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GAFAの次の戦場は金融サービス業

Google, Apple, Facebook そして Amazon。これらの巨大企業は今なぜ金融サービス業を始めるのでしょうか。The PacemakersのマネージングパートナーであるAlessandro Hatami氏による記事を翻訳させていただきました。(Hatami氏の了承済み)


2002年、私は初めてのiPodを買った。
初めてのApple製品だった。それまで私はSonyのWalkmanを愛用していたが、iPodの方がかなり良いと感じた。
iPodで曲を聴く体験や曲を買う体験は素晴らしく、それ以来私はApple製品の虜となった。今ではiPhone, iPad, MacProを持つようになり、私の妻や子供達もみなAppleだ。家ではAirPlayが活躍し、家族団欒はAppleTVで。

この私のApple製品への依存はiPodがきっかけだった。今では私の生活の様々な場面でApple製品が登場するようになっている。

似たようなことが私とAmazonとの間でも起こった。私に2人目の娘がうまれたとき、"The Social Baby"という本をAmazonで買ったのがきっかけだ。Googleは、それがAltavistaやNetscopeより検索に便利とわかった時からずっと使っている。Facebookは11年前から使っていて、今も友人たちと連絡をとるのに欠かせない。

Google, Apple, Facebook, Amazon(GAFA)が私の生活に必要な存在になったのは、これらの会社が私の生活と関わるようになったからだ。彼らは私に他よりも良い手段を提供するため、彼らと私のつながりも強くなっていく。

GAFAがこれから金融サービス業に参入すれば、同じようなことが起こるだろう。彼らそれぞれのやり方は違えども、最終的に目指すのは「冷酷なまでに大きな価値を提供して顧客に依存させること」である。

これから、何がGAFAを金融サービス業へ駆り立てるのかをそれぞれ考察する。

Googleの場合

Googleが金融サービス業を始める最大の理由はデータの取得である。
金融サービス業の展開により、Googleはこれまでに手に入らなかった膨大な量のデータを手に入れる。このデータでGoogleは既存事業の利益最大化を図るであろう。

Googleが得る利益の大半は、クエリに対して関連する広告を置くことによってもたらされている。クエリと広告との関連の精度を高めることで、Googleはより多くの利益を得ることができるようになる。

さらに、顧客がGoogle検索を通じて物を購入したかどうかが把握できるようになれば、Googleは既存のppc(pay per click)モデルに加えてppa(pay per action)モデルでも収益を得られるようになる。

また、GoogleはこれまでにAIに多額の投資をしてきた。GoogleがこのAIと金融事業によって取得したデータを組み合わせて使うようになれば、ユーザーは金融サービスを選ぶのにGoogleを使わざるを得なくなるであろう。

Appleの場合

Apple が目指すのは、ユーザーにApple商品を買わせ続けることである。Appleは、より多くの接点でユーザーの生活と関わることでApple製品を通してユーザーの生活を管理することを目指している。

そのため、Appleは金融事業に足を伸ばす必要がある。これを成功させるためには、AppleはApple製品を通してのユーザーと銀行とのやりとりをより効率的に、またより快適に整備する必要があるであろう。

AppleはすでにユーザーにApple製品を使ってもらうためには「支払い」が大切であることにはっきり気づいているようで、ApplePayを世界展開させている。Appleがこれまでにレコード会社や電話会社の淘汰に成功したことを考えると、今回の金融サービス業進出にAppleが成功する可能性は大きいと言える。

Facebookの場合

Facebookはその収入の大部分を広告を売ることによって得ている。Facebookはユーザーが気になるだろう情報(その多くは別のユーザーによって作られたもの)を提供して、それに関連するような広告を一緒に表示する。ユーザーが長時間facebookを使えば使うほど、ユーザーは多くの広告を目にすることになり、結果的にFacebookの広告収入は大きくなる。

