書き出しのノーリスク

はじめに

「探さないでくだちいさい」

机に置かれた紙にはそう書かれていた。辺りを見る。が、そこには当然ながら文字の主は居ない。

しかしこれは或る意味で好都合であった。もし此処に本人が居たならば、私は恐らく正気を保つ事が出来なかっただろう。それほどまで、この書置きには私を震え上がらせるモノがあった。

「普通誤字は直すだろうよ」

行き場を無くした声に逃げ場を。行き所を失くした声には霧散を。そこに映る暗闇に似た呆れが、ぽんと1つ零れる。

―――……いや、時間あっただろ。こんな手紙書こうだなんて思いつく時間あったんだから。何がムカつくって、誤字に対しての修正が横棒一本で済むと思っている所。なんつーか、この時の一部始終が想像できんだよな。”あーなぁんかただ失踪するには味気ねぇよな~。あっそうだ、探さないでくださいの手紙書いたろ。えぇと手ごろな紙は……あぁあった。……やっべ誤字った。書き直さんとな。……ん~めんどくせぇな。ちょいちょいと。これでいいや。”みたいな、その程度の流れだろうよどうせ。―――

微かに風が頬を伝う。

―――何で窓あけっぱでどっか行っちゃうのよ。―――

肌寒さを覚え、私はエアコンのリモコンに手を伸ばす。

―――窓開けてエアコン…?―――

ピーと、その場には似つかわしい機械音が流れる。

―――炊飯器保温のまんまじゃん。―――

また

―――冷蔵庫半ドア。―――

また

―――電子レンジに何か入ってるし。―――

また

―――”お風呂が沸きました”お風呂が沸きました!?―――

……こうしてはいられない。私は早足で玄関へ向かい―――

……五分くらいで帰ってくるだろ。これ。

導線上のソファに腰かけた。

第一章

飲み物寄りのカレー

忘れる以外の処分方法

買ったのに開けないんだから不思議なもんだね

お湯を入れて三分←嘘乙

第二章

五分間旅行

積ん読ではない。ないだけ

良く分かんない懸賞クイズ

造罵倒語

第三章

文字数との闘い

ナンバーワン(自社調べ)

ある部屋からの脱出

電子機器地獄

第四章

見えている過去

疎遠竹馬

事欠かない近親

ピザ喰いてぇ

第五章

満ち満ちてきました

先決めの弊害

なまじ広い心

食が楽しいのが悪いと思います

エンディングテーマ

ガラスの心

また逢う日まで

やぁまた逢ったね

いずれ

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