、第二の方向性だ。既存業務の効率化に励むだけでなく、積極的に事業に貢献する戦略的なコーポレート機能へと、位置付けを変えていくのである。

「2段階でプロジェクトを進める」
コーポレート機能をデジタルの力で強化していく取り組みは、2つの方向性を視野に入れて段階的に進めていくとよい。最初に既存業務の効率化や生産性向上に焦点を合わせ、そこで生まれた余剰資源を用いて、事業推進に付加価値を与える位置付けに変えていくのだ。

例えば、基本的なデータであるにも関わらず社内の複数の部門で作成・蓄積され、個々の部門毎にバラバラに作業が行われるというようなケースでは、比較的自動化の効果が出やすい。また同じ会計システムを使っているのに、部門がまとめた四半期の数字と経営が出してくる数字が会わずに、経営判断ができないこともある。それは個別にエクセス集計などの処理が入っているからであり、こうしたところが狙い目になる。

P54
・プロセス
現状の業務フローに単純にAIやRPAを導入しようとしてもうまくいかないという悩みは多く、コーポレート部門の業務もその例外ではない。現状のフローを単純に置き換えるのではなく、そもそもAIやRPAがその効果を最大限発揮できるように、業務の作業手順を見直す必要がある。業務プロセスをどう再構築するかが極めて重要であり、頭の使いどころとなる。

・ベンダー・調達
デジタル化においては、その目的に応じて、スピーディーに動けて安価にトライアルができるベンダーを把握し選定することも必要になってくる

「戦略的なコーポレート機能へ」
いかに優秀なエンジニアやデータサイエンティストを確保するかは、デジタル化の推進において死活問題となっている

特にデジタル人材自体が武器になるウェブサービスやエンタテインメントなどの企業、グローバルでの人材獲得競争に晒されている企業、さらには、定型業務に従事する人員の母体数の大きい大企業などは、コーポレート機能のデジタル化に着手することが急務である

まずは小規模の予算を確保し、どれか一つ試すところから始める

コーポレート部門が、縁の下の力持ちとして事業部門を陰で支える守りの姿勢から、生産性を高め事業に直接的に貢献する攻めの姿勢へと変わるためには、デジタル化の流れに乗り遅れてはいけない。

P59
データを適切に扱える人材は、これから質的にも量的にも増やしていかなければなりません。具体的には「こういうプロモーション施策に使ってみよう」とか「こういうお客様満足度向上施策につなげてみよう」とか、データと仕事を結び付けられる人材です。

P68
全てを一度に優先順位なく実現する計画を立ててはいけない。優先順位の高いものの中から「スプリント」と呼ばれる最小の開発期間内に実現する内容を決める。スプリントの期間は2〜4週間程度のことが多い

一見、古典的なようだが、物理的に可視化することが、チーム全員で確実に共通の認識をもち、短いスプリントの期間で生産性を最大限あげるのに役立つ

「最も優先順位の高いニーズを満たして商品化」
アジャイルでは、最小限の付加価値の単位を「MVP(Minimum Viable Product=市場に提供可能な最小限の製品)」と呼ぶ。MVPを出荷した後は、顧客からの反応をみて、次のスプリントに活かしていく

アジャイル型での作り方はこうだ。まず「個人の移動手段」を作り出す上で最も優先順位の高いニーズだけを満たした製品として、キックボードを開発して市場に出す。すると、顧客からは「もっと早く移動したい」というニーズが上がってくる。そこで、次は自転車を作って売り出す。さらに「荷物も運びたい」という要望を受け、自動車を出すのである。

これまでの製造業の考え方では、例えば10の機能が必要であれば、その全てを完全に開発した上で新製品を発表した。アジャイルを活用した場合、納品先の要望などから優先順位を決め、まず3つの機能を装備した新製品を出すことが考えられる。

アジャイルとは「いち早く作るための手法」というだけではない。実はその真髄は「顧客と対話しながらチームで共同して成果を生み出す」ことを重視し、このサイクルを繰り返しながら変化に対応するということだ。

思想を取り込むのだと考えると、100の企業があれば100通りの導入の仕方があるということになる。

P74
「最終的には人間の感性が決める」
少子高齢化やグローバル化、情報技術の進化などの外部環境は、どの企業にとっても平等です。勝負のしどころは柔軟性とスピード感を持って、消費者が評価する商品やサービスを提供できるかどうかです。最終的には技術の進化で得たデータを見る人間の感性という事なんでしょうね
感性が柔軟性を生み出すわけですね。

P78
「デジタル・トランスフォーメーションを促す組織とヒトのあり方」
ここで重要になるのが、組織構造とヒトの働き方だ。既存のピラミッド組織では、問題点が出るたびに組織構造の上位にいる意思決定者に判断を仰ぐことになるが、それでは膨大な時間がかかってしまう。そこで「アジャイル・チーム」に一定の権限移譲をすることで、より現場に近いところで創意工夫を促すことが重要になる。従来型の組織構造では、この点が大きなチャレンジになるだろう。

「グローバル金融機関でのデジタル・トランスフォーメーションの実例」
最初の作業として顧客へのインタビューを基にこの領域に置けるE2Eでのジャーニーマップを作成する。総合口座の日常利用の場合、顧客は「金融機関の比較検討」「口座の開設」「口座の利用」などを体験する。これらの顧客体験を工程ごとに詳細に把握し、各工程におけるペインポイント(不快に・不便な点、悩みの種)や嬉しく感じた点などを紐解いていく。次に、洗い出されたペインポイントをシステムや事務オペレーションでどう解決していったら良いかを考え、全体的な打ち手を作る。システムや業務プロセスをどう変えたら良いかを検討し、それらの変革によりどのようなKPIを目指すかも明示する。

