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今まで見てきたモキュメンタリーの話。

こんばんは。だだぐろです。
今回は僕の好きなモキュメンタリーというジャンルについて話します。

2022年末のモキュメンタリーの話。

昨年末、BSテレ東である特番が放送されていた。

『テレビ放送開始69年 このテープもってないですか?』という番組。
今のところTVerでしばらく見ることができそう。

3夜連続で放送していた番組で、いとうせいこうと井桁弘恵が視聴者投稿で集まった貴重な古いビデオテープを観て、テレビの歴史を振り返るというなかなか硬派な内容。

以下は番組概要。

かつて放送された伝説の番組も、今や処分されてしまってどこでも見ることができない!
そこで今回視聴者の皆さまから、それを録画したビデオテープを大募集!超貴重な映像を次々とお届け!1968年の超貴重なニュースにいとうせいこう、井桁弘恵も大絶叫 かつて放送された伝説の番組も、今や処分されてしまってどこでも見ることができない!そこで今回視聴者の皆さまから、それを録画したビデオテープを大募集!

と、番組の15秒CM。

ここまで見て、なんとも言えない違和感を持った人は正常だ。
これは「マトモな番組」の皮を被った、モキュメンタリー番組である。

気になった人はこの後の記事を読む前に、一度TVerで本編を見てくるといい。
一本30分×三本分で、なんとも異様なモキュメンタリーの世界を味わうことができる。

モキュメンタリーとは。

ここで一度モキュメンタリーというジャンルについて説明しておく。
といっても、だいたいWikipediaの下記一文で事足りる。

モキュメンタリー(英: mockumentary)は、映画やテレビ番組のジャンルの1つで、フィクションを、ドキュメンタリー映像のように見せかけて演出する表現手法である。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%82%AD%E3%83%A5%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%83%BC

最近は「フェイクドキュメンタリー」と呼ばれることの方が多いかも。
比較的ホラーとの親和性が高くて、
・実際にありえなそうな怪奇現象をあたかも真実かのようにドキュメンタリーとして描き、リアリティを持たせるタイプ
・普通の番組と思わせて違和感を散りばめ、その裏に隠された恐ろしい真実(フィクションだけど)が見え隠れするタイプ
の2パターンでホラー要素が描かれることが多い。

モキュメンタリー・ホラーはジャンプスケアが比較的少なめな印象。
作品にもよるが、じわじわ怖がらせてくる作品が多いので、急にビックリさせてくる「ジャンプスケア」が苦手でも楽しめる。

ここからは、僕が今まで観たモキュメンタリー作品をいくつか紹介していくなかで、モキュメンタリーの魅力を知ってもらいたい。

『このテープもってないですか』

冒頭でも紹介した、2022年末にBSテレ東で放送された作品。
視聴者から送られた昔の映像の中にある、深夜バラエティ『坂谷一郎のミッドナイトパラダイス』を見ていくうちに、すべてがおかしくなっていく。。という作品。

「ホラー」というか「狂気」といったニュアンスが強く、どんどんおかしくなっていく空気感を味わうのがこの作品の魅力だと思うんだけど、狂っていき方があまりにもわかりやすいのでちょっと笑ってしまう。

第三夜などは30分間ほぼ狂いっぱなしなので「何を見せられているんだ。。」という気持ちも湧いてくるが、「ああ、こいつもダメになっちゃったか」と微笑ましく見守るのもなかなか乙な楽しみ方だ。

この作品の独自性は、「昔のテレビ番組」と「それを観ている現代」という二重構造(もしくは「昔のテレビ番組の中の視聴者投稿映像」も含めた三重構造)になっているところ。

異様で狂ったよくわからないなにものかが『見て!聞いて!坂谷さん』のコーナーから『ミッドナイトパラダイス』へと染み出して、最終的には『このテープもってないですか?』までおかしくなっていく構図は、モキュメンタリーというスタイルをよく活かしていると思う。

モキュメンタリーとはそもそもフィクションを現実の世界と地続きに見せかけることによって、フィクションを身近に感じさせる手法なんだけど、
この作品では「フィクションと現実の壁」を「『見て!聞いて!坂谷さん』コーナー → 『ミッドナイトパラダイス』 → 『このテープもってないですか』」といった感じで疑似的に多重構造で作り、作中でその壁を越えて狂気が染み出していくことで、「『このテープもってないですか』 → 私たち」にももしかして狂気が染み出してくるのでは。。という切実なゾクゾクを感じさせてくれた。

あとは『見て!聞いて!坂谷さん』のコーナーで紹介される映像たちが不気味映像の見本市みたいになっていて、オムニバス的に色々な不気味映像を見ることができたのが楽しい。
個人的には「排水溝に呼びかける女」のゾクゾク感が好き。一体排水溝の中に何がいるんだ。。

『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』

『このテープ』の大森プロデューサーは、2021年末にもBSテレ東でモキュメンタリーホラー作品を手掛けていた。
それが『Aマッソのがんばれ奥様ッソ!』である。
(これも記事執筆時点ではTVerで公開されている。2023/1/23まで!)

