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チャージしてきた

2023年3月10日、角野隼斗全国ツアー2023“Reimagine”(東京オペラシティコンサートホール)に娘と行ってきた。昨年4月のジブリコンサート以来なので、約一年ぶりの生演奏だ。
全16公演のこのツアーも今回で最後、千秋楽である。プログラムは公開されているし、ファンのツイートでいろいろネタバレしている。加えてこの日、NHKの「あさイチ」にご本人生出演で、さらに詳細な情報が流れていた。朝、テレビに出ていた人のステージを生で夜に見る、ってなんだか不思議な感覚だ。

余談だけど、「あさイチ」の構成は初めて彼を知る人にもわかりやすくまとめてあって良かったと思う。ピアノを習っていたという鈴木奈穂子アナの食いつきっぷりがすごかった。それにまさかゲーオタの過去映像まで流れるとはね。他にも“やっちまった”ツイートがフリップにされていて、本人完璧に見えて結構抜けてる、みたいな演出もあった。そういう部分は親しみがわくんじゃないかな。

で、ツアー最終日、ストリーミングでの配信も決まった。良かったー!配信があれば復習もできる。必死にメモを取らなくてもいいよ。
現地入りして気づいたんだけど、この会場は1階席がフラットなので後ろのほうだとステージが見にくい。アーカイブで見直しができるのは嬉しい。

調律師の按田さんが作業中

今回のツアーのプログラムは、バッハを始めとしたバロックからスタートし、オリジナル曲も挟み、カプースチンという作曲家の作品につながる流れになっている。ステージ上にはグランドピアノに加え、中身剥き出しのアップライトピアノが鍵盤を向かい合わせて置かれている。その間に椅子2つ。2台のピアノを行き来しつつ演奏を行うという前代未聞のスタイルである。

開演の時刻となり、拍手に迎えられて角野さん登場。まずはグランドピアノ側に座り、バッハインヴェンションの1番が始まった。基本だけど難しい、右手と左手がバラバラに動くやつ。普通に弾き終わったと思ったら、今度はアップライトに向き直りオリジナルアレンジで続ける。そうだよねー、こういう流れになるよね。アップライトの柔らかい音が響いている。

それが終わるとまたグランドピアノに向かい、左手でリズムをとりつつラモーの曲へ。同音連打が特徴的。次のグルダはスピード感があって、現代みを感じる。左手のパートが無いときはやっぱりリズムをとってる。バロックというとチェンバロでチョリリン♪とか、タリラン♪とか飾り(調べたらプラルトリラーとかモルデントっていうんだって)がついているような曲をイメージするんだけど、これらはそんな感じじゃないなあ。
ご本人、一度退場してからマイクを持って登場し、挨拶と今回のツアー“Reimagine”についてのMCを。

アップライトでの「追憶」。これの照明がピアノ脇の白熱電球一つという演出。国際フォーラムのときもスタンドライト一つだったっけ?暗い。影が演奏している。あさイチでも解説していたように、特殊なマイクが極小音を拾う。
それが終わるとすぐに「主よ、人の望みの喜びよ」が始まる。マイラ・ヘス編曲版、彼にとっては技巧的に簡単なんだろうけど、アレンジを加えることもなく淡々と楽譜通りに弾いていたと思う。

バッハのパルティータは組曲なんだけど…おばさんのポンコツ耳では“バロック”という大きな括りにしか聞こえてきませんで。両方のピアノを使い分けていたけどそれほどダイナミックな展開も無く、照明は暗く、音は心地良く。あー、意識が遠のく…というところで前半のプログラムが終了してしまった。えっ、もう終わり?と娘と顔を見合わせた。

20分間の休憩をトイレに並ぶことでつぶし(毎度毎度仕方ないよねー)、後半が始まるぎりぎりに席に戻る。
衣装替えをした角野さんが登場、「胎動」へ。途中で4つの電球がまぶしく光り、そこで初めて休憩中に電球スタンドが並べられていたことに気づく。