P84
「デジタル人材を確保するための3つのアプローチ」
こういった能力を持つ人材は、ウォーターフォール型のシステム開発や意思決定に慣れた従来型の組織では、必ずしも十分に評価されてこなかったり、周囲から見出されにくかったりしたと考えられる。

1,外部からのデジタル人材
デジタル人材は、ネームブランドや安定性にはあまり魅力を感じない傾向がある。日本の大企業は、優秀な人材が自社に憧れて向こうからやってくることに慣れているが、デジタル人材にとって大企業の名前は必ずしも大きな意味を持たない。企業側で、彼らに対して何をバリューとして提供できるのか、明確に定義してアピールしないと、優秀な人材は集まらない。ここが曖昧だと、どれほど採用プロセスを高度化して美しいパンフレットやビデオを作っても、非常に効率が悪い。
仮に、伝統的な日本の大企業が、ブランドや企業としての安定性をアピールしようものなら、「定年まで、安定した会社でのんびりしたい」というような自社が求めていないタイプの人材がきてしまうリスクがある。

第1に「仕事のやりがい・裁量」、第2に「技術的なチャレンジ」、第3に「海外でのオポチュニティ」であると考えている。

彼らは旧来型の上意下達の官僚的な組織の中では、十分な裁量権が与えられないのではないか」という警戒心が強い。

実績とスキルの向上を重んじるデジタル人材にとって大きなメリットになる要素だ。例えばAIの強化学習やブロックチェーンなど、将来のキャリアにプラスになるような先進的な技術の採用を目指しているというアピールは非常に有効と言える。
3つ目は、「海外でのオポチュニティ」だ。海外の提携先などでの武者修行や海外での新しいサービスの立ち上げにチャレンジする機会があるなどの要素が、大きなアピールポイントになる。

報酬はクリティカルな要素ではない。多くの人材は、報酬よりも「やりがい」を重視しており、無理に報酬水準を引き上げる必要はない。

デジタル人材は基本的に定年まで一つの会社に在籍するということは考えていない。

やりがい、裁量、技術的なチャレンジなどを、言葉だけではなく制度的に担保していることを示す必要がある

2、内部のデジタル人材の体系的育成プロセス
ここは本腰を入れて取り掛かろうとすると、かなり手間も時間もかかることを覚悟しなければならない

座学だけでは実践的スキルは身につかない

この発想や構想力で勝負する要素が強いデジタルサービスにおいて競争優位性を確保するためには、優秀な人材の確保は従来にも増して重要である

P89
データとアナリティクスの活用にはビジネス視点による「仮説」が必要
近年、あらゆるプラットフォームから膨大な情報を収集できるようになったにも関わらず、そのほとんどが経営判断に有効活用されていない。

では、どのように対処すれば良いのか。まず各部署の個人に散財しているデータを把握し、標準化する。

例えば「グーグルトレンド」を使えば、あるキーワードがどれだけ検索されているかが時系列でわかり、トレンド分析や需要予測に活用できる

「外部データ収集の自前主義の時代は終わった」
外部データの収集を自社のみで行う時代は、ほとんど終わっている。どのプラットフォームを利用するかによって競争力が変わるため、その見極めが重要だ

「仮説を定めた上でのデータ分析が重要」
データ偏重は、必ずしも経営の意思決定の精度を高めるわけではない。「入手データが増えるほど競馬は当たらなくなる」という研究があるが、これと同じく、あまりにも多いデータは意思決定の制度を低下させる要因となる。
例えば、ビジネス雑誌の定期購読サービスでは、4月や10月に解約が増える。どうしたら解約率を下げられるかという問題を分析する際に、切り口なく関連データを集めて分析しても、何も見えてこない。実際に解約率が高い収入層や年齢、タイミングなどから「仮説」を先に作り、打ち手まで考えた上で、データ収集を行うことが重要だ。

データ・サイエンティストはデータの扱いと分析のプロとして、与えられた命題の証明と検証をするのが役割である。当然ながら、命題を与える人がいなければうまく機能しない。
これに対して事業部門は、現場感とクリエイティブな発想で仮説をたて、データ・サイエンティストにお題を渡すとともに、出てきた結果を共同で解釈していくことが重要になる。

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デジタル戦略を策定する際には事業計画に合わせて5年のロードマップを検討することが多いのですが、5年後の世界を議論しても結局はあまり意味がないという結論になることがよくあります。むしろ18ヶ月のロードマップを精緻に描くことを重視した方が良いのではないかといつも感じています。

決済に必要なのはわかりますが、変化の激しいデジタルの性質を考えると、長期的な事業計画を精緻に組みあげることに過剰な時間を費やすのは、勿体無いことですよね。経営者には、その感覚知を理解できることが求められるのではないかなと。

人間の力って多様ですよね。価値とかバリューとかいう言葉にしてしまうと、ふわっとした印象になってしまうけど、ふわっとした印象になってしまうけど、自分にとって大切なこと、こだわれることをとことん突き詰められるいい時代になってきたのかなという見方もできます。

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