Facebookは今二つの理由で金融サービス業に進出しようとしている。

一つ目は、データの取得。金融サービス業を始めることで得ることのできるデータにより、広告のターゲティング精度を高めることができる。二つ目は、広告以外で利益を得るためだ。金融サービス業がうまくいけば、利益を得る手段が増えることになる。

Facebookはおそらく中国のWeChatを目指しているのであろう。WeChatを使ってユーザーは日常生活の様々なことを行うことができる。友人とチャットしたり、レストランを予約したり、物を買ったりベビーシッターに給料を渡したりと様々だ。WeChatを運営する騰訊の成功はFacebookにとって羨望に堪えない存在なのかもしれない。

Amazonの場合

Amazonは周知の通りすでに金融サービス業を行なっている。たとえば、Amazonは長年クレジットカードを提供しており、出店者たちの運営資金の管理も行なっている。直近ではJPMC(JPMorgan Chase)とともに当座預金口座の提供をローンチするとの発表があった。この発表は新しいことが始まろうとしている兆しであるといえる。

小売業者として、Amazonはたくさんの商品を売ることを目指す。当座預金口座を提供することにより、Amazonはより正確に消費者の金融的性格を把握することができ、それに基づいて消費者のスコアリングを行うことができるようになる。

このデータを活かしてAmazonは商品の販売を最適化することもできるが、スコアリングの本当の価値は「認証」と「格付け」にある。「認証」と「格付け」により、Amazonはその消費者にとって最適な金融商品を提案することができ、消費者は金融商品を普段のAmazonでの買い物と同じ方法で買うことができるのである。
ここでAmazonが消費者の画面に表示する金融商品は、あらかじめ第三者金融サービスや銀行がその消費者を「認証」したものだけだ。これにより、消費者は未だかつてない快適さで多彩な金融商品を購入することができるようになるのである。

JPMCとAmazonが提供する当座預金口座は、Amazonが金融商品を売るプラットフォームの一つ目にすぎない。この台本通りいけば、消費者が金融商品を探すときの第一想起を銀行ではなくAmazonがとる、ということになるかもしれない。

今後の展望

GAFAの金融サービス業進出に関して最も衝撃的だったのは、彼らが金融サービス自体から得られる利益に対してあまりこだわっていないということである。

これは、彼らが金融機関にはなろうとしていないということを意味する。規制という障害や、金融業界のルールの複雑さを考えると、彼らが金融機関になる意味は全くないということなのだろう。彼らが本当にいたいのは「金融機関と消費者の間」というレイヤーである。
その位置にいれば、ややこしい規制や大きな責任は全て金融機関に任せながら、彼らは求めていたユーザーデータとユーザーとのつながりを得ることができる。

金融サービス業界に進出する際に、GAFAや他の巨大IT企業たちは4つのアセットと1つの責任を持つ。

アセットとは、「何百万人ものアクティブな顧客」「何がユーザーを惹きつけるのかに関しての知見」「幅広い人材」「投資資金」であり、責任とは「自社のブランド」である。
GAFAのユーザーが新しい金融サービスを気に入らなければ、GAFAから既存のユーザーも離れていってしまうかもしれない。

ただ、仮に今回のFacebookの事件でユーザーの大幅な反動や規制強化が行われなければ、GAFAや巨大IT企業たちはブランドの棄損に慎重になる必要がなくなり金融サービス業への進出は成功するであろう。

GAFAの金融サービス業進出がうまくいけば、ユーザーは幅広い金融商品を低価格で購入することができるようになり、これはユーザーにとって素晴らしいことである。

そうなれば、ユーザーと銀行との関係性は大幅に希薄化し、「機能としての銀行」がだんだん現実味をおびてくる。このことは、既存の銀行の「コスト/利益」構造に衝撃を与えるであろう。

この激しすぎる変化に全ての銀行が対応できるとは思えまない。私たちはこれから大量の銀行の倒産や吸収合併を目にすることになるのだろうか。

銀行の明日には嵐が吹き荒れている。



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