奥様芸能人が悩める奥様のところにお手伝いをしに行き、そのVTRを同じく奥様芸能人のAマッソがスタジオで見るという番組。

この作品におけるホラー要素として、奥様芸能人が訪れる家庭がどれも大きな闇を抱えている。
番組スタッフにはその事実を隠して取り繕おうとするんだけど、時々それが漏れちゃうところがあって、視聴者だけがそれに気付いてほくそ笑む、という楽しみ方ができる。

先述したモキュメンタリーの2パターンでいうと、「普通の番組と思わせて違和感を散りばめ、その裏に隠された恐ろしい真実(フィクションだけど)が見え隠れするタイプ」が該当する作品。

この番組の独自性は普通の番組として見ても完成度が高く、ちゃんと面白いところだと思う。

悩める奥様のところにロケに行く奥様芸能人の金田朋子、紺野ぶるまがとにかく自然な演技。そしてロケ先の家族との距離をガンガン詰めて仲良くなっていく。
いつの間にか普通のドキュメンタリーのように登場人物にどんどん感情移入し、楽しめてしまう。

ただ、これには弊害もあって、この番組のフィクション部分はだいたい登場人物の誰かが裏で悲惨な目にあっているんだけどこれがとっても胸糞。
ドキュメンタリー部分でガシガシに感情移入している分、すごくいやなきもちになる。

とはいえドキュメンタリー部分もちゃんと楽しめるモキュメンタリーって今まであんまりなかったんじゃないかと思う。
だいたい「普通の番組と思わせて違和感を散りばめ、その裏に隠された真実(フィクションだけど)を考察するタイプ」の作品は、元の番組にはそこまで波風が立たないので長時間見ているとダレがちなんだけど、『奥様ッソ』はその意味でも一線を画している。

個人的には、ホラーとバラエティのバランスが『このテープ』よりもちょうどよくて好き。

『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』

『放送禁止』

このあたりは今手元に作品がないのでさらっと紹介する。
どちらもちょっと古めの作品。

『コワすぎ!』は、オリジナルビデオ作品。
『ほん呪』みたいなホラービデオ作品を作るスタッフ達の物語をドキュメンタリー形式で描く。

この作品の特徴は、登場人物たちが撮影しているのはホラーだけれども、『コワすぎ!』自体はどちらかというとコメディ色が強いということ。

ニコニコ動画でも配信されていて、一時期は作中の所謂「名言」がいろいろな動画のコメントに見受けられたりした。(「運命に逆らえってな。」「売れるぞこれは」など)

モキュメンタリーホラーが気になるけど、ホラーはちょっと苦手。。という人には手軽にモキュメンタリー感を味わえるいい作品。

『放送禁止』はフジテレビで不定期に放送されていた作品シリーズ。
『奥様ッソ』でもあった「普通の番組と思わせて違和感を散りばめ、その裏に隠された真実(フィクションだけど)を考察するタイプ」のわりと先駆者的な作品。

一度番組を一通り見た後に考察サイトなどを漁って、もう一度はじめから番組を見る、みたいな見方が楽しい。

『フェイクドキュメンタリー「Q」』

こちらはYoutubeで見ることのできる動画シリーズ。

ホラー系Youtube番組のトップを走る「ゾゾゾ」の発起人・皆口大地氏が、ホラー系映像監督・寺内康太郎氏と企画したシリーズ。

多種多様なフェイクドキュメンタリー動画をオムニバス形式で公開している。

『「Q」』のいいところは、短くて濃密なモキュメンタリー作品を短いスパンで摂取できる点。
わりとニッチなジャンルのモキュメンタリー・ホラーを大体月一くらいのペースで見ることができる『「Q」』はとても貴重。しかもモキュメンタリーは得てしてダレがちだが、10分20分の動画であればダレる心配もない。

それから、『「Q」』はいい意味で「和製ホラー」感を強く漂わせている。
日本が舞台だからというのももちろんあるのだが、ジャンプスケアや目に見える恐怖ではなく、目に見えない、それどころか何が怖いのかもよくわからないものにゾクゾクさせられる恐怖。

所謂「ジャパニーズホラー」的な奥ゆかしい恐怖を現代的にアップデートし、短い尺で突き詰めていくスタイルは、とても実験的であり、芸術的に見える。
その完成度からか、YoutubeのコメントやTwitterなどで考察が捗っているのも見どころのひとつ。

そんな『「Q」』は執筆時点で、シーズン2が始まったばかり。
気になる方は、常に新鮮なモキュメンタリーを追求する『「Q」』をリアルタイムで追いかけてみるのも楽しいと思う。

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