MCでは子供のころから宇宙が好きで、人間の脳と宇宙構造が似ているのがロマンチックだという話を。そこからオリジナル曲「Human Universe」へ。H.Uは尊敬するピアニストのイニシャル、とプログラムにあった。…ヒロミウエハラ。
バロック調のアレンジで始まり、壮大な展開へ。
この曲は初出じゃないけど今回のツアーの目玉だと思う。だけど、悲しいかなまたしてもおばさんのポンコツ耳ではなかなか記憶に残らなくて、アーカイブを繰り返し見て覚えようと思う。ってか、配信してくれぃ。

会場明るくなってMC。4本の電球スタンドの点灯について。これから演奏するバッハとカプースチンの曲には番号がついているので、それを2進法で表すと。プログラムに載っている4つの点も、これを表していると。あさイチでも解説していたので、大丈夫。理解している。

で、このカプースチンという方を私は存じませんで、Wikipediaで調べたら、父と同年生まれの人だった。YouTubeで探したらカールじいさんみたいな人の画像があった。楽譜をトレースしつつ音を流している動画もあって、えらく複雑な曲を、これまた目で追えないくらいの超高速で弾いていて度肝を抜かれた。いやこれクラシックというより現代音楽じゃ…?

ということでカプースチン、カプースチン、バッハ…みたいにサンドイッチのような新旧取り混ぜたプログラムが進む。カプースチンの曲にも同音連打のフレーズが混じっている。配信では電球越しの映像が美しい。「トッカティーナ」からのインヴェンションの13番がこんなに高速だったっけ?と思っていたらいつもの角野節になったり。曲の切り替え時の拍手とお辞儀も素早く、あっという間に終了してしまった。

一度退場→お辞儀→退場でステージが暗転。

4つの電球スタンドがゆっくりと点滅を繰り返して1から15までカウントしていく。●●●○、●●○●、●●○○、●○●●…。今回は16公演目。16は一桁足すことになるんだけど、どうするんだろう。全ての電球が消えてしばらくすると、2階のパイプオルガンの前にあった電球が1つ光った。2階下手から人影が。会場内に拍手とどよめきが起こる。

うわーーーーーーーー!

まさかーーーーーーー!

角野さんが徐にオルガンのコンソールの扉を開き、椅子に座る。厳かに「G線上のアリア」が始まった。終わるのかと思ったら別の曲へ。白状すると「Human Universe」のオルガンアレンジだったとは全然気づかず。
今回、生まれて初めてパイプオルガンの生演奏を聴いたと思う。音が降臨してくる。音は耳だけど、空気の振動は肌で聴く。娘曰く、ラスボス感がある!

配信があって本当に良かった。自分の席からじゃ座ってるのしか見えなかったから。ご本人、手元より足元(ベース音)を見て演奏していたんだね。会場で聴いたときはただただ圧倒されるだけだったけど、改めて聴くとすごい宇宙感がある。映画「インターステラー」のハンス・ジマーの曲を思い出す。
いやはや、最後にとんでもないことを仕掛けてきたぞ。

熱気を帯びた拍手鳴りやまず、観客スタオベ。

それをアップライトの「ダニーボーイ(ロンドンデリーの歌)」が一気に静めてしまった。本当に一瞬で熱気が凪いでしまった。
最後のMCでは、新しい取り組みへの心情と、裏で動いてくれたスタッフへの感謝を。そして本当に最後、恒例の撮影OK「きらきら星変奏曲」。

スタオベと何回かのカーテンコールで今回の演奏会は幕を閉じた。

アップライトピアノにサイン

ということで、久しぶりの生演奏で、どどんとエネルギーをチャージしてきた。やっぱり現地に足を運べて良かったな。まさかパイプオルガンの音を浴びるとは思わなかった。
おばさん、こういう知らない人でいっぱいの場所は苦手で、毎回ロキソニンを飲んで臨んでいる。だけど、考えたら観客は上機嫌な角野ファンばかり、という稀有な場所でもある。皆それぞれおめかしして、気合を入れて来ているのだ。

そういう空間は幸せに満ちていると思う。

毎回この場を整えてくれるスタッフの皆さんに感謝を申し上げたい。この会場の暗さでは配信スタッフはさぞかし大変だったと思う。お疲れ様です。配信終了させちゃうのはもったいないなあ。

大勢の人がこのパネルの前で写真を撮っていた
イラストが長場雄風味のキーホルダーをゲット

実はひと月と経たずに同じ場所に行きますわよ(昼の部)。

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