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【モチーフ小説】オレンジ色のガーベラ

さくらももこさんに捧ぐ。
あなたのエッセイで人生を知り、あなたの生き方に太陽のような普遍性を感じました。
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その女の子は、今日も笑顔を教室中に振りまいている。

最近のぼくはというと、その太陽みたいな彼女にすっかり夢中になっている。

はじめは「明るい笑顔」だなんて、そんなものがあるのか、例え話くらいにしか信じていなかったけれど、彼女の笑顔を見つめるうち、ほんとにぼくの心まで明るくなってくる。

それで、太陽みたいな人間っているんだなぁって、興味がでた。

しばらくすると、ぼくの興味が何か別のものに変わっていくのを感じた。

それは何かもっと、こそばゆい感じのもので、どうしたら、彼女の笑顔が今よりもっと沢山見られるだろうか、だなんて段々と考えだすようになった。

その事がぼくの頭にパサっと覆いかぶさって、勉強がすっかり身に付かなくなってしまったから困ったものだ。

ぼくの頭は一体どうかしてしまったのかと頭を抱えていたそんなある日、彼女は花飾りをつけて教室に入ってきた。

女子達が、すかさず周りに集まってくる。

あっという間に取り巻きの中心になった彼女は、

「えー、それどうしたの?かわいい!」

「とっても似合ってるね〜!」

とか何とか取り巻きにちやほやされるのを上手く振りほどいて、僕の隣にちょこんと座る。

それで横からぼくを眺めてくるものだから、ちょっとばかし頭が沸騰してしまった。ほんとに困ったものだ。

「ねぇ、あのさ。この花って知ってる?」

彼女が頭の花飾りを指差して、ぼくに問いかける。

「うん、知ってるよ。ガーベラっていうんだ。」

「へぇ、ガーベラかぁ。なんだか上品な名前だねぇ。じゃあさ、ガーベラの花言葉って知ってる?」

「ううん、知らない。今日の放課後、図書館に行く用事があるから、調べてくるよ。」

「えーありがとう!あしたが楽しみだなぁ。」

教えてあげたら彼女は笑顔になるかな。

ぼくのほうこそ楽しみだった。


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「ごめんねぇ。花言葉の本が、ちょうど借りられちゃってさ。もしかしたら図鑑に載ってたりするかもしれないけれど。本が返ってくるのを待つかい?」

ぼくは、あしたの笑顔のために図鑑を広げることにした。

花言葉の本は1冊しか置いてないのに、花図鑑は色んな種類のものが置いてあった。

これは、けっこう骨が折れそうだぞ。

まずはこれ、次はこれ、その次はこれ、と手際よくやれたら良かったんだけど、ガーベラのページだけでも結構ある。

きっと世の中には、花の中でもガーベラだけを研究しているようなハカセがいて、そのハカセのお陰で、図鑑が作られたりして。

そう考えると大人って、やっぱりエラいのかもしれない。

ふと、窓を眺めると、空がすっかり夕焼けに染まっていた。

最近は勉強にも集中できなかったぼくが、久しぶりに本に夢中になっていた。

でも、やっと半分くらいの図鑑は調べたけれど、花言葉なんて全然書かれていない。

笑顔への道は険しいなぁ、なんて考えてたら、いきなりその目当ての笑顔がぼくの前に現れるんだから、びっくり仰天。

勢いあまって椅子から転げ落ちてしまうほど。

「ちょっと、大丈夫!?」

彼女がぼくの腕を掴んで立たせてくれる。

「うーん、なんとか。それより、どうして?」

「そこの道歩いてたら、すごい集中した顔で図鑑に食い入ってるんだもん。まだ見つかってないんでしょ?いっしょに探そうよ!」

ぼくは嬉しくて、これまでの疲れなんか吹っ飛んじゃった。

そして、日が暮れかかった頃、最後に調べた図鑑にガーベラの花言葉を見つけたんだ。

「えっとー、花言葉はね、キュウキョクビ。【究極美】だって・・・。あたしとはかけ離れてるなぁ。」

「ちがう。ほら、キミのガーベラ。どっちかっていうとオレンジ色だろ。どれどれ・・・オレンジのガーベラは西洋の方じゃ【太陽】だって言われてるって・・・。」

ここで、ぼくは少し鳥肌が立ったけど、それはナイショ。

「太陽かぁ・・・。でもそれもあたしには似合わないよねぇ。」

なんて言いながら笑う彼女の横で、ぼくは急に真剣な表情になる。

「ううん、似合ってるよ。キミの笑顔を見てるとぼくは心がぽかぽかする。ぼくにとって、キミは太陽だ。」

みるみる赤くなって沸騰しそうになった彼女の顔が、まさしく太陽みたいで、ぼくは笑ったんだ。


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今日、そんなキミは天国へと旅立っていった。

あの後、何年か経って、僕たちはお付き合いをはじめて、やがて結婚した。

キミと過ごす生活の中で、僕はキミの笑顔を沢山見ることができた。

そんな笑顔が消えてしまうのは寂しくてたまらないが、キミの人生はまさしく、ガーベラの花言葉のようだったよな。

キミは、僕の人生を照らし続ける太陽だった。

そして、これからも太陽であり続けるだろう。

でもね。
これからもずっと、
その笑顔が見られるとしても、
遺影を飾るのは、少し寂しすぎる。


代わりに僕は、
オレンジ色のガーベラを、
生けることに決めた。


僕は書斎のドアをあける。


あのとき2人で開いた
図鑑の隣に供えられたガーベラが、
窓から入る夕日に照らされて、
恥ずかしそうに笑った。


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